50 仕事
ジョバンニは気の進まない顔している。
「まぁ、手間賃がもらえるなら私はいいですよ。チビ達とはどうせ付き合いがあるからついでだ」
そう言って仕事に戻った。
「良かった」
私は満足して食事を食べ始めた。
「何故そんな事するんだ?孤児達に絆されたか?」
「そうじゃないです。ただ何か仕事がしたかったんです」
アントンは眉間にシワを寄せる。
「魔物を狩って売る事が仕事じゃないのか?」
「それは稼ぐ事で生活の為です。そうじゃなくて何か自分にするべき事を課したいんです。私は今する事がないんです。今まではある人の言いなりで機嫌を窺って生きてました。でも今は自由で……」
「誰かの言いなりに生きなくて良くなった途端、何をしたら良いかわからんのか」
「そう……なんでしょうね。だけどなんとなくはあるんです。
これはその練習というか入口というか。まだうまくは言えませんけど」
そう言って食事を食べ終わると席を立った。
「明日はどうすんだい?」
「ジルドさんが良いならお願いしたいです」
「奴が気に入ったか、イイ男だろ?」
アントンが意味ありげに見てくる。
「あまり他の人に関わりたくないし、リュリュが気に入りました。あ、出来れば行く時も馬車が良いです」
同じ時間の約束をし彼と別れた。
次の日、ジルドは馬車で迎えに来て私を送るとその場で待つと言った。大きな荷台を用意しリュリュを木に繋いで森へ入る私に付いてくる。
「帰らなくていいんですか?」
「あぁ、ロージーの稼ぎだけで大丈夫だってアントンが言ってた」
なんだかやりにくいな。今まで誰かの前で自由に魔術を使った事はほとんど無い。だけどもうジルドは私が貴族で魔術師だとわかってるから遠慮はいらないか。
昨日やったように森を進むともうひとりのパフが魔物を連れてくる。
「気をつけてよ」
パフはふたりで協力しながら魔物を倒し土壁で囲う。今日はあまり大物はいないようだ。
オーガとオークは何体か仕留め、ワームは大きさの割にあまりいい売り物にはならないらしく倒したが放置し明日以降の魔物狩りの餌として置いておいた。人間の大人ほどの大きさの大蜘蛛タランチュラは結構需要があるらしく六体ほど倒すとジルドが喜んでいた。
「こんなもんかな、もう馬車に乗らないから帰ろうぜ」
積み込みも終わり帰路についたがまだ昼前だ。
ジルドが軽快にリュリュを走らせ王都へ向かう。
「こんなに楽な仕事ばかりならいいのにな」
機嫌よく馬車を操るジルドに今後の為に話を聞いた。
「王都から離れた街で、アントンさんのお金もすぐに出せる所ってどこがあるのかしら?もちろん魔物が多く取れる方がいいのだけれど」
「王都から離れたいのか?そうだなぁ……近くならサジェロネだろうけどあそこはそんなに魔物は出ないから……一番遠いが手っ取り早いのは旧ウギマとの国境の近くだな。
まだ完全に回復はしてないけど近くに大きな街もある。勇者タイラーが平定したとはいえまだまだ他に比べたら魔物が多く残ってるらしいから。素材のため以外でも魔物を討伐すればある程度金がもらえるところもあるらしい」
確かずっと北にあるはず。そこなら誰も私のことは知らないだろう。
それから数日続けて魔物狩りに行くと結構な儲けが出たようだ。アントンがご機嫌で毎日少しの現金と登録したカードの残高を知らせてくれる。当分困らない金額が貯まった。
「ロージー、明日も行くだろ?」
別れ際ジルドが聞いて来たが私は首を横に振った。
「いいえ、今日で辞めるわ」
「なんだよ、まだイケけるだろ?」
「もう十分よ。今までありがとう」
私はリュリュを撫でながら礼を言うと宿へ入ろうとした。
「ちょ、ちょっと待てよ。まさか王都を離れるのか?前にそんな事を言ってたな」
馬車から降りるとジルドが私の側に来た。
「どこ行くんだよ?」
「まだ決まってない」
「決まるまでここに居ればいいじゃないか」
ジルドは何故かちょっと焦ったように言う。
「まだ何日かはいるけど出来るだけ早く王都から出ると決めてるの」
あまり長くいては流石に誰かに見つかりそうだ。普段、狩りに行く以外はほとんど部屋に閉じこもって過ごしていたが、旅支度を整えたら出発するつもりだ。
引き止めるジルドにサヨナラを告げると宿へ入って行った。
部屋に戻ると窓の外に別行動をしていたパフが戻って来ていた。窓を開け中へ入れるとベッドに腰掛けて膝の上にふたりのパフを乗せた。
可愛い……
「どうだった?『黒窓』の様子は」
数日前に『黒窓』を確認して以来もうひとりのパフに店を見張らせていた。初日に副長ラウリスを見かけたがそれ以降は誰も見知った者は来ないらしい。セバスチャンが最後に目撃された場所だが失踪には関係ないのだろうか?
「でも何故か気になるわ」
「ポッポ」(もうセバスチャンの事は関わらんでも良いのではないか?)
「だけど、彼がいなくなった事がキッカケで色々なことが起きてる気がする」
「ポッポ」(もしそうであったとしても、ロージーがエドワードから離れる良い機会に恵まれたと思えばいい事だ)
パフが言う事も一理あるが迷惑をかけてしまった人もいるのでそうそう喜んでもいられない。
「出来れば一度行ってみたかったけど」
ラウリスが来ていたならまた来るかもしれない。それなら見つかる可能性もあるから無理かな。もうセバスチャンの事は放っておいた方がいいのかな?
バッタリとベッドに倒れると目を閉じた。
ここを離れれば知っている人達とは会うことは無いだろう。
「ルー、怒ってるだろうな」
「ポッポ」(かなり怒っておった。今はタイラーの世話をしながら文句を言い続けておるが一人の時はぼうっとしておるな。泣いておることもある)
「もう……言わないでよ」
鼻をグスッと鳴らして手で顔を覆った。ルーとは辺境のお屋敷からずっと一緒だった。ホントは離れたくない。だけど定住する家も無い不安定な生活に彼女を巻き込む事は出来ない。
「っていうか、パフは城で一体何をしてるの?タイラーにネックレスを返したら早く帰って来なさいよ」
もうアレから数日経ってる。いくら彼が忙しくても一人になる機会ぐらい合っただろう。
「そんなにいつも誰かと一緒なの?寝る時は流石に一人でしょう?」
私がそう言うとパフが黙った。
まさか一人じゃ無いのか……
「……同じ人?」
思わず聞いてしまう。
「ポッポ」(ロージーには関係なかろう)
同じ人なんだ。何にも無いって言ってたけどやっぱり違うんだ。
「ポッポ」(気になるのか?)
「別に」
彼が誰と会おうが私には関係ない。頭元に来たパフをそっと捕まえるとキュッと抱きしめた。
ドアがノックされ少し驚いた。私を訪ねてくる人なんていないはず。
「ロージー、わしだアントンだ。ちょっといいか?」
知っている人にホッとしてドアを開けた。アントンはジルドを連れていた。
「今日で魔物狩りを辞めると聞いた。そこで話があるんだ、入るぞ」
どうぞとも言わないうちにアントンは部屋に入り少し遠慮がちにジルドも入って来た。
「なんですか、お話とは?」
アントンに椅子を勧め私はベッド座りジルドは小机のそばに立つ。
「行く当ては無いんだろう?そこで提案なんだが、目的の場所が見つかるまでこのジルドを連れて旅をしてはどうだ?」
「ジルドを?」
確かに彼とはここ数日で親しくはなったがだからと言ってともに旅をする程の中とは思えない。
「あぁ、こいつなら旅慣れてるし世間もある程度知ってる。どこに行っても魔物を売るにしても役に立つ」
私が売る魔物をあてにしてるのだろうか?確かに一緒にいれば便利だろうけど。
「私、貴族には出来るだけ関わらないようにしたいの。一緒にいればもしかしたら何か面倒が起きるかも知れない。ジルドはそれでいいの?」
そう言うとかれはパッと顔を輝かせた。
「元貴族なんて皆そんなもんだ。それに普通平民はほとんど貴族に関わることなく生活してるから全く問題無い」
「そう、だったら……」
「イケるか!良し、決まった。で、相談なんだがとりあえずはわしの指示するところへ行って魔物を倒してもらいたい。もちろんその魔物を買い取って報酬は払う」
なるほど、それが狙いだったか。
「報酬って魔物を売ったものと別にもらえるんですよね。それにこれからは送迎は要らないんだから取り分は売値の八割、プラス依頼料でお願いします」
「送迎はともかく下処理はジルドがするんだろ?モノによっちゃけっこう手間がかかる、六割ってとこだろ?」
「あら、そもそもそっちがしてきた依頼でしょ?魔物を売るのは別に他に頼んでもいいんだし」
七割五分プラス依頼料で決まった。
勝った!




