97 王都の企み4
城の騎士団棟にある通信室へ入っていった。部屋の中には常時魔術師が待機しいつでも各地の砦や重要都市と連絡がつけるようになっている。
なんの前触れもなく騎士団長が自らドアを開け入ってきたことになかに常駐していた魔術師が慌てて座っていた椅子から飛び上がった。
「旧ウギマとの国境の砦だ」
ギデオンが直ぐに魔術師に命じて連絡を取らせる。通信装置は部屋の中央にある台の上に設置してあり魔法陣の上に幾つかの魔石が円形に並び魔術師がそこに手を添え魔力を込めるとぼんやり光出した。
「こちらは王都のギデオンだ、火急の要件だ、エカードへ魔物の侵攻があるとの情報が入った」
声だけを遠く離れた場所へ伝えることが出来る装置の光が何度かまたたき一拍置いて返事がした。
「こちらは砦です。直ぐに確認して参ります」
それだけいうと通信が切れた。魔法陣に手を添えていた魔術師は少しホッと息を吐く。
「通信ってそんなに疲れるのか?」
いつもはレーンに任せっきりであまり通信が行われている所へは足を運ばなかった。辺境部隊で戦っていたときも命令が来るだけでこちらから何か直接言うことも無かった。
「そうですね、魔力を注ぎ続けなければいけないので長い通信は疲れます」
まさかさっきのが長い通信に当たるんじゃないだろうな。
通信を請け負う魔術師は魔力が弱いほうだと聞くが本当だったようだ。
砦からエカードまでは早馬でも往復小一時間はかかる。ギデオンは通信室から出ると近くにある彼の執務室へオレを連れて行った。
「すぐにはわからぬ。その間に詳しく話せ、昨日の王とのことも含めてな」
部屋の中央にあるソファに腰を下ろすとオレを見上げてギデオンが前に座るよう促す。
「この鳩はローズマリー様の鳩です」
部屋の隅にポツリと止まってオレたちを眺めるパフを見てラウリスが「そういえば見たことがある」と頷いた。
「ローズマリー様は魔術師です。あの鳩は彼女が魔術で出してるんです」
恐らく『赤毛の魔術師』のことで薄々は気づいていただろう。王でさえ確信していたんだ。
「やはりそうか、やっと言ったな。隠していたのはローズマリーの頼みか?」
ギデオンが顔をしかめて言う。
「そうです、ゾルガーから逃れるために言いたくないと」
「なるほど、こちらには好都合だったな。其方はまだ婚約者だな、急ぎ婚姻を進めろ。他の者にローズマリーが盗られぬ内に」
ニヤリとしてそう言われドキッとした。
婚姻……そうすれば彼女を手元に置いておけるのか。
「それは、ローズマリー様に聞いてみないと」
なんとか言葉を絞りだした。強引に進めればオレもゾルガーと同じだ。
「婚約は継続中であるし出ていってからも連絡を取り合っていたのであろ。其方を憎からず思っているようだから構わんだろう。ローズマリーも貴族の娘だ、貴族の婚姻の意味はよくわかっておる。気に入らぬ相手でも条件さえ合えばいい、子を数人なせば後は好きにすればいい」
ギデオンの物言に胸がムカムカとした。貴族はロージーの気持ちを考えないのか。だがそれは以前のオレも同じか。貴族の気持ちなんて考える必要は無いと思っていた。ロージーに会うまでは。
「平民のタイラーにはキツイ考えかもしれんな。だが貴族の一族を存続せねばならんという義務感はある意味国を支えるという意味でもある。連綿と続く国家を支えるということはそれまでの実績や繋がりを次代へ引き継ぎ、国を、民を支えることにも繋がる」
ラウリスが不満が顔に出てしまっているオレに諭すように話す。
「仰る事は理解できますがそれを一個人に求めるのは間違っているとしか思えません」
「ローズマリーに全てを押し付けるわけではなく象徴としてそこにあって欲しいのだ。平民は王がいてローズマリーという魔術師が自国にいるということで安心して暮らしていける。タイラーが進める騎士団へ平民を取り入れることも、これから国の中枢へ優秀な平民を入れていくこともローズマリーがいればお互いに支え合えるのではないか?」
「それは……そうですが……」
オレは自らそれを選んでここへ来た。だが彼女はどうだろう……あの場で助けを求めれば皆に魔術師だとすぐに分かる。それを覚悟して町のためにパフに命じたのだろう。
ここへ戻ると決めたのか……
「失礼いたします!」
ギデオンの執務室へ騎士が飛び込んできた。
「やはりエカードは魔物の大群に襲撃されています」
騎士の言葉にギデオンの顔が険しくなる。
「本当だったのか、だが今は砦に常駐させている騎士はそれほどいないはず。タイラーの凱旋に合わせて分隊を交代で帰還させている。町を救う為とはいえ無謀なことはさせられん。今すぐに砦の騎士の状況を報告しろ」
ラウリスが指示を受け急ぎ立ち上がる。だが騎士が驚く報告を続けた。
「ギデオン様、それが既に救援に向かったと連絡が入りました」
「なんだと、まだ命令は下しておらんぞ、一体誰が向かったのだ?」
「イングバル様です」
それを聞き一瞬理解できなかったがどうやら予定よりも早くイングバルは砦に向かっていたようだ。
「魔術部隊が到着していたのか。フム……ならば何とかなるか」
緊迫していた雰囲気が一気に緩んだ。魔術師の魔力が弱まってきているとはいえ二個中隊程で向かったはず。勿論魔術師ばかりでなく騎士が殆どをしめた優秀な騎士団だ。砦の隊と合わせれば恐らく凌げるはず。
「引き続き決着がつくまでは定期的に連絡を入れさせろ」
騎士が下がるとギデオンはまたオレの前に座った。
「エカードはこれで大丈夫であろう。それで、エドワードは何か仕掛けてきているのか?」
ロージーの無事が確認できたわけじゃないがパフがじっとしているということは恐らく今は大丈夫なのだろう。
パフをチラリと見たあとギデオンに向き直った。
「エドワード様はローズマリー様の廃嫡の取り消しを求めています。王もその方が良いだろうと仰って、魔術師であれば彼女への待遇を変えるだろうと」
ラウリスは鼻で笑った。
「それはそうであろうな、奴にとって有効なコマが増えるのだからな」
この城にいる奴らはロージーを人として見ることはない。
本当にここに戻るつもりなのか?
パフがふわりと飛び上がりオレの肩に止まった。
「どうした、何かあったのか?」
ラウリスが不思議そうな顔でオレとパフを見る。
「コイツが落ち着いているということは恐らくローズマリー様が無事だということでしょう。イングバル様は優秀な方ですから」
イマイチ何を考えているかはわからんがな。
ギデオンとの話も済みパフを連れたまま自分の執務室へ向かった。廊下でさっきまで会議で一緒だった隊長達とすれ違う。
「あの鳩はなんなんだ?」
ヒソヒソと小声で話す奴らには目もくれずレーンを呼ぶとすぐその場を離れた。
「どうだった?ローズマリー様は無事か?」
周りに人気がなくなった頃レーンが堪らずという感じで聞いてきた。
「あぁ、パフはもう何も言わないし。何とか無事なんだろ」
「そうか、良かったな。だがローズマリー様は何故エカードなんかにいたんだ」
そこがオレも引っ掛かってた。
ロージーは屋敷で男と暮らしてるんじゃないのか?




