58 地主2
皆が笑顔で……いや、ジルドは笑ってないか。とにかく私とジョシュは笑顔で握手を交わす。
「本当に良かったのかな、オレは助かったけど……」
「私も助かったわ。ちょっと行き詰まっていたから」
魔物を倒してそれを売ってお金を稼ぐのはいいけど、それだけじゃ物足りない気がしていた。
再びジョシュの家に向かいフェリシーと三人でテーブルについた。
「本当に売ってきたの?嘘みたい……」
彼らがこの土地を買った値段プラスかかった準備費用も上乗せされた金額のようだったがそれでも私の現金で払えた。
「ありがとうございます。本当に助かりました」
「いいえ、ところで契約によるとこの家も私の物って事になるようだけど」
ぐるりと見回す二部屋だけの小さな小屋のような所だ。
「えぇ、出来るだけ早く出ていきます」
フェリシーが笑顔で答えた。
「出来れば今すぐ出て欲しいの。すぐに人を入れるつもりだから」
ジョシュの顔が曇った。
「今すぐって、そんな無茶な。家財道具だって運び出さなきゃいけないし第一行く所がない」
「家財道具は後で送るわ」
そう言うとジョシュは眉間にシワを寄せた。
「そりゃここはもうあんたの土地だがちょっと横暴じゃないか?」
私は部屋を見回り確認すると懐からお金を取り出した。
「だったら家財道具も買い取るわ。これで足りるでしょ?」
フェリシーにそれを押し付け二人を家の外へ追い出した。外にはジルドがいて何やってるんだと言う顔で見ている。
「もうすぐ日も暮れるってのに追い出すのか!?なんて奴だ」
ジョシュが私に向かって来ようとするのをフェリシーが止める。
「契約なんだから仕方ないわよ」
書類には直ちに明け渡すと明記されている。ジョシュはそれを軽く見ていたのだ。
「私は何も契約違反してないし家財道具も買い取った。なんの落ち度もないわよ」
落ち込むジョシュをフェリシーが慰めるように寄り添う。
「行きましょう、お金はあるからまたどこかで土地を買えばいい、なんとかなるわ」
二人が背を向けた時、私は声をかけた。
「ジョシュは地主には向かないわ。あまり契約に関して深く考えない質だし書類もよく読まない。細かなところは飛ばしてさっさとサインしてた。きっとこれからも失敗するわ」
追い打ちをかけるような私の言葉にジョシュは怒りの表情で振り返る。
「うるさい!!お前には関係ないだろ!」
「地主は諦めたほうがいい」
「お前の指図は受けない!!」
「あなたが良くてもまたフェリシーが苦労するわよ」
そこまで言うと彼はグッと黙り込んだ。フェリシーは私をキッと睨むように見る。
「私達二人の夢だったのよ。少しくらいの苦労は構わない」
「人には向き不向きがあるのよ、彼は経営者としてではなく働き手としてのほうが優秀なんじゃない?雇われでこれだけのお金を貯めるのは大変だったでしょう?」
フェリシーはため息をついて頷く。
「よく働くし研究熱心だから地主には良くしてもらった。他の人より給料が高かったわ」
「だったらそうして生きた方がいい。今は雇われて契約の事や他の経営に関する事を勉強してそこからでも遅くない。そこで提案なんだけど」
うつむいていた二人がハッとして顔をあげた。
「私に雇われてみない?ここで暮らして畑を耕す仕事よ」
ジルドが諦めて天を仰ぐと村の方へ帰って行った。
二人の家……もう私の家かな?変な感じだがとにかく中でテーブルについてフェリシーにお茶を出してもらう。
「それで……どういう事なんですか?ここでは畑は無理なんですよ」
まだ話が上手く飲み込めないジョシュは黙ったままでフェリシーが私に尋ねてきた。彼女の方が冷静に事を運ぶかもしれない。
「ここを畑として成り立つように私が手配をするから、あなた達が責任を持って作業をして欲しいの。広いこの土地を全面使うとなれば人手が必要でしょうからそこもお願い出来る?」
フェリシーは笑顔で頷く。
「ジョシュは教え方も丁寧だからみんなに好かれてた。人を使うのも上手だと思うわ」
同じ農家で働いていたフェリシーは彼の働き方をよく分かっているようだ。
「誰を雇うかはフェリシーが決めてね。相談して構わないけど決定権はあなたに。厳し目に審査して、怠ける人を雇っては駄目よ」
「わかりました。でも……どうするんですか?水が引けなきゃ同じ事の繰り返しです」
「どうするかはあなた達が私と契約してから話すわ。守秘義務契約をして欲しいから」
そこでガバっとジョシュが顔をあげた。
「ヤバイ事に巻き込む気じゃ無いだろうな!」
ヤバイ事か……ヤバイと言えばヤバイのかも知れない。私が魔術で水を通す事を黙らせる為の契約だ。
「そうね、もしバレてもあなた達には害は無いわ。職は失うかもしれないけど。私自身を守る為だけの契約よ」
二人は黙って顔を見合わせ、フェリシーが頷いた。
「返事は明日でもいいですか?あ、今夜ここに泊まるお金は払います」
「わかった明日の朝、一番に答えを聞きに来る。今夜の分はその時にもらうわ。契約するならここは従業員用の家になる予定だし」
立ち上がり暗くなった外へ出ると村の方へ歩いて行った。森に入ってすぐにジルドが待っていた。
「いると思った」
「遅くなったら森は暗い……」
パフがいるから大丈夫なのに。ジルドはいつも気遣ってくれる。
「ありがとう」
「どうするんだ?」
並んで歩き話を促される。
「明日契約して、岩盤を通す。水さえあれば土地は豊かだしジョシュは腕が良さそう。フェリシーもしっかりしてるし二人にここを任せて人を送り込むわ。
もっと森の奥側も買い取って土地を広げて収穫は全てアントン行きね。王都へは売らせない。辺境へ主体を置いて売買させる」
つまずいて転びそうになった私をジルドが支えてくれた。
「辺境だけでは儲けが薄いぞ」
「ん……だったら変わった高級な野菜や果物も作ってミデガライトへ売りつける」
向こうは豊かな土地だがラッテンリットでしか作れない珍しい物もある。
「専門家が必要だろ?」
「アントンに頼んで用意してもらって。この前言う事を聞いてやったといえばイケるでしょ」
どうしても手に入れて欲しい品があると言われ山奥の洞窟の中まで行かされ手に入れた。そこでジルドは死にかけたのだ。一体誰が炎龍の鱗なんて欲しがったのか……
「炎を避けてやっと手に入れた鱗を必死の思いで持ち帰ったのよ。これくらいタダでもいいはずって言っておいて」
再び歩き始めた時ジルドが私と手を繋いだ。
「段々と可愛げが無くなってきたってこの前わざわざ伝言された」
アントンとのやり取りは取引所での伝言が主だ。わざわざ馬を走らせて送ってきた伝言がそれって無駄としか言いようがない。まぁ、それだけじゃないけど。
「オスロワスの件はまだ決着してないんでしょ?」
私が王都を出て数ヶ月。未だ何も起きてはいないが収まってもいない。だから西側にはあまり行けてない。
当初の目的だった旧ウギマ跡の近くへは二ヶ月ほどかけて行った。
戦後四ヶ月程しか立っていない割に町も村も何とか日常を取り戻しているようだったが何となく落ち着きは無く、留まる気が起きなかった。
私がそう言うとジルドは喜んで旅を続けようと言った。アントンにしても儲け口の私を手放したくないのか、そのままジルドと一緒に行動している。
村の宿屋へ到着し取ってくれていた部屋へ行った。
「食事は部屋で取るわ。また明日ね、お休みなさい」
「あぁ……お休み」
ジルドと繋がれていた手を離し部屋へ入った。
ふぅ……
最近ジルドと触れ合うことが多い気がする。




