43 行方
ギデオン達と手を組む事になって少しは事が進むかと期待した。
こっちの計画ではゾルガーの信頼を少しは得て、それからって事だったがその部分が省かれただけでもかなりの時間と労力の短縮だろう。
ロージーが出ていく事のキッカケを作ったレーンとは最近上手くいってない。幼馴染みでいつも暴走しそうなオレを上手く誘導してくれていたのは奴だが今回の事は看過出来ない。
「確かにちょっと言い過ぎよね。ローズマリー様自身には罪は無いんだし」
再びやって来たレオニーがレーンを責めた。
「貴族ってだけで気に食わないって言ってたのは誰だよ」
オレとレオニーは顔を見合わせた。二人共身に覚えがある。
「この婚約するって作戦を立てた時だって最後まで嫌がってたのはタイラーじゃないか。貴族の娘とかぁ……って」
「オレが嫌だったのは、ロージーにそこまで無理やり賭けさせていいのかって思ったからだ。本人は家族と断絶させられるかもって気づいて無かった感じだったからな」
作戦を立てた時と実行する時じゃ、彼女に対する印象はもう変わっていた。最初は作戦に不要となれば放り出すつもりだった、オレたちみたいに苦労すればいいって思ってた。
だがどうだ?ロージーは彼女にしか分からん苦労をして来た。それをオレたち平民のせいだとも貴族のせいだとも言ったことはない。
よく分からなくなったんだ、自分には大義名分があるって思っていたがそれは完全なものじゃないと知らされた気分だ。
ロージーを犠牲にしても実行していい事だったのか?
だが実際は実行し、ロージーは家族を失った。行く先が決まるまで婚約でも何でもして面倒をみる義理はあったんじゃないか?彼女は今、誰も味方もいないどこかで独りぼっちだ。
どこにいるのかすら……あるな。探す手がかりは目の前にいるコイツだ。
白すぎる鳩は気持ち良さげに窓辺で丸くなって日向ぼっこだ。
「パフ、お前ちょっとは手伝う気は無いのか?でないといつまでたってもロージーを探しに行けないんだぞ」
誰かがいる時はどこかに隠れているがオレが一人の時には出て来て、まるで早く探しに行けと急かしているようだ。
「ポッポ」
「だから、ゾルガーの事を偵察して来るとか、オスロワスの動きを教えてくれるとか、いつもオレの事を見張っているなら何か手伝えるだろう」
ゾルガーも気になるが目の前に迫っているのはオスロワスの事だ。
数日前から王都近くの西の砦からひっきりなしに連絡がくる。内容は様々だがその中から精査していつ仕掛けてくるか見極めなければいけない。
かつて魔王が占領していた旧ウギマ跡地は魔王討伐後オレたちの手によってある程度魔物を取り除き平定した。実はその時、倒した魔物を引き受け売りさばく事で仲間が資金を得ていた。
騎士団から給料は出る、魔物の後始末が面倒だと言う貴族たちから金を受け取って魔物を売った金も得るという最高の儲け口だった。
魔王を倒すのに苦労したんだからそれくらいはいいだろう。
魔王と言えど別に魔物だけが奴の配下では無い。奴自身も魔術師だったように仲間の人間の中には魔術師も元騎士もいた。資金を調達する奴もいたようだ。
魔術が使えると言う事は貴族の血が入ってる。平民との間に出来た者なのか、貴族崩れなのか知らないが奴らがこの国に不満を持っているのは確かだったろう。それはオレたちも同じだったがオレたちの村を蹂躪し、仲間を殺した事は許せなかった。オレたち平民が襲われている間何も手を打ってくれなかった貴族や王にも恨みは募った。
中でもゾルガーはひときわ残忍で恨みの対象として他の追随をゆるさなかった。
物資の横領は当たり前、人も物も平民は自分たちにとっての都合のいい捨て駒くらいにしか見えていない事がありありと見えた。
オレたちの村を魔王が襲っている間に貴族たちを逃していたと聞いた時は腸が煮えくり返る思いだった。奴らが横領した物資が到着せず飢えた子供が何人いたか。
正攻法では埒が明かない。入り込んで貴族の象徴であるゾルガーを崩壊させることがオレたちの目的の一つだった。
「トーマス様がお見えです。いかがなされますか?」
護衛が伺いを立てて来た。
チッ……もう嗅ぎつけたか、言い逃れは出来そうにないな。
「通してくれ」
放っておいたせいで怒りを溜め込んでいるようだ。
荒々しく入って来たトーマスはオレの胸ぐらを掴んだ。護衛が慌てて奴を引き離し部屋の外へ出そうとするのを止めた。
「構わん、大人しく座るなら話を聞くが?」
トーマスが頷いたため護衛に離すよう指示し部屋で二人になった。
「どうなっている!まさかまた攫われたのではあるまいな!」
ロージーがいなくなったという事実は静かに広がっている。いずれゾルガーの耳にも入るだろう。
「流石にそこまで馬鹿じゃ無いだろう。自分から出て行った。ここにいれば私に迷惑がかかると思ったようだ」
「思ったようだ、では無いだろう!何故引き止めない!」
「止めなかったと思うか?勝手に飛んで行ったんだ、話す余地も与えてくれなかった」
文字通り鳩と飛んでいったとは思っていないであろうトーマスはソファに体を沈めると頭を抱えた。
「無理にでも連れ出せばよかった。そうすれば少なくともこんな事態には……何故私を頼ってくれなかったのだ」
その言葉を聞いて一瞬ヒヤッとした。
その手もあったのか。
オレだってゾルガーのことが無ければこんな所すぐにでも出て行きたい。
結局オレもゾルガーとロージーを天秤にかけてゾルガーを取ったことになるのか。
悔やむ心に改めてオレの中に占めるロージーの存在の大きさを認識した。
貴族の女は恐ろしいね。いつの間にか深く影響を及ぼしてくる。
「全く手がかりもないのか?」
力無くトーマスが聞いてくるが奴にパフの存在を教えてやる義理は無い。
「今方々探させている。女一人だ、上手く行けば見つかるさ」
「見つかる前に何かあったらどうする?」
多少の事は心配ない。パフが何とかするだろう。あるとすれば……いや、考えるのは止めだ。ここにいるパフが何も言わないって事は無事って事だ。
不満を爆発させたトーマスだが言っても仕方が無いと思ったのか、自分を頼ってくれなかったショックからか、思ったよりすぐに帰って行った。
面倒くさい事が片付くと入れ替わるようにレーンが部屋に入って来た。
「いよいよみたいだぞ。会議室へ呼び出された」
会議室って事はオスロワスか。前回の戦いは一年かかった。今回はどうなる事か。
「お腹すいたわね」
トボトボと街中を歩いていたがどうにもこれだけは我慢できない。
お金は元々持っていなかったけどせめて何か売れる物でも持ってくれば良かった。引き留められたくなくてすぐに出てきたのはいいけど流石に無計画すぎたかな。
「お金ってどうやって稼げばいいの?」
さっきまで沢山いた可愛いパフ達は流石に多過ぎると言われてふたりだけ残した。
ひとりはタイラーにお使いに出したきりまだ帰らない。
「ポッポ」(一番手っ取り早いのは魔物を狩ることだな)
肩にいるパフは即答する。
「狩ってどうするの?」
「ポッポ」(売るのだ。皮や身が売れたり、魔石が売れたりする。冒険者や腕に覚えのある奴等はそうやって生計をたてるのだ)
そうだったのね。魔物って結構役に立つんだ。だったら当分はそうやってお金を稼いで行くしかないか。私に出来る事と言えば秘書としてやっていた書類整理ぐらいで、後は計算が少し出来るくらい。それが平民の暮らしの中でどこまで通じるかまだわからない。
それで、魔物ってどこに行けば狩れるのかしら?




