54 旅立ち
数日過ごした宿を離れ、今日は出発の日だ。
リュックと手持ちのカバンに荷物を詰めると部屋を出た。馬車の準備と食料の買い出しはジルドが用意してくれている。
階下へ降りると食堂のテーブルに座り最後の朝食をとる事にした。
ジョバンニが温かい料理を持ってきてくれ美味しく頂くと席を立った。
「ごちそうさまでした。ジョバンニさん、お世話になりました」
「こちらこそ、旅の無事を祈っております……例のことはご安心ください。ちゃんと孤児達に金を貸し出しておきますから。返すようにも言っておきますよ」
「はい、お願いします。私も頑張って稼ぎます」
アントンの所にお金を預けている限り孤児達に少しずつお金を貸し出していけるはずだ。
「大事なロージーさんのお金ですから、相手は見させてもらいますよ。誰かれ無くかせない」
「そこはお任せします」
良かった、ヤル気になってくれたようだ。ジョバンニはちょっと口をつぐんだあとボソリといった。
「私も……孤児だったんですよ。使いっ走りから皿洗いまでなんでもしました。やっとこの宿を始めたのは四十代でしたよ。妻もその時一緒だった孤児です。仲間の中には死んでしまった者も多い。でもロージーさんみたいな人がいればいくらかはこうやって大人になれます」
「そう……だったんですね。そうなれば良いですね」
きっと彼なら孤児達の世話をちゃんと見てくれるだろう。何だかホッコリするよ。
ジョバンニと別れ宿を出てマントのフードを被り待っているとジルドがやって来た。
リュリュに引かせている馬車は御者台のある前半分は屋根がつけられ後ろは魔物を運ぶとき用に屋根はついていない。使わない時は天幕を張れば屋根付きにも変えれるよう支柱も用意してあった。
「準備はいいか?」
御者台からジルドが手を差出しニッコリ笑う。
「いいわ、これからしばらくよろしくね」
その手を握ると引っ張り上げられ御者台に並んで座った。
門の検問をアッサリ抜け、街道を進む。
「どこに向かってるの?」
「まずは東よりの道だな、西は戦争が始まりそうで物騒だ」
オスロワスの動きが変なのは皆が知っているようだ。魔術で砦と城の連絡は取れるがそれは重要で急ぎの要件だけで細かなやり取りや、物資の輸送などは馬や馬車が行き交う。その状況を見れば何かおかしいと平民でも気づくようだ。
「西ってミデガライトがあるのよね?」
「あぁ、そんな国境近くまでは行かないが途中までは方向が同じだ。あそこは豊かな国だからな。商人も生き生きしてるし品物も良い。国境沿いの街では王都から離れた辺境でも国内じゃマシな方だ。何もかも高値だがな」
王都に品物が集中していて辺境では品不足が続いている。そこへ持ち込まれた物の値段はどうしても上がっていくらしい。
ミデガライトではこの国と違って平民でも国の中枢で多数の人が働いていると聞く。身分差はまだ無くならないようだが優秀な人材をどんどん取り入れ国をもり立てているようだ。
平民に負けてはならぬと貴族達も努力するのではないだろうか?上位貴族でもルーベンのようなお馬鹿に仕えるのは誰でも嫌がるだろう。
天候も良く馬車は順調に進む。資金もまだ十分にあるのでしばらくは魔物を狩らなくても暮らしていける。もう少し王都から離れた方が大物もいると聞くからその辺りなったら仕事をしよう。アントン経由でジョバンニにお金を送らなければいけない。頑張らなくては。
平坦な街道を昼休憩をはさみ夕方まで走ると町が見えてきた。旅の進み具合は皆だいたい同じなので丁度いい所に休める町が出来る。近くでテントを張り野営の人もチラホラ見える。
「あの人達どうして宿にいかないのかしら?」
いくら魔物が少ない地域でも町中の方が安全だろうに。
「金が無いのもあるだろうが、訳ありだろ。人と関わることを嫌がる奴もいる。町が近いと便利だからあの辺りで野宿が楽なんだよ。オレもひとりの時なんかはたまにそうする。人に会いたくない時とか」
独りになりたい時か……たまにあるよね。
町へ入るとすぐに宿を探した。一軒しかない宿はいっぱいで部屋が無かった。
「こういう時も野宿よね?」
ジルドは肩をすくめた。
「だな」
少し食材だけ購入するとさっきいくつかテントが張ってあった場所を避け平坦な所を探して馬車を止めた。
「リュリュを休ませるから食事の準備しててくれ。すぐ戻る」
ジルドはリュリュを馬車から外す為に御者台を降りた。私は荷台の方へ行くと鍋や野菜、さっき買った肉を取り出し抱えて馬車を降りた。
「まずは竈ね」
「ポッポ」(魔術の練習だな。魔力を調整して作ってみろ)
「えぇ!ここで?ジルドがいるのに?」
小声でパフに言った。ジルドはまだ私が召喚士だと思っている。
「ポッポ」(私が側にいるのだから、ちゃんとやればバレたりせぬ。さぁ)
ムム、逃げられなかったか。苦手なのよね、繊細な魔力調整。
キュっと目を細めて細く水を注ぐ感じで地面に竈をイメージすると、ジワジワと土が膨らむように盛り上がりボコボコとした塊が大きくなってくる。
「ポッポ」(そろそろ形をハッキリさせろ)
いい感じの大きさになった所で四角く形を整え鍋を置く場所、薪を焚べる場所を作る……のだけれどうまく調整が……
「はぁ……けっこういい出来じゃない?」
「ポッポ」(馬鹿者、一体どれほどの鍋を置くつもりだ。その小鍋を置くのにこの様な大きな竈が必要か!?いくら薪があっても追いつかぬぞ)
目の前の竈は宿屋の厨房並の大きさになってしまいパフに叱られた。
「中は埋めるから薪は少なく出来るもん」
見た目に比例して大きな竈の中を少し小さくなるよう埋めた。
「ポッポ」(埋めたなら外側を削って全体的に小さくすれば良かろう。)
「あ、そうか。そうしよう」
外側も削り最初よりはひと回り小さ目の竈が出来上がった。
そこへジルドが薪を手に戻って来たが竈を見て停止した。
「パフが作ったのか?随分立派だな……今度もう少し簡易的なの教えるよ。これじゃ薪が足りない」
まだ大きすぎたようで、ジルドはまた薪を集めに行った。
すみません……
戻って来たジルドが竈に薪を入れ、パフが火を点けるとすぐに燃え上がった。
「おぉ、これは楽だな。パフ偉いぞ」
指でパフの首元をそっと撫でてジルドが褒めた。
「ポッポ」(触るなと言え)
褒めてもらったパフだがこういうのは好きでは無い。
「ごめん、パフって私以外が可愛がるのは好きじゃなくって」
「えぇ、それはすまん」
パフが凄い魔術を使って魔物を倒すのを見ているジルドはちょっと驚いて手を引いた。怒らせたら怖いと思っているようだ。
私も手伝ったがジルドは料理が上手で手慣れていた。パッとスープを作り肉を串に刺し焼き始めた。いい匂いが辺りに漂いお腹が空いてくる。
「ポッポ」(美味そうだな)
「パフのもあるよ」
お金がなかった時とは違い今はけっこう余裕がある。パフが趣味で食べても大丈夫だ。
肉がいい感じに焼けジルドが一本手渡してくれた。
「熱いぞ」
すぐに食いつこうとしたところを止められて何だか恥ずかしい。
フーフーと息を吹きかけ冷ますと横を向いて齧りつく。
「美味しい……ジルドってお料理上手だったんだね……」
街の屋台で食べた物よりずっと美味しかった。パフにも一切れあげるともっとくれとせがまれた。
三人で美味しく食事を楽しんでいると遠くから言い争うような男達の声が聞こえた。
「だから、もっと早く出ようと言っただろ。宿がいっぱいではないか」
「何言ってるんだ!お前は心配じゃ無いのか!今頃どこかで倒れたり訳のわからない奴に拐かされたりしてるんじゃないかと思うと……クソっ!!アイツのせいだ!」
二本目の肉串に食いつこうと口を開けた所で言い争う二人と目があってしまった。サッと顔を横に向けたが遅かったようだ。




