45 宿
宿の主人が鍵をさしだしながら説明を始めた。
「部屋は二階の左の奥から二番目です。突き当りに共同のシャワーがあるから時間は短く、キレイに使って下さい」
大丈夫、共同シャワーは経験済みです。
「食事はここで宿代に一食分は付いてるから夜はここで食べると良いですよ。うちは食堂としても評判がいいんです」
前金だと言われ払った金額が高いか安いかはよく分からないが手持ちでは二日しか泊まれない事が分かった。
「ちょっとお聞きしたいんですけど」
出来るだけ早く魔物を倒してお金を稼がなきゃ。
「このあたりで倒した魔物を引き取る所ってどこにあるんですか?」
「倒した魔物を引き取る所って、お客さん何が欲しいんだい?魔物を引き取るところに行っても素材は売ってくれないよ。一見さんはお断りの所がほとんどだ。直接、素材屋へ行った方がいい」
一見さんってなに?
「違うんです。素材が欲しいんじゃなくて魔物を売りたいんです」
「あぁ、後でお連れさんがブツを持って来るのかい。それなら広い部屋のが良かったかな」
店主は二人部屋の鍵を取ろうとした。
「違います、私がこれからの倒す予定の魔物を引き取ってくれる所を探してるんです」
なかなか話が通じず、ちょっと苛立つ。
「これから倒す……お客さんが?」
主人は私を上から下まで眺めると不審な顔をした。どうやら私が魔物を倒す冒険者には見えないらしい。まぁ違うから仕方が無いか。
「あ〜、失礼だけど今までどんな魔物を倒した事があるか聞いてもいいかい。それによっちゃ業者には紹介出来ないからね。田舎じゃどうか知らないけど、王都じゃあんまり小物だと嫌がって引き取らない所もあるから」
どう見ても非力そうな私が大した魔物を倒せないと思っているらしく気がすすまないようだ。
「ポッポ」(仕方ないか、ロージー、フードを外せ。そしてもう一度悲しそうな顔で頼んでみろ)
ちょっと意味はわからないがさっき服を買う店でパフの言う通りにしたら上手く行ったので今回も言葉にしたがった。
フード外し悲しげに宿の主人を見上げる。
「あの、ご迷惑はおかけしません。交渉は自分でしますから紹介して頂けませんか?」
最後に小首を傾げろとアドバイスされその通りにした。
途端に主人は顔をちょっと赤らめ動揺した。
「いやぁ、そんな顔されちゃ……仕方ないなぁ……後でここの常連客を紹介するよ。その人なら顔が広いからどこか知ってるだろ」
「ポッポ」(チョロいな)
パフは満足気だ。
部屋は以前に泊まった宿より少し狭いが清潔でベッドはあまり固くない。小机と椅子もあり荷物を置ける棚があった。リュックを置いてマントを壁のフックにかけるとベッドに座った。何とか今日は無事に過ごせそうだ。
「ポッポ」(見張り用が一体いるな)
「わかった」
私は両手を組み目を閉じて集中した。ほんのり光り出す手を広げるとボワンとそれは膨らみふたりのパフが現れた。
「あぁ……やっちゃった」
さっき城から逃げ出す時に久しぶりに大きく魔力を使ったせいか繊細な動きが上手く出来なかったようだ。
「ポッポ」(慣れぬ事態で疲れているのか?集中力散漫だな、これを機に魔術の扱いを訓練した方がいい)
「えぇ〜、これからはパフがずっと側にいれるからもう良いじゃない」
「ポッポ」(馬鹿者、また以前の様にひとりで攫われたらどうするつもりだ。
いちいち集中せずとも魔術を反射的に思い通り操れる様になっておかないと命に関わる事があるぞ。また暴走しそうになったらどうするつもりだ)
「その時はまたパフが助けてくれるでしょ?」
「ポッポ」(無論全力は尽くすがロージーも大きくなった。あの時のように上手くいくかはわからんぞ)
体の成長と共に魔力も増えた。私は元々多い方らしいが、これまで使い方を訓練した事が無いので自分でもどの程度なのかよくわからない。
「ポッポ」(まぁ良い。ついでに明日の狩り場を探しておく。少し遠方まで行かねばなるまい)
そう言ってひとりのパフは魔物を探しに行き、もうひとりは屋根にあがったようだ。
「そう言えばタイラーの所に行った子はまだ帰らないの?」
「ポッポ」(あぁ、タイラーがなかなか一人にならんから渡せてない)
「置いてくればいいのに」
「ポッポ」(無くすとマズイであろ。直接渡す方がいい)
そうね。せっかく買ってもらった物だもんね。
食事の時間が来たので一階の食堂へ降りていった。
宿の主人は既に混み合っている食堂を行ったり来たりしながら注文を取っていたが私を見つけると一番奥のテーブルに一人で座っている年老いた男を指差した。どうやらその人を私に紹介してくれるらしい。
テーブルに近づくと男が顔をあげた。見覚えがあったその男は昼間、服を買う店を選んでいた時に見かけた男だった。
「アンタが魔物を引き取って欲しいって姉さんかい」
ちょっと強面の男は私をジッと見たあと席につくよう促した。失礼しますと声をかけテーブルの向かいに座った。
「はじめまして、わたくしはロージーと申します」
「わしはアントンだ。で、早速だがどんな魔物を売ってくれるんだい?アンタどう見てもゴブリン一体倒せそうに無いがな。武器はなんだい?」
「エモノ?」
「武器だよ、なんで戦うのかって聞いてんだ。それで大体どんな魔物が倒せるのか検討がつく。アンタ独りなんだろ?」
せっかちな性格らしいアントンはイライラと足を揺らしている。
武器か、武器なんて持ってないけど……あ!
「ナイフがあります」
昼間パンを切るために買った事を思い出した。実際にアレで魔物を倒すのは嫌だけど。
「ナイフ?鳩でも捕まえるつもりか?」
私の肩に止まっているパフを見てアントンは笑った。
「鳩は魔物じゃありませんよね」
驚いて聞き返した。そんな事は聞いた事が無い。
「冗談が通じねえのか。困ったなぁ、こっちも商売なんでね。まぁ最初は持って来た魔物を見て決めるって事でいいなら引き受ける」
「ポッポ」(条件を言え)
「あの条件があるんです。いいですか?」
私はパフに教えられた通りの条件を提示した。
「魔物の引き取りは現場渡しで、下処理無し、運賃無し、現場までの送り迎えに積み込みもそちらで、それから他の人に私の事を話さないで下さい。その代わり取引価格は売値の五割でいいです」
アントンは私の話に呆気に取られた顔した。
パフの話によると本来、魔物の売値は持ち込みを十割とするとアントンのように仲介業者を介した手数料は二割らしい。残りの八割が売り主の取り分というのが相場だ。
私はそれを五割でいいとし、そのぶん面倒な下処理などを込み込みにしてもらったのだ。
魔物の下処理も出来ず、力もなく、馬にも乗れず馬車も持っていない私にとってはその方法しかない。
「随分思い切った取引だが……まぁいいだろう。他言無用はよくある話だ。取り敢えずは請け負った。いつから始める?」
「明日からでお願いします」
すぐにでもお金が必要だ。
「どこまで行く気だ?」
「詳しい場所は明日の朝にいいます。ここから馬車で二時間ほどです」
偵察に行っているパフからの連絡でそれくらいの時間だと伝えた。
「馬車で二時間か……」
アントンは一人で何か考えだし、私には明日早朝に宿の前で待つように言って帰って行った。
そのまま食事を頂きすぐ部屋に戻るとさっさとシャワーを浴びてベッドに潜り込んだ。




