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第6話「どうやってメンバー集めんねん」

翌日の昼休み、ZEROが俺の席に突撃してきた。


「なあ、バンド名どうする」


「メンバーもまだおらんのに?」


「名前から決めんと気持ち悪いやろ」


(この男のテンポについていくのしんどい。)


「とりあえずメンバー先やろ。ギター俺、ボーカルお前、あとベースとドラムとギターがもう一本いる」


「ツインギターか、ええな」


ZEROは腕を組んで考える顔をした。三秒後に言った。


「メンバーってどうやって集めんの」


(お前が聞くんかい。)


俺は少し考えた。現代なら話は早い。SNSで告知して、音楽系のアプリで募集して、動画上げて実力見せて。一週間もあれば候補が何人か集まる。


でもここは1982年だ。


(SNSがない。アプリがない。動画がない。)


「張り紙とか?」


「張り紙」


「口コミとか、楽器屋に貼らせてもらうとか」


ZEROは「なるほど」という顔をした。


「あの楽器屋、コルクボードあったな」


「そこに貼らせてもらおう」


「文言どうする」


俺はノートを取り出して考えた。現代のメンバー募集なら、音楽性、影響を受けたアーティスト、活動頻度、目標、連絡先。それくらいを簡潔にまとめれば十分だ。


でもZEROが横からノートを奪った。


「俺が書く」


「え、ちょっと待って…」


止める間もなかった。ZEROはすらすらと書き始めた。俺はそれを横から覗き込んで、固まった。


『本気でロックの頂点獲りに行くバンド、メンバー絶賛募集中!! 軟弱者、根性なし、夢なき者は去れ!! 我こそはと思う猛者、かかってこい!! 当方ZERO(Vo)恋(Gt) 連絡先:木下方 TEL ○○○○-○○○○』


(個人情報が。)


心の中でもう一個叫びたいことがあった。


ハードロックって書くのもなんか違う気がして、結局ZEROに任せてしまった。俺がやりたいのはハードロックとも違う、もっと退廃的で妖艶な何かなんやけど、この時代にはまだその言葉がない。


「ちょっと待って、自宅の電話番号載せるん?」


「当たり前やろ、どうやって連絡取んねん」


(そりゃそうか。)


でも待って。自宅の電話番号を紙に書いて、不特定多数の人間が集まる場所に貼るということは、知らない人間が家に電話してくるということだ。


(プライバシーが。)


「なんや、嫌なんか」


「いや…まあ、ええか」


ここは1982年だ。個人情報保護法なんてものはまだ存在しない。みんなこうやってつながってきた時代だ。


(割り切るしかない。)


放課後、二人で楽器屋に向かった。店主のおじさんにお願いしたら、あっさりコルクボードに貼らせてもらえた。


「バンドか、頑張りや」


それだけ言って、おじさんは奥に引っ込んだ。


俺とZEROは並んでコルクボードを眺めた。他にも何枚か張り紙があった。『ドラマー求む』『ベーシスト募集、本気の奴のみ』。みんな似たようなことを書いている。


(この時代、みんなこうやってバンド組んでたんか。)


なんか感慨深かった。ネットも、SNSも、マッチングアプリも何もない。紙切れ一枚と電話番号だけで、人と人がつながっていた時代。


「来るかな」


思わず呟いたら、ZEROが即答した。


「来る。俺たちの張り紙やぞ」


(根拠ゼロ。)


でもなぜか、その自信が少しだけ頼もしかった。

翌日の放課後、楽器屋の裏手にある空き地で待っていると、最初に来たのは女の子だった。


かわいかった。


セーラー服に黒いリボン、少し癖のある茶色い髪。ライブハウスにいそうな、ちょっと大人びた雰囲気がある。


(かわいい。)


俺が思わず前に出ようとした瞬間、ZEROが一歩先に出た。


「何やるん?」


「ボーカルです。張り紙見て」


「ボーカルはおります」


「でも私の方が…」


「帰ってください」


女の子はきょとんとした顔をして、それから俺を見た。助けを求めるような目だった。


俺はZEROを見た。ZEROは涼しい顔をしていた。


(お前な。)


女の子は「そうですか…」と言って帰っていった。去り際にもう一度俺を見た。なんか申し訳なさそうな顔だった。かわいかった。


俺はZEROに向き直った。


「なあ」


「なんや」


「今の子、ちょっと待てんかったん?」


「ボーカルは俺やろ」


「そうやけど!」


「なんや、気に入ったんか」


「そういう話じゃなくて!」


(そういう話でもあるけど。)


「あのな」と俺は続けた。「俺、今の高校生活で初めてかわいい子に話しかけてもらえそうやったんやぞ。わかるか。ああいうチャンスが全てなんや。それをお前は」


「うるさい」


「うるさいじゃなくて!」


「バンドに恋愛持ち込むな」


ZEROは至って真剣な顔でそう言った。


俺は空を見上げた。


(童貞卒業のチャンスが。)


夕焼けが綺麗だった。


その後も何人か来たが、全員ZEROに即却下された。基準がよくわからなかった。


家に帰ると、母親が不思議そうな顔をしていた。


「蓮、夕方に知らない人から電話あったで。バンドの張り紙見たって」


俺は思わず声を上げた。


「もう来た?!」


「なんか怖い声やったけど」


(怖い声。)


俺はゆっくりと深呼吸した。


(これが1982年のメンバー募集か。)


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