74 元国境の街 バルク1
ジルドと二人で元国境の街バルクへ行く事になった。
ここに二人だけを残すのは不安だったのでパフをひとり置いて行くことにした。
ヘクターにパフを紹介すると少し嫌そうな顔をする。
「お嬢様のお部屋には入らないように言って聞かせておいて下さい」
それを聞いたルーがヘクターの隣でこっくり頷く。
「いいえ、パフは私の大事なお友達です。私の行くところにはどこでも一緒に行きます」
ニッコリ笑って抵抗した。
「大切だということはわかりましたが何処でもという事には承服致しかねます。
まさか寝所へはお連れにならないでしょう」
「いいえ、連れて行きます」
パフをしっかりと抱きしめて言うと更に顔をしかめた。
「しかし、いずれご結婚された際にはどうなされるおつもりです?まさか鳩を連れて旦那様と寝所を共にする事は出来ませんぞ」
ゴホンと咳払いしながらヘクターは言う。
もう、ルーといい、何故そんな事を言うの!
「私は結婚するつもりはありません。ですからその様な事にはなりません」
言い切ると二人に背を向け屋敷から出た。
「行ってらっしゃいませお嬢様。ご無事のお帰りをお待ちしております」
ルーとヘクターに見送られ馬車へ乗り込んだ。
ここからバルクへは半日の道のりだ。元々国境があった場所は荒涼とした岩場で雨も少なく森もない。砦がポツリと建って境を越える物や人を検問していたが、今は国境としての役割は無くなり騎士団の常駐の場として幾つかの隊が置かれているようだ。
防護壁で囲われた街に到着し検問を通る。
バルクから砦へは馬車で一時間ほど、馬ならもっと早いだろう。砦に住む騎士達はよくバルクへ来るようで、街では貴族でも騎士らしいガタイが良い男がけっこう目についた。
ここへ来る道すがら魔物を狩ってきたのでジルドはまず取引所へ向かった。
以前来たとき同様、なんとなく賑やかなだけではなく落ち着かないこの街の雰囲気は周辺にまだ魔物が多いせいだろうか。
取引所でも他の町より客が多く引き渡しの順番を待つことになった。建物の裏へまわり他の馬車の後ろへつけジルドは手続き書類を取りに建物内に行った。
順番が少しずつ進み私はスレイプニルのリュリュを進めた。少しは操れるようになっていてよかった。そんな事を考えていると私達の馬車の前に並んでいる男が振り返って私をじっと見ているのに気がついた。
この街に入る前から私は髪を隠すためにフードを目深に被っていた。まさかここまで例の噂が流れてきているとは思えないが用心の為だ。
男はおもむろに自分の荷馬車から降りると私の横を通り過ぎ後ろに積んである魔物を見ているようだった。
「なぁ、この魔物、本当にさっきの奴が倒したのか?」
男は荷台に被せてある幌を少しめくりながら声をかけてきた。
ここに来るまでに倒した魔物は五体、内二体はハイオークだ。けっこう強い部類に入るだろう。
私は最初聞こえないふりで黙っていた。それで諦める者も多い。冒険者の中には魔物の倒し方や場所を秘密にするものも多いと聞く。商売敵に情報を渡したくないそうだ。
だが男はどうやら空気が読めない質らしい。私の座っている御者台まで来るともう一度声をかけてきた。
「聞こえてるんだろ?答えろよ」
さっきよりやや凄んだ声を出す。全く面倒でしかない。
「知らない」
視線を向けないままそう答えた。
「知らないことはないだろう。一緒にいるんだ、あの男の女か?」
ここまで来るともう流れは同じだ。
「俺につくほうがいい思いをさせてやるぜ、降りてこいよ」
と言って、御者台にのぼって手を掴むって流れだ。
男が御者台に手をかけた瞬間、パフが飛んできて男の頭をガシッと蹴った。
「イテッ!なんだ?鳩!?」
パタパタと羽ばたきながらパフが男の近くを飛んでいる。
「それ以上近づけば蹴りだけで済まないですよ」
パフには軽い攻撃をしていい許可は出してある。この街は荒れたやつが多いから面倒事も多い。
「鳩が用心棒とか笑わせるな!」
男がパフに手を伸ばした手がバチっと弾かれた。
礫一個とは、この子も成長したな。前なら髪ぐらい燃やしてた。
「なっ!魔術師か……チッ、先に言えよ」
顔を歪ませ男は私を睨みつけながら自分の馬車に戻った。
はぁ……面倒くさい。
男と入れ替わるようにジルドが戻ってきた。先に何を買い取って欲しいかを知らせておいた方が順番が回ってきた時に手続きが早い。
馬車は進み順番が来た。手続きする場は二ヶ所あり向こうでさっきの男がオーク二体を引き渡していた。
ジルドも慣れた感じで魔物を渡し、精算は明日になってからだと言われ取引所を出た。その足で街の東に向かいヘクターが言っていた宿屋を探す。ジルドが取引所で詳しい場所を聞いてきたようですぐにそれは見つかった。
少し寂しい静かな場所にある宿屋ガロの裏に馬車を止め二人で中へ入っていった。
「いらっしゃい、一部屋だね?」
やる気の無さそうな五十代位の店主らしい男がカウンターで気だるげに言う。
「部屋は二つお願いします。それと、あなたがガロさんですか?」
「そうだけど」
ホントにやる気なさそうだな。
「ヘクターに言われて来たのですが、屋敷へ人を寄こして欲しいのです」
ガロは私をじっと見た。
「ヘクターって言ったかい?」
「えぇ、言いました」
「ヘクターって、あのヘクターか?」
「恐らくそうでしょうね、年老いた……」
「頑固者」
「大丈夫です、同じ人のようです」
話が通じてホッとした。
「まだ生きていやがったかあのジジイ!」
ガロは突然バンッとカウンターを叩いた。
「わっ、どうしたんですか?ビックリするじゃないですか」
「あぁ、すまないね、お嬢さん。だが十年も音沙汰がなかった奴がいきなり人を寄越せって……あの屋敷にか?」
「えぇ、そうですね。ちょっとわかりにくい場所にある……」
そう言うとガロはふぅ~っと息を吐きまた私をじっと見た。
「お嬢さんが住むのかい?」
「はい」
「魔術師なんだな」
「わかりますか?」
「結界が張ってある事は知っていた。そうかいお嬢さんが……」
ガロは私に差し出そうとした鍵を違うものに取り替えた。
「こっちの部屋の方がマシだ」
どうやらいい部屋に変えてくれたようだ。
「あの、私のことは他の人には言わないで欲しいのですが」
「客の事情は口にしない。こっちも商売なんでね。で、人だがあまり多くは集まらない。屋敷の雑用より魔物を狩る方が金がいい。だから年寄りか、そうだな子供でもいいか?」
「いい子なら孤児で構わないですよ」
「話が早いね。助かる」
人を運ぶついでに食料や日用品も運ぶようガロに頼むといくらかのお金を渡した。
「足りない分は言ってください。孤児の子達は集めてくれればシャワーを浴びさせて服も着替えさせますから言ってください。ただし何をやるか言ってやる気のある子でお願いします。そのまま雇ってもいいです。あ、農業に興味がある子も集めて下さい。もちろん初心者で構いません」
「農業?何処かに連れて行くのか?」
私はマルギット村とカーリの町の近くに農場があると伝え行く気のある子を集めるように言った。
「子供に畑仕事は無理なんじゃないか?」
「子供だって先のことを考えている子はいます。そういう子なら頑張りますから」
ガロにそう頼んだあと私は部屋ヘ向かった。
なんだか目まぐるしい一日だったな。




