34 凱旋2
いよいよ王都の人達へ勇者タイラーの凱旋を知らせる為に街の中心の大通りをゆっくりと馬車で城へむかう。
本来ならタイラーは騎馬で行く所だが私と並んで婚約を知らしめる為に特別仕様の馬車で城へ向かう。
屋根が取りはらわれた馬車に私は腰掛け、隣に寄り添ってタイラーが立つ形で門をくぐった。
「わぁーー勇者タイラーだ!!」
「タイラー!スゲー!」
皆が彼を讃え歓声をあげた。
タイラーはにこやかに手を振りそれに応える。
「ロージー、こっち向いて笑え」
私の肩に手を添えたので見上げるとお互いニコリとした。
「あ!あれ誰だ?」
「婚約者したらしいぞ!」
「ゾルガーのお嬢様のローズマリー様と婚約したそうだ!おめでとうございます!」
どこからともなく誰かがそう言うと一層歓声は大きくなり祝福の言葉が飛び交った。
「どうして皆私の事を知っているのかしら?」
タイラーに小声で尋ねると顔を寄せイタズラっ子のような顔をした。
「仕込みだ。仲間に噂を広めさせている。城につく頃には出来上がってるぞ」
平民の中で話が盛り上がれば彼の作戦が進みやすいらしい。
そんなものか。
見知らぬ人達から名を呼ばれ祝福されているがまるで自分の事とは思えない。愛想よくしろと言われ必死に作り笑いを続けた。ほっぺが引きつるよ。
「ポッポ」(先ずは平民に国一番の派閥のお嬢様と勇者が結ばれるという事を宣伝するのか)
パフのひとりは私の膝に乗っている。おかげで街の人達のもの凄い歓声にも何とかパフを撫でて気持ちを落ち着かせながら堪えていた。レーンがパフにまわりを見張らせてくれと言われたのでもうひとりのパフに空から見てもらっている。
「ポッポ」(この先に不審な奴がいる)
パフが何か見つけたようだ。
「タイラー、この先に誰か悪い奴がいるそうよ」
「パフに向かわせろ」
私の膝元からパフが飛び立つとまわりから驚いた声が聞こえた。
「鳩だ!」
「鳩を飼ってるの?」
鳩じゃなくてパフだけどね。
パフが羽を羽ばたかせ前方に飛んで行く。入れ替わりに上空からもうひとりのパフが戻って来た。
「ポッポ」(コイツの仲間とやらが来て捕まえたようだがただの小物だな。貴族が嫌いで恨み言をおっておる)
「あなたの仲間が捕まえたみたい。貴族が嫌いなんだって」
タイラーに報告すると鼻で笑った。
「気持ちはわかるが馬鹿な奴だ」
そう言ってまた歓声に応えながら手をふった。
「平民は貴族が嫌いなのね」
ここに来るまでの町や村でもバレないように気をつけろと言われた事を思い返す。
「恩恵にあずかってる奴らはいいけどそれ以外のほとんどの平民は近寄りたいとは思わないね。それに貴族を一番憎んでるのは貴族なんじゃないか?」
そう言って私を見るとニヤリとした。
確かにそうかも……少なくとも私は貴族で良かったことなど何一つ無いと思っていた。自分が隔離されていてもそこは安全に生きていける甘えた場所でもあったのだとわかった後も。
「そんな顔するな、今は笑え」
タイラーに注意され自分が暗い顔をしてしまった事に気づくと慌ててまた笑顔で彼を見た。
馬車は進み城へ近づく。
正面玄関に向かう為の門が大きく開き前庭の両サイドに騎士団が整列し勇者タイラーの凱旋を讃える。
門の中まで平民は入れないが城を囲む格子状の塀の隙間からその様子を皆が見物しタイラーが国をあげて歓迎されているのだと示しているようだ。
正面玄関に到着すると王自らが階段上に出迎え馬車から降りた私達はゆっくりと二人で上っていくとその前に跪いた。
「勇者タイラーよ、此度の活躍見事であった。魔王討伐だけでなくその後の魔物の処理、そして侵略してきた隣国を打ち負かすなど素晴らしい働きだ。大儀であった」
国王アイザックはそう言ってタイラーを立たせ門の外の平民にその姿をアピールし私達を伴って城へ入って行った。
背後では平民達からの歓声がやまなかったが廊下を進むに連れてやがて静かになり王の執務室の前に来る頃にはいつもの静けさが取り戻されていた。
王は振り返りニッコリと笑った。
「タイラー、少し良いか。ローズマリーと話がしたい、いやここで構わぬ」
そう言うと私の手を取りすまなさそうな顔をした。
「無事で良かった、私が其方をセバスチャンの部屋に行かせたばかりにとんでもない目に合わせてしまいすまなかったな」
「陛下、勿体ないお言葉です。わたくしは仕事をしたまでですので、どうかお気になさらず。こうして無事に帰ることも出来ましたし」
それを聞いた王はタイラーを見た。
「そうであるか、だがこれを無事と言っていいものか」
タイラーは微笑んだ。
「私にとっては幸運でした。ローズマリー様をお救いし、こうして婚約出来たのですから」
「其方にとっては幸運であろうな……ローズマリーは素晴らしい淑女だ。本来であればこの国最大派閥のゾルガーの娘としてそれに応じた将来が約束されるはずであった」
厳しい眼差しでタイラーを見定めようと王は続ける。
「その事をどう思っておるのだ。それによってはたとえ勇者であっても其方をこのままここから出すわけには行かぬ」
思ってもみない厳しい言葉に私は驚いて握っていた王の手に力を込めた。
「陛下、彼は悪意を持って私に近づいたのではありません。偶然助けて頂きました」
私に目を向け王は先を促した。
「助けてもらったからと婚約するなどローズマリーはそんなに浅はかではあるまい?」
私は王から手を離しその場に跪いた。
「陛下、残念ながらわたくしはとても浅はかな者でございます」
目の端にうつるタイラーの足がピクリと動いた。
「自分の置かれた立場や状態を自覚出来ずに今日まで過ごして参りました。彼はそれをわたくしに諭して下さったのです」
「諭すだと?」
王は怪訝な顔した。
「左様です。彼はわたくしが『無能者』だと知るとこのまま貴族社会で生きて行くのはわたくしにとって良い事ではないと言いました」
その言葉に王は痛恨の表情を浮かべる。
「確かに、今のままではローズマリーにとって良い結果が待っているとは言えんな」
「はい、彼はそこからわたくしを開放してくれると約束してくれました。わたくしはその言葉に心を打たれたのです」
タイラーも私の隣に跪き王へ訴えた。
「陛下は私が平民だからこの婚約に反対しておられるのでしょうか?」
王はタイラーを睨んだ。
「奢ったか勇者タイラー、だが私がそんなに狭量に見えるとは、まだ平民への配慮が足らぬと言うことか」
タイラーは深く頭を垂れるとゴクリと喉を鳴らした。
「申し訳ございません。ここへ来る前にローズマリー様の弟君のフェルナンド様から色々と苦言を頂きまして」
「苦言のぉ、おおかたすぐに別れろというエドワードの伝言を持って行ったのであろう」
王は私達に立つように言うと大きく息を吐いた。
「ローズマリーがこの婚約を自身が望んでいるのだという事はわかった。
だがここからが本番であるぞ。私も出来るだけの事はするが今、ゾルガーを敵にするワケにはいかぬ。タイラーと自身でなんとかせよ」
そう言ってドアを開けるよう合図した。




