59 地主3
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窓の外は薄い雲がかかっただけのよく晴れた天気だ。
ベッドの中でそれを眺めながら枕元のパフに触れていた。
「ポッポ」(まだ起きないのか?)
「うん……もう起きるよ」
「ポッポ」(最近あまり元気がない感じがするな)
「そう?そんな事ないよ」
体を起こすと服を着替え水差しから洗面器に水を入れると顔を洗った。
髪を梳かし結い上げて丸めるとマントを着てフードを被る。
こんな辺境ではもう私の事を探す者はいないだろうけどクセになっているのだ。
外しちゃうか……
フードを外して部屋から出ると宿の食堂へ向かった。
先に来ていたジルドが手をあげ私を呼ぶ。おはようを言うと向かいの席に座った。
「珍しいな。髪はいいのか?」
ニッコリ笑って私を見る。
「もう誰も私の事を知らないでしょう。これでいいわ」
結い上げた髪にそっと触れた。
ジルドは機嫌良く私と並んで歩きジョシュのところへ向かう。
昨日のうちにアントンに連絡をしていてくれたらしく、早ければ数日で返事が来るそうだ。専門家が来るところまでは見届けてからここを立つ方がいいだろう。
「しばらくかかるな。ジョシュ達が契約したらオレは取引所に魔物の金を取りに行く。工事は一人で……大丈夫だな、パフは優秀だもんな」
褒められ機嫌の良さそうなパフが胸を張る。
森を抜けジョシュの家に向かい開いてるドアから中をのぞいた。
「おはようございます。お待ちしておりました」
フェリシーが笑顔で迎えてくれた。ジョシュは少し緊張気味で挨拶を交わすとテーブルにつきすぐに切り出した。
「契約の事なんだが、オレだけでも、いや、私だけでも構いませんか?フェリシーは巻き込みたく無い」
守秘義務契約と言われた事が引っかかってるようだった。
「夫婦でお願いします。組織として外へ漏らしたくない情報を守る為です。ここで何を作るとかどこへ売るとか」
「本当に私達に害はないのですか?」
自分が油断したせいでフェリシーに苦労をかけたばかりのジョシュは慎重だ。そうでないとね。
「それは書類をキチンと読んで判断して下さい」
二人は渡された契約書をジックリと読み込みわからない所は注釈をつけてくれと要求し、最後に一筆加えさせた。
「何が起こっても私達夫婦に、いや、これから雇う従業員にも責任はないと明記してください」
「わかったわ……これでいい?」
やっと納得した二人は書類にサインして契約は成立した。
「ここで見聞きしたことは外の人には言わないで下さいね」
念を押し私は小屋を出た。
ジルドは取引所に向かい、私達は川の方へ向かった。
「どうやって水を確保するんですか?役所に頼むのですか?」
フェリシーが不思議そうに聞いてきた。
「自分で通すわよ」
岩盤のところに来るとジョシュにどこを通せば畑にうまい具合に水が行き渡るか聞いた。
「森を抜けて……そこは向こう側を下って……」
ジョシュの最初の計画を聞いてパフに頼んだ。
「じゃあお願い」
「ポッポ」(少し離れてろ、危ないぞ)
言うなりパフは私の魔力を使って岩盤を砕き始めた。
ビシビシと鈍い音を立てて岩が崩れていく様子をジョシュとフェリシーが腰を抜かさんばかりに驚いて見ていた。
「ま……魔術師……」
それだけ言って黙り込む。殆どの魔術師は貴族だ。彼らにしてみれば貴族がなぜこんな事をしているのか理解できないとでも思っているのだろう。
役所で雇う魔術師は下位のそのまた下っ端で大したことは出来ないが時々魔術でしか解決できない問題の為に来る事もある。
ジョシュもそれにすがっていたが相手にしてもらえなかったのだ。個人の頼みは却下されることがほとんどのようだ。
みるみる出来上がる水路を見てジョシュの心中は複雑そうだ。最初から魔術師だとわかっていれば水路を通す事だけ依頼出来れば良かったと思っているだろう。
パフは順調に水路を掘り進み遂にジョシュの畑まで通した。後は水を止めている川の堰を開けるだけだ。
「これでいいわね、すぐに作業に取り掛かって下さい。何を育てるかはある程度はお任せしますけど専門家が来るのでそこはうまく折り合いをつけてください」
二人は黙って頷き了承した。
堰を開け水路にドンドンと水が入って行く。それを追いかけるようについて歩き遂に畑に水が届いた時ジョシュは大きく深呼吸した。
「ここからはキチンと給料分働かせて頂きます。宜しくお願いします」
気持ちが切り替わったのかスッキリとした笑顔でそう言うと早速畑に向かった。
私と並んで立っていたフェリシーが少し緊張気味話しかけてくる。
「貴族様とは知らず……」
「もう貴族とは違うのよ。だから気にしないで、それより魔術の事は内緒よ」
「もちろんです。最近思う存分働けてなかったあの人が嬉しそうにしてますから。感謝しております」
根が働き者なのだろう。ジョシュは水を畑にうまく行き渡らせる為にアチコチ見て回っている。この調子ならきっと何とかなるだろう。
「私からも人を送り込むからその時は宜しくね。中には子供も含まれると思うから、働ける子を送るけど怠けるなら首にして構わない。けどある程度の生活は見てやって。その為の人を雇ってくれても構わないから」
「子供って……」
「働きたい孤児を働かせるつもりなの。何でも出来ることはやらせて」
フェリシーはコックリ頷いた。
「確かにそれはいいかもしれません。今は人手が足りませんから」
魔王戦からの侵略戦争、まだまだ国内は完全に落ち着いてはいない。働き手も不安定なようだ。
村に戻るとジルドが取引所から出てきた。
「丁度良かった。アントンさんから伝言だ。依頼だよ」
またか……前はファイヤードラゴンの鱗で大変な目にあった。仕事は選ばないとな。
内々の話らしく宿に戻ると私の部屋へ行った。
「水路はどうなった?」
「もちろん上手くいったわ。ジョシュもやる気を出していたし、孤児のことも頼んできた」
いくつかの村や町をまわり仲良くなった孤児達に仕事があれば来るか聞いたところ半数以上が行くと答えた。大きくなるにつれ将来の事を考えるとちゃんとした仕事が欲しいのだ。
十歳以上なら何とか働ける。草むしりでも掃除でもなんでもすればいい。そのうち畑の仕事も出来るようになるだろ。
「それで、依頼内容だが、ちょっと考えた方がいい。西へ行かなきゃいけないようだ」
西側の町や村で魔物が多く出て大変らしい。国に討伐を依頼したけど今はオスロワスの動向を探ったり砦の護りを固めたりと忙しいようで返事が来ないそうだ。
東側の魔物はけっこう私が倒して回っているので少しはマシなのかもしれない。
「村や町の人達が困っているなら行ってあげないとね」
私が行ったところでどこまでやれるかわからないが多少は助けになるだろ。
「じゃあ行くか、すぐに出発するんだろ?」
「もちろん、明日には立ちましょう」
ジルドは心得たものですぐに部屋を出ると旅支度を整えに行ったようだ。
「ポッポ」(状況によってはジルドは置いて行け。この前のドラゴンの時のように足手まといになると危険だ。いくらアイツでもロージーが危険にさらされるなら見捨てるぞ)
「そうね、わかったわ」
ジルドに気を取られ自分が思うように魔術を使えないのは命取りだ。今だにパフが魔術を操っているのだと思っている彼が側にいては私が魔術を使えない。今回は最寄りの町にでも置いて行こう。話せばわかってくれるだろう。




