65 魔物襲撃後
嫌がってなかったよなぁ……
馬を駆りながら手にした串肉を口へ運ぶ。
恥ずかしがっていただけで嫌そうじゃなかった。前と違って、し終わった後もパフをけしかけられなかったし、ネックレスも外さずにそのままつけてそうだった。
ついてきたパフに串肉の残りを奪われたがまぁいい。
上機嫌で森の中を駆け抜け騎士団が休んでいる場所へ向かっていた。通りすがりにゴブリンやオークを何体か倒しているとパフが側を離れた。誰か来たようだ。
「タイラー!一人でうろつくなよ」
レーンが焦った様子で近寄って来ると最後の一体のオークを倒す。
「皆を休ませている間に軽く見回っていただけだ」
「さっきの爆発音がした所へ行ってきたのか?」
汚れた剣を拭い鞘へ収めながら馬を野営地へ向けた。並んで走らせゆっくりと進む。
「あぁ、オルトロスの巣があって暴れた後があった。内輪もめでもしたんじゃないか?」
「魔物の内輪もめってなんだよ?」
「知らねぇよ、オレに聞くな」
爆発があった場所ではオルトロスが土に埋れ大岩で潰され死に絶えていた。パフを見たら全く無反応だったのでまさかと思っていたら誘うように前方を飛び出したのでついて行くと竈があり、肉がタレに漬けてあった。
呆気に取られたがそこにいたもう一羽のパフがいて肉を焼くように急かしてる気がして置いてあった串に刺して焼いていた。近くにある四角い土壁の囲いが怪しすぎてちょっと笑えたが上から湯気が出て水音がしていたので完全に風呂に入っていることがわかる。
鼻歌まで聞こえてきてご機嫌な様子だったので邪魔することはないだろうと思った。じっくりと上手く焼き上がった串肉に食らいつくと思いのほか美味くて驚いた。パフ達が肉を突くのに夢中になっている時にザッと音がして土壁が無くなり中から洗いたての髪を拭きながらロージーが湯上がりに頬を染めて出て来た。
驚いた顔と前よりも長く伸びた赤い髪が可愛いかった。
……あんなに可愛いかったか?
騎士団の野営地につき馬を預けると自分のテントへ向かう。
引き連れてきた小隊は下位貴族の集まりだがけっこう気の良いやつが多い。平民のオレが指揮してもさほど忌避感は無くうまく連携も取りやすい。
「大隊長、南の方へ向かって進んでいくのですよね」
テントの中へ入るなり会議をしていた分隊長の一人が声をかけてきた。
「まだこの辺りに魔物はいる可能性が高い。もう少しまんべんなく回っていくほうが付近の町や村が助かるだろう」
地図を広げ魔物を討伐した場所に印をつけながら会議は進んでいる。
分隊ごとに別れお互いに回り込みながら魔物を追い詰め倒したり、誰が何体倒すかで点数を決め競ったりといい訓練にもなっている。
数日は上手くそれで任務は進み、ゆっくりとしたペースで北上していた。あまり速く進んではロージーと近づきすぎてしまうから気をつけていた。隊の中にはロージーの顔を知っているものもいる。
だがこれが裏目に出てしまった。
真夜中突然、パフがオレを起こした。もちろん何を言っているかはわからないがロージーになにかあったに違いない。バタバタと騒ぎ立てオレを連れて行こうと行ったり来たりを繰り返す。
「ついて行けばいいのか?魔物か?オレ一人か?隊でか?場所は?」
なんとか話を聞き出し、緊急事態だとわかったが、皆の準備を待ってはいられない。
「レーン、あとは頼む。オレは先行するから隊を率いてあとから来い!!」
レーンは驚いていたが返事も待たずに飛び出した。パフを連れとにかく全力で馬を走らせた。
飛ばしすぎて馬がもうじきバテるかと心配になってきた頃、薄っすらと明けてきた空にもうもうと煙が立ち上る。
クソっ、間に合うのか!?
心配になってきた瞬間、先を飛ぶパフの体が突然パッと消えた。ゾッとして背筋が寒くなる、まさかロージーの身に何かあったのか!?
町の横をすり抜け騒ぐ彼らが指差す方へ行くと黒焦げに燻った草原におびただしい数の魔物と思われる黒く焼け焦げた死体が累々と転がっていた。
まさかこれをロージーが!?偉く派手にやらかしたな。
思ったのもつかの間、草原から遠ざかるように一人の男が歩いているのが見えた。その腕の中には誰か抱きかかえ、大事そうに慎重に運んでいることがわかる。
あれは……ロージーか!
馬車に入れられる前に呼び止め彼女の無事を確認した。
グッショリと濡れ泥にまみれて顔色も悪く自分で立つことすら出来ない様子の彼女はオレを見るなり涙を零す。
「パフが……」
自分の事より鳩の心配してる。見た目より大丈夫なのか?
だが彼女を抱えたシーラス・ノヴァックと名乗った貴族に命に関わると言われ仕方無くロージーを預けることになった。自嘲ながら名乗ったのだ、弱ったロージーに無茶なことはしないと思い込むしかなかった。
騎士団を率いている手前ロージーの為だけにここを離れるわけには行かない。奴の屋敷にジルドというロージーに手を出しそうな男を向かわせる約束もし彼女と別れた。
この騎士団に所属しているという事が最近のオレを縛りつける。
仲間達と手を組み国の最大派閥のゾルガーを落としてやろうと始めた事だったが最初から作戦通りには全くいっていない。
魔王を倒し、多少は出世できるかと思っていたら辺境部隊大隊長という大役を貰えた。他国に牽制する為とはいえこの国の判断としては思い切った事だった。これまで騎士団や王の側近に入り込めた平民はいない。
これは周辺の国と比べてもかなり遅れている。ミデガライトでは事務方トップも騎士団に所属している半数も平民だ。戦争を仕掛けてきたオスロワスでさえ優秀な平民の登用が目につく。
ラッテンリットでは第一派閥が強すぎたせいで昔ながらのやり方が変わることなく、その不満は貴族の間にも少しずつ広がってきているようだ。どんなに出来が悪かろうが派閥が強ければ組織の中で上に立つ。だが誰だってマヌケの下にはつきたくない。
騎士団長ギデオンがオレと手を組んだのもそういう事もあるのだろう。個人的な恨みもあるだろうが。
貴族同士潰し合ってくれるのは構わないがそのせいで国内がごたつき、他国から戦争を仕掛けられ割を食うのはいつも平民だ。それは出来るだけ避けたい。
今回の魔物の討伐要請だって最初はオレの耳には入ってこなかった。平民のオレが知ればすぐに向かうと思ったエドワード・ゾルガーの手によって握りつぶされていたのだ。確かに今の最優先はオスロワスの動向だがまだ奴らが本格的に動くには時間を要するだろう。
だったら数日ぐらい騎士団が討伐に向かっても会議に差し支えないだろうがそこへ派遣されるであろう娘を奪った辺境部隊大隊長のオレを目の届かない所へやるのが嫌だったのかもしれない。
うっかり口を滑らしたのは奴の派閥のルーベンという王の秘書だ。「これだから平民は……」というのが口癖のマヌケ丸出しの男はエドワードが王に伝えていなかった情報を漏らし睨まれていたが地位はそのままだ。
父親が派閥の中でニ番手につけているらしく処分は出来ない様だ。オレ達の間では奴は有用だと好評を得ている。上手く行けばこちらへ情報を流し放題だろうと騎士団長に掛け合い、ギデオンの息がかかった者に密かに近づかせている。
「タイラー!!これは一体どういう事だ!?」
ようやくレーンが駆けつけ焼け野原で死屍累々の場所を目に驚いている。
「オレが来たときは既にこの状態だった」
シーラスの御者も町へ向かわせ既にここにはいない。町から人をやり密かにジルドとかいう男を迎えに出させているはずだ。直接御者をそこへ向かわせてもいいが一度ジルドって奴の顔を見ておきたい。ロージーはそいつをけっこう信用しているようだし少しばかり心を許しすぎているようでもあった。何も無いとは言っていたが本当かどうか怪しい。
数日はここにいて調査をする事になるだろう。町の住人にも話を聞いて誰がこれをやってのけたか調べる事になる。赤毛の女だと聞けば勘のいいレーンにはバレるのは時間の問題だろう。
どうするかな……




