表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
7/31

第7話「かかってきた猛者たち」

翌日の放課後、楽器屋の裏手にある空き地に集合することになった。


ZEROが「場所はここで」と勝手に決めた。理由を聞いたら「雰囲気がある」と言った。


(雰囲気て。)


集合時間の午後四時、俺とZEROが空き地に着くと、すでに三人が待っていた。


一人目は四十代くらいのおじさんだった。ギターケースを背負って、目がギラギラしている。


「張り紙見ました。ギターやってます。よろしく」


(おじさん。)


ZEROが「何歳ですか」と聞いた。


「四十二です」


「帰ってください」


「え?」


「高校生のバンドなんで」


おじさんは傷ついた顔をして帰っていった。申し訳なかったけど、俺も何も言えなかった。


二人目は同い年くらいの男子だった。髪を高く逆立てて、目の周りを真っ黒に塗っている。見た目は完璧だった。


「ドラムやりたいんですけど」


「ドラムできるん?」


「これから練習します」


「帰ってください」


これも即決だった。


三人目はまた女の子だった。昨日とは別の子だ。こっちもかわいかった。


(また来た。)


俺が少し前のめりになったら、ZEROがまた俺の肩を押さえた。


「何やるん?」


「ベースです」


俺はZEROの肩を掴んだ。


「待て」


「なんや」


「ベースって言ったぞ今」


「聞こえた」


「じゃあ帰らせるなよ」


ZEROは女の子をじろじろと眺めた。女の子は少し緊張した顔をしていた。


「弾けるん?」


「半年くらいやってます」


「半年か」


ZEROは腕を組んだ。俺はZEROを睨んだ。帰らせたら承知しないという目で睨んだ。


ZEROはため息をついた。


「また連絡します」


女の子は「はい」と言って帰っていった。去り際にちょっと笑ってくれた。かわいかった。


(次点に入れといてくれ。)


その後しばらく誰も来なかった。


日が傾いてきた頃、もう誰も来ないかと思い始めた。


そのとき、空き地の入り口に一人の男が現れた。

同い年くらいだった。背は俺より少し高い。髪はそこまで派手じゃないけど、目つきが鋭い。ギターケースを無造作に肩に担いでいる。歩き方からして違った。地面を踏みしめるような、妙に堂々とした歩き方だった。


男は俺とZEROを交互に見てから、開口一番こう言った。


「張り紙見た。俺の方がギター上手いと思うけど、一応来た」


(なんやこいつ。)


ZEROが眉を上げた。


「名前は?」


「斉藤健」


「バンド経験は?」


「二つ。どっちも解散した」


「なんで?」


「俺以外が下手やったから」


(こいつ…。)


ZEROは少し考えてから俺を見た。俺も斉藤を見た。斉藤は俺を見ていた。


「弾いてみて」と俺は言った。


斉藤はギターケースを開けた。中から出てきたのは傷だらけのレスポールだった。愛着の滲み出た傷だった。


斉藤はアンプも何もない状態で、生音でリフを弾き始めた。


(うまい。)


素直にそう思った。音に迷いがない。指の動きに無駄がない。


でも俺は黙っていた。


「どや」と斉藤が言った。


「まあまあやな」


斉藤の目が細くなった。


「まあまあ?」


「まあまあ」


「お前も弾いてみろ」


「アンプないで」


「言い訳すんな」


(こいつ…!)


俺はギターケースを開けた。あの日楽器屋のおじさんから買った、傷だらけのフェルナンデス。俺も生音で弾き始めた。


斉藤が俺の指を見ていた。俺も弾きながら斉藤の顔を見ていた。


弾き終わった。


沈黙が三秒続いた。


「…互角やな」と斉藤が言った。


「そっちこそ」


「認めてへんけどな」


「俺もや」


「次会ったときは絶対勝つ」


「来い」


ZEROが二人を交互に見てから、満足そうに頷いた。


「決まりやな」


斉藤が眉をひそめた。


「俺、こいつと張り合いながらやるのか」


「問題あるか?」


斉藤はしばらく俺を見てから、小さく舌打ちした。


「…ない」


(ある顔してるけどな。)


「ステージネームは?」と俺は聞いた。


「凱」


「凱か」


「文句あるか」


「ない」


凱はギターケースを閉めながら、もう一度俺を見た。


「次会うときまでに上手くなっとけよ」


「お前がな」


凱は小さく鼻を鳴らして、空き地を出ていった。

ZEROがにやにやしながら俺を見た。


「ええやん」


「何が」


「あいつ、本物やろ」


(まあそうやけど。)


「認めてへん」


「顔に書いてあるで」


俺は黙った。


夕日が空き地に差し込んでいた。


(ツインギター、揃ったか。)


まだ認めてないけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ