第7話「かかってきた猛者たち」
翌日の放課後、楽器屋の裏手にある空き地に集合することになった。
ZEROが「場所はここで」と勝手に決めた。理由を聞いたら「雰囲気がある」と言った。
(雰囲気て。)
集合時間の午後四時、俺とZEROが空き地に着くと、すでに三人が待っていた。
一人目は四十代くらいのおじさんだった。ギターケースを背負って、目がギラギラしている。
「張り紙見ました。ギターやってます。よろしく」
(おじさん。)
ZEROが「何歳ですか」と聞いた。
「四十二です」
「帰ってください」
「え?」
「高校生のバンドなんで」
おじさんは傷ついた顔をして帰っていった。申し訳なかったけど、俺も何も言えなかった。
二人目は同い年くらいの男子だった。髪を高く逆立てて、目の周りを真っ黒に塗っている。見た目は完璧だった。
「ドラムやりたいんですけど」
「ドラムできるん?」
「これから練習します」
「帰ってください」
これも即決だった。
三人目はまた女の子だった。昨日とは別の子だ。こっちもかわいかった。
(また来た。)
俺が少し前のめりになったら、ZEROがまた俺の肩を押さえた。
「何やるん?」
「ベースです」
俺はZEROの肩を掴んだ。
「待て」
「なんや」
「ベースって言ったぞ今」
「聞こえた」
「じゃあ帰らせるなよ」
ZEROは女の子をじろじろと眺めた。女の子は少し緊張した顔をしていた。
「弾けるん?」
「半年くらいやってます」
「半年か」
ZEROは腕を組んだ。俺はZEROを睨んだ。帰らせたら承知しないという目で睨んだ。
ZEROはため息をついた。
「また連絡します」
女の子は「はい」と言って帰っていった。去り際にちょっと笑ってくれた。かわいかった。
(次点に入れといてくれ。)
その後しばらく誰も来なかった。
日が傾いてきた頃、もう誰も来ないかと思い始めた。
そのとき、空き地の入り口に一人の男が現れた。
同い年くらいだった。背は俺より少し高い。髪はそこまで派手じゃないけど、目つきが鋭い。ギターケースを無造作に肩に担いでいる。歩き方からして違った。地面を踏みしめるような、妙に堂々とした歩き方だった。
男は俺とZEROを交互に見てから、開口一番こう言った。
「張り紙見た。俺の方がギター上手いと思うけど、一応来た」
(なんやこいつ。)
ZEROが眉を上げた。
「名前は?」
「斉藤健」
「バンド経験は?」
「二つ。どっちも解散した」
「なんで?」
「俺以外が下手やったから」
(こいつ…。)
ZEROは少し考えてから俺を見た。俺も斉藤を見た。斉藤は俺を見ていた。
「弾いてみて」と俺は言った。
斉藤はギターケースを開けた。中から出てきたのは傷だらけのレスポールだった。愛着の滲み出た傷だった。
斉藤はアンプも何もない状態で、生音でリフを弾き始めた。
(うまい。)
素直にそう思った。音に迷いがない。指の動きに無駄がない。
でも俺は黙っていた。
「どや」と斉藤が言った。
「まあまあやな」
斉藤の目が細くなった。
「まあまあ?」
「まあまあ」
「お前も弾いてみろ」
「アンプないで」
「言い訳すんな」
(こいつ…!)
俺はギターケースを開けた。あの日楽器屋のおじさんから買った、傷だらけのフェルナンデス。俺も生音で弾き始めた。
斉藤が俺の指を見ていた。俺も弾きながら斉藤の顔を見ていた。
弾き終わった。
沈黙が三秒続いた。
「…互角やな」と斉藤が言った。
「そっちこそ」
「認めてへんけどな」
「俺もや」
「次会ったときは絶対勝つ」
「来い」
ZEROが二人を交互に見てから、満足そうに頷いた。
「決まりやな」
斉藤が眉をひそめた。
「俺、こいつと張り合いながらやるのか」
「問題あるか?」
斉藤はしばらく俺を見てから、小さく舌打ちした。
「…ない」
(ある顔してるけどな。)
「ステージネームは?」と俺は聞いた。
「凱」
「凱か」
「文句あるか」
「ない」
凱はギターケースを閉めながら、もう一度俺を見た。
「次会うときまでに上手くなっとけよ」
「お前がな」
凱は小さく鼻を鳴らして、空き地を出ていった。
ZEROがにやにやしながら俺を見た。
「ええやん」
「何が」
「あいつ、本物やろ」
(まあそうやけど。)
「認めてへん」
「顔に書いてあるで」
俺は黙った。
夕日が空き地に差し込んでいた。
(ツインギター、揃ったか。)
まだ認めてないけど。




