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どなたか王様の秘書セバスチャンを知りませんか?  作者: 蜜柑缶


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98 再び王都へ1

 エカードの町を出る日、まだ留まってくれているバナンとゲイルに子供達を託した。

 今は毎日魔物の回収の手伝いをし町の人とも顔見知りが増え可愛がってもらっているようだ。小さい子達も私の畑で働く人達の為に用意した寮で掃除や料理の手伝いを教わりながら元気に過ごしている。

 

 皆に別れを告げ馬車へ乗り込むと砦の検問へ向かった。来るときと違い騎士団に囲まれ馬車の中にはシーラスとイングバルがいる。

 砦に到着すると当たり前のように検問は無くすぐに中へ通された。私が土地を買う計画はイングバルも分かっていたのですぐに脇にある部屋へ案内されると机には既に契約書が用意され後はサインするだけだった。

 

「もうローズマリー様の名義でかまわないでしょう。エドワード様にとりあげられる心配はもうありませんから」

 

 シーラスがそう言って私にペンを差し出した。

 

 そうだった。そもそもお父様に見つからないようにシーラスに名義を貸してもらうように頼んでいた。ゾルガーに戻るならそれは無用の心配だ。

 

「ん……ローズマリー・リード、よね」

 

 戻ると決めたもののまだ正式ではない私がゾルガーとサインするわけにはいかないだろう。最初で最後の正式なローズマリー・リードのサインに何故か満足感がある。初めて買った土地はジョシュから買い取ったものがだあそこの契約には便宜上ロージーとだけサインし保証金を払い身分を明かさず買ったものだ。

 

 その契約書をイングバルは何故かしみじみと眺める額に入れて壁に飾った。

 

「本来なら持ち帰りたいですがここにこうして記念として置いておきましょう」

 

 本来なら書類箱に放り込むものでしょ、変人の考えることはよくわからない。

 

 騎士団を残し私の乗り込む馬車だけが元国境の町バルクへ向かうため検問を通過しようとしたとき久しぶりのラッテンリットを眺めようと窓を開け外を見た。

 

「ロージー!!無事だったかぁ……」

 

 そこには心配そうな顔をしたジルドがスレイプニルのリュリュを連れ待ってくれていたようだ。馬車を止めてもらうと御者がドアを開け素早くイングバルが出てシーラスが続いて降り、その後私の手を取り馬車から降ろした。

 

「えぇ?!」

 

 すっかり厳重に脇を固められたお貴族様仕様の私を見てジルドは固まった。

 

「ごめんなさい、後で詳しく話すわ。とにかく屋敷に帰ってからね」

 

「あ、あぁ……ルーがかんかんに怒ってたぞ」

 

 ゾッとすることを言われ身震いした。気を取り直し再び馬車へ乗り込むとジルドの先導で屋敷へ向かった。

 

 砦から数時間、久しぶりの我が家だ。

 まだあまり馴染みは無いがルーやヘクターが待ってくれていると思うとホッとする。

 

「ポ……」(はぁ……)

 

「パフ、ため息つかないで」

 

「ポッポ」(これはやっと二人から解放される安堵のため息だ。ここからロージーが直接対決するのだぞ、頑張ることだ)

 

 もう〜、他人事にしないで一緒に叱られてよ!まぁ、いない間はパフが一人で引き受けてくれてたんだから仕方ないけど……

 

 門をくぐりヘクターが待つ玄関前に馬車をつけると御者がドアを開いた。

 

「ここがローズマリー様のお屋敷ですか」

 

 感慨深そうにイングバルが降り続いてシーラスが降りる。するとヘクターが私に手を差出し馬車から降ろしてくれた。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

「只今戻りました。不在の間は何も変わりありませんか?」

 

 深々と頭を下げ迎え入れてくれたヘクターが私を屋敷の中へ迎え入れつつ答える。

 

「はい、お嬢様。これほど長くご不在(・・・・・)とは思いもよりませんでしたが屋敷内は滞りなく」

 

 なんだか棘がある気がするが気の所為では無いだろう。

 

「お嬢様、お帰りなさいませ」

 

 玄関ホールで待ち構えていたルーの目が据わっている気がするのも気の所為ではないだろう。

 

「た、只今戻りました。連絡も出来ず心配かけましたね」

 

 顔が引きつるのを感じながら何とか平静を装った。

 

「お嬢様、こちらの方は?」

 

「その方は騎士団の魔術部隊長イングバル・ラーション様です。応接室へご案内してください」

 

 ヘクターがシーラスと共にイングバルを応接室へ案内している間にルーが着替えと称して私を二階にある私の部屋へ連れ込んだ。ヒィィ怖い!

 

「どういうことなのです!!ちょっと行って来るという感じでお出かけなさったのにこんなにいつまでもなんのご連絡も無しに留守にされて!パフがトボけた顔でジッと暖炉に止まっているから恐らく無事であるとはわかっていましたが連絡くらいはよこすものです!」

 

「ごごごめんなさい私も急なことに巻き込まれてこれほどかかるとは思ってなくて、忙しくてつい……」

 

 必死に言い訳したが更に追い討ちをかけるように詰め寄られ身構えるとルーは突然ボロボロと涙を溢した。

 

「私は……私はまた置いていかれてしまったのかと……」

 

 前に城から逃げ出した時、これからの暮らしの先行きを考えるとルーを連れて行くわけにはいかなかった。次に再会した時はシーラスの屋敷で私が魔力を使い過ぎ寝込んでいたときだ。ルーには心配ばかりかけている。

 

「ごめんなさい、泣かないで。もう黙ってルーを置いていったりしないわ。ホントに急なことが続いて、今度からパフが何とか状況を伝えられるように考えるから、ね」

 

 慌ててルーを抱き締めた。

 

「今度、私に鳩語を教えて下さい。あの鳩と来たらすまして暖炉の端に止まっているだけなのですよ」

 

 グスグスと鼻を鳴らしたルーが私を一度ぎゅっと抱き締めゆっくりと離れた。

 

「鳩じゃなくてパフよ。鳩語は私にもわからないわ」

 

 やっと泣き止んだルーが落ち着きを取り戻し私を着替えさせる。シンプルなワンピースを着ていたがイキナリ貴族仕様のドレスを着せられちょっと驚く。

 

「これ何?」

 

「なんでもアントンという者からの品でジルドが持ってきましたの。これから必要だろうからって。お嬢様のドレスは確かに不足していましたし、シンプル過ぎるものばかりでしたから購入しておきました」

 

 アントン……なんて抜け目のない。確かにこれから城へ戻るつもりの私には必要な物かも。ゾルガーに戻るならなおさらだ。

 

「ルー、大事な話があるの。ヘクターにも聞いてもらわなければいけないから一緒に来て」

 

 二人で応接室へ行くとヘクターがシーラスとイングバルをもてなしてくれていた。イングバルは私を見ると喜んで微笑んだ。

 

「先程までのお姿も可憐でしたがやはりドレス姿は大変お美しいですね」

 

 彼の言葉に何故か他の三人がこっくり頷く。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 一応お礼は言ったが社交辞令だということは承知している。そんなことより……

 

「ヘクター、少しいいかしら」

 

 応接室のマントルピースには屋敷に残していたパフがちょこんと止まっていて可愛い……

 そこへ側にいたパフが飛んでいくと並んで落ち着いた。

 

 はあぁぁ、なんて可愛いの……

 

 思わずぼうっと見惚れてしまったが気を取り直しヘクターとルーを側へ呼んだ。

 

「わたくしはこれから城へ戻ってゾルガー一族へ復帰しようかと思っています」

 

 思いきって言い切ると二人を見た。ヘクターはスッと視線をシーラスへ向けた。

 

「シーラス様、あれ程お頼み致しましたものを……」

 

 悔しげに顔を歪ませる彼に対してシーラスは涼しい顔だ。ルーは複雑そうな顔をした。

 

「それはお嬢様が魔術を使えると旦那様に知られたという事でしょうか?」

 

「そうよ、噂を聞きつけたお父様が私の廃嫡を取り消したいと王へ申し出たそうよ。王もそれを承知された」

 

 ルーは手を握りしめまた泣きそうな顔をした。

 

「それではお嬢様がまた旦那様の言いなりになられるということですか?」

 

 私が『無能者(むのうしゃ)』として屋敷に閉じ込められ、王都へ呼び寄せられてからも娘としての扱いには程遠かった事を目の当たりにしていたルーは城へ戻ることには反対だろう。

 

「そこは心配無用だ」

 

 イングバルがニヤリとし、手にしたカップをテーブルへ置いた。

 

「これからは私がローズマリー様をお守りする。エドワードの好きにはさせぬ」

 

 ルーは驚いた後、真剣な顔でイングバルを見た。

 

 

 

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