44 稼ぐ
王都の近くは騎士団の巡回もあり魔物は少なめ。大きな街道でも同じく騎士団の目が行き届いている場所が多く、特に大きな街の近くでは魔物はあまりいない。
地方の町や村へ行けば時々大物も現れ割といい稼ぎになるようだ。問題は地方へ行く為のお金を稼がなくてはいけない事だ。
それにしてもお腹が空いた……
街中をふらふらしてると良い匂いがしてきた。
もう少しいけばバザールだ。一度来ただけだがなんだか遠い昔のようだ。段々と人が増えていき色々な屋台には物が溢れている。
攫われた先で立ち寄った町や村では品不足が当たり前だったのにここでは違う。やはり何か手が加えられ物の流れが偏っているのだろうか。
手っ取り早くお金を手に入れる為、私は唯一の財産の服を売る事にした。以前、町でも買い取ってくれたのだから多分大丈夫だろう。
今着ている高級なワンピースを売って安い服を買い残りを現金でもらえばいいはず。
バザール内をうろつき出来るだけ安い順服を売っている店を探した。最低一着は必要だし下着は絶対に替えがほしい。
賑わっている所から少し離れ数件並んだ服を扱う店を見つけた。何度か前を行き来し店を選んでいると一人の白髪の男が目に止まった。年の割にガッシリとした体格で少し目が鋭い。
さっきから私と同じように何件か店をまわり物色していたがその男が選んだ店を見ると品数も程よく値段も手頃、店主も女性で感じが良かったので私もそこに近づいて行った。
その店は道に面した場所に靴、鞄など服の他にも色々な品物を見栄え良く並べていた。吊り下げられた婦人物の服の中からシンプルなワンピースを選び自分に当ててみる。
「お嬢さん、よく似合ってるよ」
店主の女性がにこやかに声をかけてきた。
「ここでは買い取りもして頂けますか?」
「あぁ、構わないよ。なんだい?」
私は自分が着ているワンピースをつまんで見せた。
「これを買取って欲しいの。それでこの服を買いたいんです。後、靴と下着も」
店主は困った様な顔をした。
「そのワンピースだけでそんなには買えないね。精々服を交換するだけだね」
え?そんな事は無いはずだ。前の村ではもっと買えてお釣りが沢山もらえた。
「ポッポ」(騙されるぞ。いわゆるボッタクリだ。他へ行こう)
騙す?そんな事するの?こんなに感じのいい店主なのに。
私はガックリすると手にしたワンピースを返した。
「やっぱりやめておきます」
「なんだい、気に入らないのかい?だったら靴も付けてもいいよ」
何故最初の話と違うの?
「ポッポ」(他所へ行かれたくないのだ。交渉の余地があるならやってみるか。いいかよく聞け)
パフに言われるままに何とか交渉を続け最後にはワンピース二枚と下着、リュックにブーツにフード付きのマントといくらかの現金も手に入れた。
「お嬢さん、上品に見えて結構やり手だったのね。負けたよ、見かけに騙されたわ」
勝った!騙したつもりはないがこうゆうものか。
店主は半分笑いながら着替える場所も貸してくれ、そこで安物の服に着替えると美しく編み込まれていた髪もほどき一つに結び直した。
目立つ赤い髪を羽織ったマントのフードで隠し、これでちょっとやそっとでは私とは誰も気づかないだろう。
店を出るとすぐに食べ物の屋台へ向かった。
お腹空きすぎだよ。
目についた串肉屋が賑わっていたのでそこで一つ買うとすぐ横のベンチで座ってかぶりついた。
「美味しい……」
空腹という事も手伝いあっという間にたいらげた。
「ごめんねパフ。全部たべちゃった」
「ポッポ」(構わん。今は金も大事だ)
パフは基本的に食べなくても生きていける。私の魔力で維持されているからだ。美味しい物を食べるのは趣味だ。
串肉を食べたところでまだお腹は空いていた。
「何食べようかな……」
街で食べ物を買った経験があまり無い私は一体何が売っているのかさえ知らない。さっきの串肉でちょっと落ち着いたのでまたバザールをウロウロと歩き出した。
背中にリュックを背負い慣れないブーツに慣れない街歩き。きっと他人からみれば辺境から出てきた田舎者に見えるのだろうか?行く先々で変な品物を売りつけられそうになってしまう。
服装って大事なんだね。高級な服を着ているのと今とでは扱いが違う。
色々考えた末、一軒のパン屋に入るとそこに売っていた手頃なパンを買い、他で水筒に水、ナイフとチーズ、ハムを買って自分でサンドイッチを作る事にした。バザールから少し離れ路地にある木箱に腰掛けてパンを包んでいた紙を広げ膝の上で作った。それを三つに切ると一つに齧りつく。
「パンが固いわね。チーズも味気ない、ハムは……仕方ないか」
ここに来て自分が今まで食べていた物が高級品だとよくわかった。
なるほど、タイラーが言ってた金がかかった生活ってこういう事ね。
イチから全て自分でしなければいけない。まだ独りになったばかりなのにもう心細くなって来た。俯いてしまっているとパタパタとパフが羽で合図するので顔をあげた。
「何か用?」
ひとり黙々とサンドイッチを食べていたが、いつの間にか目の前に一人の少女が立っていた。顔は薄汚れ服もボロボロ。話しかけても何も言わずただサンドイッチをジッと見ていた。
「お腹空いてるの?」
コクリと頷く少女に三切れの内の残り二切れを差し出した。
「一緒に食べる?」
少女は黙って手を出して来たのでツイッと持上げそれを避けた。
「まずはこれで手を洗ってから」
ポカンと口を開けた少女に水筒の水で手を洗わせ隣に座らせて膝の上にサンドイッチを乗せてやった。
「まだよ、名前を教えて。私はロージーよ」
「キキ」
キキはサンドイッチに目が釘付けになったまま答えた。
「よろしくね、キキ。どうぞ、食べていいわ」
やっと食べる事ができるとばかりにキキは猛然と齧りついた。
「ゆっくりとよく噛んで食べるのよ」
黙ったまま一切れをあっという間に食べ終わるとふぅと息を吐いた。
「これ持って帰っていい?」
「あげたものをどうするかはあなたが決めていいわ。だけどお願いがあるの」
「何?」
小さいがハキハキと話し、サンドイッチをサッと紙で包み手に持つと立ち上がった。
「安くて安全な宿を知らない?高級なとこじゃない評判の良い所があれば教えて」
「だったらジョバンニさんとこだね。こっちに来て!」
こういうやり取りは初めてではないのかキキは慣れた感じで私を連れて歩き出した。
「ロージーは都は初めてなんでしょ?」
「近いけどちょっと違う。色々あってね、家を出たばかりなの」
「家出か、大人も大変だね。その子お姉さんの連れなの?」
肩に止まったパフを見上げ面白そうな顔をする。
「お友達なの。パフよ」
キキはちょっと笑ってパフに手を伸ばす。
「ハトが友達とか変なの」
変と言ってるが嬉しそうにパフを指で触っている。
キキは早足でバザールからはどんどん遠ざかり狭い路地を抜け街の西の方へ向かう。城近くの高級な建物が立ち並ぶ閑静な場所とは違う庶民的な人達が行き交う少し騒がしい所につくと一軒の宿の前で立ち止まった。
店の看板には『高級 快適な宿 ジョバンニ』と消えかけた文字で書いてあった。
「ここなら鍵もかかるし値段もお手頃。店主も親切丁寧な接客で評判のいい宿です」
決まり文句をツラツラと読み上げる感じで何度もここへ客を案内しているのがわかる。
キキはドアを開け中にいる宿の主人らしき男にニヤッと笑って合図すると私を宿へ押し込んだ。
「いらっしゃいませ、ようこそ」
主人は私を店に迎えながらキキにいくらか駄賃を渡した。
「お姉さんまたね」
すぐに走り出すともう見えなくなった。
「あの子はここの子なんですか?」
カウンターに案内されながら主人に尋ねた。
「まさか、アレは孤児ですよ。でもこうやってたまに客を連れて来てくれるので助かりますがね」
サジェロネの街でも見かけたが王都にも孤児がいるのか。




