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どなたか王様の秘書セバスチャンを知りませんか?  作者: 蜜柑缶


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66/136

66 休養1

 マーサは寝かされたままの私の髪を梳かし緩くサイドに結い、寝間着の上からガウンを着せる。

 

「まだお辛いでしょうが少しだけ旦那様をお呼びさせて下さいね。お嬢様がここにいらして以来、この部屋へはお世話の為に私と下働きの娘、お医者様以外は入っておりません」

 

 そう言って安心させてくれる。そしてふっと黒い笑顔で呟く。

 

「旦那様は偉くやきもきしてらっしゃいましたが焦らされる方の気持ちを多少は経験するいい機会でしょう、では」

 

 マーサは静かに下がるとドアまで行きゆっくりと開いた。

 

「旦那様、それからジルドさん、お嬢様が気が付かれましたが、まだご気分はよくなさそうです。静かに、少しの時間にしてくださいまし」

 

 少しザワっとし二人が部屋に入ったのか、ベッドに気配が近づいてくる。

 天蓋の前でひと呼吸置いてゆっくりとカーテンが開かれるとシーラス・ノヴァックが顔を出した。

 

「ロージー!」

 

 思わずという感じで後ろからジルドが声をあげる。マーサに素早く注意されすぐに黙った。

 

「ローズマリー様、まだ顔色は悪いようだが意識が戻って良かった」

 

 用意された椅子をベッドに引き寄せシーラスは優雅に腰掛ける。

 

「ノヴァック様……私はどうなって……」

 

 口を聞くのもダルい。

 

「やはり魔力を一気に使い過ぎたというところでしょう。体に異常はありませんが魔力が回復し始めるまで数日はかかるでしょう。元の状態に戻るには更に数日。それまではお世話いたしますよ」

 

 優しく微笑みかけ悪意がないように見える。隠し事が上手そうだ。あまり深く考えるのは止めてとにかく元の状態に早く戻らなければパフに会えない。

 

 シーラスに頷いて後ろで顔色を悪くしているジルドへ視線を向けた。シーラスは彼に場所を譲りベッドから離れた。

 

「ロージー……どうしてこんな」

 

 狼狽えながら椅子に座り私を見る。

 何となく距離を感じる、具合が悪い私に気遣ってくれているのだろうか。

 

「ジルド、ごめん」

 

「オレの事はいい、早く良くなれよ」

 

「うん」

 

 優しく声をかけられ涙が溢れた。それを見たジルドはハッとし、そっと指で頬を拭ってくれるとそのまま手に触れた。私の手が一瞬ビクッとなったが優しく触れられ力を抜いた。彼はもう少し近づくとホッと息を吐いた。

 

「パフが居なくなった時はどうすればいいかわからなくて焦ったよ」

 

 離れた町で朝目が覚めるとパフが消えていて動揺したらしい。私に何かあったんだと思い町を出発すると私と別れた森へ向かっていた。街道を進んでいる途中で男に声をかけられ私が呼んでいると聞きあの町までいったらしい。スレイプニルを連れていると教えたことが良かったようだ。

 

「勇者タイラーに会ったよ。君のことを頼まれた……婚約者だと。本当なのか?」

 

「は……!?」

 

 口約束はあった。でもそれは私の秘密を黙っていてもらう為で彼がゾルガーに恩を売るためだった。だけど凱旋した時に並んでお披露目し王へも婚約したいと申し出たから王都では私達はまだ婚約中という事になっているのだろうか?

 

「せ、正式には……違う」

 

 王は二人の求婚者がいた為、私がどちらを受け入れるか自分で決めろと言った。そこで止まったままだったがレーンに止められ……破棄したことにはなっていないのか。

 

「ここ数ヶ月はオレと一緒に居たんだし、ロージーは最初誰かから逃げていたようだとは思っていたがアイツからだったんだな」

 

 間違ってはいないが何かが違う気がする。だけど今は頭がよく回らない。

 

「今は話せない。もう少し待って」

 

 そう言うとマーサがサッと間に入りジルドに下がるように言った。

 

「お嬢様を休ませて下さい。まだ無理は禁物です」

 

 ジルドは仕方なさそうに立ち上がり私を安心させるように笑顔を見せると部屋を出たようだ。

 

 どっと疲れが押し寄せ目を閉じた。

 

 まだ婚約者なのか……逃げ出したのに……勝手に破棄すればいいのに。

 もう私はタイラーの役には立たないはず。なのに何故?キスもしてくるし……あ、思い出しちゃった。

 

「もう……」

 

 頭痛がしそうだとマーサに告げてまた眠ることにした。

 

 

 

 

 最初にシーラスの屋敷で目を覚ましてから二日間は寝たり起きたりを繰り返し夢うつつな感じで過ごした。ここ数日後やっとベッドの上で起き上がらるようになった頃マーサが嬉しそうな顔をして部屋へやって来た。

 

「お嬢様、これで少しは心安く過ごせるようになりますよ」

 

 マーサの後ろから顔をのぞかせたのは涙まみれのルーだった。

 

「お嬢様……ご無事で……」

 

 それ以上は声にならず私のベッドの脇で崩れるように跪く。タイラーがやっと王都へ帰りルーを寄こしてくれたのだ。

 

「ルー……ごめんなさい」

 

 驚きと嬉しさで、つられて私も涙を溢した。

 

「私だけでは年ですし、十分にお世話できているか心配でしたが昔から仕えている者が側にいれば安心でございますね」

 

 ホッと安堵の表情でマーサが下がろうとした。

 

「あの、マーサ、ありがとうございます」

 

 彼女が甲斐甲斐しく世話をしてくれたおかげで随分回復したのだ。

 ニッコリ笑ってマーサは下がっていった。

 

 二人きりになり改めてルーに向き直る。

 

「心配かけてしまって……」

 

 涙ぐみながら彼女の手を取った。

 

「えぇ……本当に」

 

 ルーはもう泣いていなかった。

 

 あれぇ?

 

「私はお嬢様が旦那様から離れてしまってもお仕えすると申しておりましたのに。これは一体どういう事でございますか?」

 

 ちょっと……怒ってる。怖いかも。マーサ、戻ってきて!

 

「こんなにお体を悪くなさってしかも他所様のお屋敷のお世話になっているだなんて」

 

 やっぱり怒ってる。

 

「ご、ごめんなさいと言っているじゃない。仕方なかったのよ、お前を食べさせていけるかわからなかったし、そ、それに」

 

「それにじゃありません!!」

 

 キッパリと言い切られ思わずビクッとなると彼女は私をぎゅうっと抱きしめた。

 

「こんなにお痩せになって……それに鳩も消えてしまっているというではありませんか。あの恩知らずの鳩!」

 

 これまでこんな風に抱きしめられたことはなかった。背中を優しく撫でられ深く呼吸した。

 

「鳩じゃなくてパフよ」

 

「わかっております。肝心な時にいない鳩です!」

 

 ルーは詳しくはないが私が魔術を使ってパフを呼び出していることは薄々知っている。その子がいないという事が私の異常を表している事にも気づいているのだろう。

 

「私が来たからには一刻も早く鳩を出させてみせます。

 今日からしばらくは特別手当をご請求致します。出張費は別ですからね」

 

 私から離れると真剣な顔でそう言った。

 

 えっと……まだ婚約者のようだし、ルーは今、タイラーに雇われているんだから彼付けでいいよね、うんそうに違いない。

 

 

 

 

 

 私はルーが来てくれた日からどんどんと元気になっていった。

 マーサが言った通りやはり昔から仕えてくれているルーの細やかな気遣いに心が安らぐのだろう。ジルドは私がある程度元気になったところで一旦、土地を買ったマルギット村に様子を見に行ってくれた。そこで何を育てることが適しているのか調査するための専門家を呼んだまま顔を出していない。

 ここは貴族のお屋敷だから彼には居心地が悪そうだ。シーラスはジルドにも部屋を与えてくれていたが落ち着かない様子だった。私の側にいるのにも限界があるしマーサもルーもいつも目を目を光らせている為ゆっくりと話すことも出来なかった。

 

「独身の女性があまり殿方を側に寄せてはいけませんよ」

 

 マーサもルーも口を揃えてそういった。

 

「コレと狙った方だけに許すのです」

 

「そうです、軽く見られてはいけませんからね」

 

 二人はとても気が合うようだ。

 

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