130 逆襲3
ベヒモスは大きなネジ曲がった二つの角を持つ、巨体で頑丈そうな鎧のような皮膚で覆われた恐ろしい魔物だった。禍々しい空気を纏い敵味方構わず襲いかかり両方の国の騎士達が吹き飛ばされていく。
「お前らは引け!!ここは俺が食い止める!」
混乱した中タイラーが叫ぶ声が聞こえた。
「駄目です大隊長!オスロワスの奴らに囲まれてます!!」
私とヤンが到着した直後にオスロワス騎士団が密かに回り込みラッテンリット騎士団をベヒモスに始末させようとしていた。このままじゃ全滅する。
ベヒモスはジロリとタイラーを見据えると雄叫びをあげ彼に向かって突進して行った。数人の騎士がタイラーを庇うように前に出たがとても止められるとは思えない。
「パフ!壁をお願い!」
私は咄嗟にベヒモスに向けて火球を撃ち放った。パフはギリギリでタイラー達の前に壁を作ると私が放った火球の爆発に巻き込まれないように守った。爆発音がし火球受けたベヒモスがヨロリとするとその足を止めた。少し焼けただれた頭部の恐ろしい眼が私の事をギロリと睨む。
「ヤン、早く逃げて!一緒にいては危険だわ」
私が再びベヒモスを攻撃するために火球を作り出しながら叫んだが彼はそれが聞こえなかったように私を抱えると走り出した。
「ヤン!駄目よ私と離れなきゃ」
「オレのほうが素早く動けるし戦うことにも慣れてる。いいから攻撃に集中しろ」
なるほど、私の足になってくれるのか。ベヒモスが私に向かって走り出した。タイラーを狙うように仕向けられていたが私から受けた攻撃に気が変わったらしい。もう一度火球で攻撃するとそれから庇うようにベヒモスの前に一瞬で壁が出来る。
「ポッポ」(オスロワスの魔術師か、気にするな。私が引き受けるからベヒモスに集中しろ)
その言葉通りパフは作られた壁を一瞬で消し去りすぐに礫を敵のいる方向へ放つ。きっとそこに魔術師がいるのだろう。もうひとりのパフと連携を組んで居場所はすぐに突き止めたようだ。
私もまたすぐに幾つも火球を作りベヒモスを攻撃し戦場に爆発音が響き渡る。ベヒモスは直撃を受けながらもなかなか倒れず、自分の思うように進まない状況に腹を立てたのか焼けただれた体で私に突進し始めた。慌てて壁を作り止めようとしたがそれすらぶち破り向かってくる。ヤンが必死に私を抱え逃げてくれるがそこへ数人の敵の騎士が現れ逃げ道を塞がれた。
「マズイ!ローズマリー様、オレが奴らを押さえるから一人で逃げろ!魔術でなんとかなるだろ!」
そのまま敵に斬り掛かりあっという間に二人斬り倒した。ヤンてかなり優秀。
彼を一人残すのは躊躇われたがベヒモスは私を狙ってついてくるだろうから今は離れた方が彼のためにいいかもしれない。
ベヒモスを足止めするために土の魔術で奴の足を地面にめりこませ硬く固めた。動きを止められ怒り狂ったベヒモスの雄叫びを聞きながら私は走り出す。
「ポッポ」(ロージー、こっちだ)
パフに誘導され岩場の陰に入っていった。そこは人気がなくひと息ついた。
「逃げ切れると思ったか」
奥まったところからぞろりと騎士達が現れた。見たところ魔術師もいる。
「噂じゃ相当な腕だと聞いたがこれまでだな。ここに誘い込まれたとも知らず馬鹿なやつめ」
どうやらこの場は魔術師が仕切っているらしく偉そうに前に出てくる。パフは倒しそこねたのだろうか?
「殺すには惜しい逸材だ、どうする?私と奴隷契約すれば助けてやらなくもないぞ。お前はゾルガーの娘だそうじゃないか。これまでもゾルガーとは無縁ではない、大して抵抗は無かろう」
こいつが何故私の事を知っていてゾルガーとの繋がりを口にしてまで私を取り込もうとしているのかはわからないが勿論答えは否だ。黙ったまま攻撃しようとすると背後に禍々しい気配を感じ振り向いた。
「迷っている時間は無いぞ、ベヒモスと我らに挟まれてもう逃げられまい」
ベヒモスが私に向かって腕を振り下ろすと同時にパフが壁を作りそのすきに脱出したが騎士が立ちはだかっている為まだ逃げ切れない。
「ポッポ」(遠慮はいらんぞ。ここにはしばらく味方は来ぬからな)
なんだ、これも作戦のうちなの?
パフの言葉を聞き直ぐに強力な竜巻を出しそこへ火も加え火炎竜巻を作るとベヒモスにぶつけた。巻き上がる火炎に焼かれベヒモスは無抵抗に宙に浮くと高く舞い上がり敵が陣を張っている方向へ向けて飛んでいった。
これって周りを巻き込むから味方が近くにいるときは使えないのよね。
ベヒモスを始末し振り返って魔術師率いるオスロワス騎士達を見た。火炎竜巻を彼らのいる方へ少し向けると怯えた顔をする。
「降伏して」
一言そう言うと魔術師は怯えながらも私に礫を撃ってきた。当然それは壁を一瞬で作り避けきる。
「魔物は倒せてもお前に人を殺せるか?やってみろ」
確かに私はまだ意図して人を殺したことはない。一瞬の油断に敵はつけいると一斉にこちらへ向かって来た。私は顔を背けるとそれらに氷の矢が降り注ぎ次々と騎士達が倒れるのがわかる。
「ごめんね、パフ」
「ポッポ」(構わぬ、ロージーを守るのが私の役目だ)
パフは私の代わりに騎士達に攻撃してくれたがどうやら死んではいないようだ。きっとパフが私のことを考えてあえて殺さなかったようだ。抵抗できないように土の魔術で体の自由を奪った。そこへ慌てた様子でヤンが駆けつけた。
「ローズマリー様!無事か!?」
心配してくれたのか急いで走ってくるヤンが笑顔で両手を広げて近づいてくる。
え?これって避けちゃ駄目なの?さっきまで散々お世話になちゃってたお礼がコレなの?
抱きしめられそうになった瞬間、ヤンの頭をガシッと掴んで払いのけ私を抱きしめてくれたのはタイラーだった。
「ロージーすまん、大丈夫だったか」
優しく包み込まれ安心したと同時に胸がドキドキとしてくる。
「今回は頑張ったんだからオレにも抱きしめる権利がある!」
ヤンが訳のわからない主張をしてくるとタイラーが私を抱きしめたままヤンへ顔をむける。
「ロージーの婚約者はオレだ。勝手に触るな」
「なんだよ、ロージーちゃんが男と暮らしてるって落ち込んでたクセにいきがるな!」
「ロージーちゃんって言うな!」
ここで言い合いとか止めて欲しい。身動き取れないオスロワス騎士達がぬるい目でこっちを見てる。
「何をゴチャゴチャ言ってるの!」
やっとパフの囲った壁から抜け出したのかミランダがやってきたようだ。ヤンを押し退けタイラーの前に立つとビシッと敬礼した。
「大隊長、あちらももうすぐ片付きます。後は作戦通りダーレン大隊長の応援に向かう準備は出来てます」
私がこちらで戦っている間に向こうでも戦闘が行われ、それにも勝利し次へ向かわなくてはいけないらしい。拘束していたオスロワス騎士達を連行し魔術師には魔術を封印する魔術具がつけられると連れていかれた。
私はラッテンリットの騎士達のところへ行くと怪我をした騎士達を癒やしていった。重傷者もかなりいたが全ての騎士達の怪我を治すとタイラーの元へ行った。
自分の事より部下の方を優先するため最後に彼の怪我を治す。ふわりと癒やしの光で彼を包み込むと微笑んでくれた。
「ありがとう、オレはまだ作戦続行だけどロージーはヤンと先に帰ってくれ」
そう言われる気がしていた。
「後ろで怪我人を見ているだけでも駄目なの?」
何とかついていきたくて彼の腕に手を添え側に寄ると頼み込んだ。
「命令違反が常習のロージーの言うことはあてにならないからな」
少し頬を染めて視線をそらしタイラーが言った。
駄目か……今度は人同士の戦いだもんね。
「無事に帰ってきてね」
彼から手を離すとそのまま背を向けヤンが待つ方へ歩いていった。




