129 逆襲2
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敵に気づかれないよう崖の隙間を縫ってこちらへ少しずつ味方の騎士たちが集まりつつあった。敵も色々な手を使いラッテンリットの様子を見ているだろうから不審に思われないよう制限されているがある程度の人数が集まった。
あちらには私のことも少し知られているらしく、戦場では私を見つけた魔術師が狙ってきていたようだ。何をどこまで知られているのだろう。
タイラーは皆を集めると作戦内容を話した。
奇襲で王都を狙うつもりのオスロワスはまだこちらがその企みに気づいているとは知らない。それを逆手に取りこちらで戦いを始めオスロワスが企み通りに王都を奇襲すべく入り込んだところを東地区の大隊長であるパトリック・マッケンジーと西地区の大隊長ダーレン・ウォーカーとが挟み撃ちにするという作戦らしい。それを成功させるためにもこちらで充分に敵を引き付けておく必要がある。
タイラーは私にお目付け役として再びヤンとミランダをつけると敵がまだ保持している魔物を討伐するように頼まれた。散々心配をかけ叱られた事を挽回するためにもここは頑張らなくてはいけないだろう。
前もってパフに私を配置する場所を知らせていたようで隠れていた穴から出るとパフを先頭に崖沿いに迂回し敵陣があるところから少し離れた小高い場所まで来た。そこから少し離れている低い位置に敵はいるようだった。
ここからは何故かじっとひとかたまりになっている魔物の集団しか見えないが恐らくその後にオスロワス騎士団が陣を張っているだろう。
「なんだかんだ言ってもローズマリー様がいれば余裕なんじゃないか」
ヤンとミランダがコッソリ敵を見張りながら作戦開始の合図を待っていた。タイラーの側に再びパフを置いてコチラとの連絡係としている。
「それはそうでしょうね。だけど敵は戦うことに慣れた魔術師でしょうから油断は出来ないわ」
魔術の力が上回っていたとしても私は戦いには素人だ。上手く作戦を立てられればどうなるかわからない。
「戦場では何が起こるかわからない、だから恐ろしいのね」
タイラーに叱られた時の事を思い出した。
「そうです。強いもの勝つとは限らない。だから魔王だって倒せたのです」
ミランダがそう言うとパフが舌打ちした気がした。
「ポッポ」(ロージー、合図がきた。あの魔物へ水浴びさせてやれ)
「わかった」
深呼吸すると頭上に大きな水球を作った。それをどんどん膨らませ渦を作る。
「ロ、ローズマリー様、そろそろいいのでは?」
ミランダとヤンがそれを見上げそのまま落ちてくる事でも想像したのかゴクリと喉を鳴らした。
「オレもうローズマリー様を無理矢理抱きしめるの止めるよ」
ヤンがポツリとこぼす。
抱きしめられて無いわよ!
「ポッポ」(そうだな、初弾はこんなものか)
パフに促されコクリと頷くとそれをヒョイッと魔物がいるところへ投げつけた。
激しく渦巻いた水球は轟音をたて岩陰に潜んでいた魔物へ直撃するはずだったが側の岩にもぶつかりそれを砕きながら当たった。
「あ、ちょっと失敗したかしら?」
遠目にも岩が砕け飛び散るのが見える。
「ポッポ」(いや、結果はより良かったな。砕けた岩で攻撃力を増したろう)
土石流のように魔物たちを敵陣の中へ押し込んだ形だ。地形的に騎士団がいる方へ下っていたので今頃大量の水と魔物に揉みくちゃにされているだろう。
パフが偵察し、頃合いを見てもう一度水球を作ると再び攻撃した。さっきの攻撃で岩が砕け隠れるところがなくなり魔物が流された先も見えるようになり視界が広がったので今度はちゃんと直撃させた。側にいる二人は大人しく私のすることを並んで見ていた。
「ローズマリー様がラッテンリットにいらして本当に良かったです」
今度はミランダポツリと溢しヤンが同意するように頷く。
しばらくすると味方の騎士団が水が引いた頃を見計らって突撃していくのが見えた。先陣をタイラーが走るのが見え驚いてミランダを振り返る。
「大隊長っていつも真っ先に敵へ向かうものなの!?」
なんだかタイラーがいつも危険なところへ飛び込んでいる気がする。
「違いますよ、大隊長だけですよ。何度止めるように進言しても言うこと聞かないんです。今度ローズマリー様から注意して下さいね」
ミランダが呆れたように言ったがヤンが話を続けた。
「そうは言ってもオレたち平民が命令しても貴族は直ぐに言うことなんて聞いてくれないじゃないか。タイラーが認められたのだって先陣切って突っ込むから平民に負けたくなくて騎士たちがそれに続いたからじゃないか」
「初めはそうだったかも知れないけど今は認められてるんだからもういいでしょう」
「嘘つけ。貴族がそんな優しい性格か?」
「貴族にだって色々いるわよ」
なんだか仲よさげに見えているのは気のせいだろうか。それよりも遠くで敵と戦うタイラーの様子が気になる。
「もっと近くに行きましょう」
そう言って向かおうとするとガッシリ両肩を二人に掴まれた。
『だから駄目だって』
声を揃えて反対された。
「何の為にこんな離れた場所から攻撃させてると思ってるんだ」
「そうですよ、ローズマリー様の安全のためですよ」
どおりで離れた場所に連れて来られたと思っていたら私が眠っている間にパフと攻撃できる距離をタイラーと話し合いこの場所を探し出していたらしい。
「だけどここからじゃあまり良く見えないし、もし味方が危険な目にあっても助ける事が出来ないわ。向こうだって魔術師がいるんでしょ?」
私の言葉にミランダが首を横に振る。
「ザッカリーがいますから。ローズマリー様も彼が作った洞穴で休まれたでしょう?」
あれくらい簡単に出来る。向こうの魔術師が放った火球はもう少し強力だった気がする。まさかそれが全力ではないだろうし。
「とにかくここにいてくれ。オレもう本当にタイラーに殴られるのは嫌だ」
ヤンが嫌で嫌で仕方ないというふうに顔をしかめた。
でもほら、そこは、まぁ我慢してもらって……とにかく二人から逃げようかと思っていたらパフが急に声を上げた。
「ポッポ」(そうも言ってられんぞ、どうやら強力な魔物が隠れておった)
振り返って戦場を見ると黒い大きな影が見えた。
「なにあれ……」
ミランダが息をのんだ。
「行くぞ、ベヒモスだ」
ヤンが急に私の手を取り走り出した。
「ミランダは危険だからそこにいろ」
ヤンの言葉に彼女はニヤリと笑い一緒について走る。
「これでも騎士ですからね、そんなわけにはいかない」
「奴を相手に騎士も平民もない、ショボい魔術しか使えんやつは邪魔なだけだ」
きつい物言いのヤンにミランダが怯む。言いすぎではないだろうか。
「でも、私は」
「いいから、向こうへ行け。これ以上は構ってられない。パフ、ミランダを止めとけ」
その言葉にパフが彼女を遮るように壁を作り囲った。ミランダの魔術ではなかなか抜けさせない程度に壁を分厚くしたようだ。
「ちょっと、やり過ぎよ」
ヤンに言ったが無視された。
「ポッポ」(ベヒモス相手に油断は出来ん。ミランダの安全の為には仕方ない)
パフがこれほど警戒するということはかなり強いということか。いつものヘラヘラしたヤンでは無く真剣に私の手を引く彼は別人のようだ。
ヤンに連れられ森を抜け、タイラー達が戦う場所に近づくに連れ悲鳴や武器がぶつかり合う音が聞こえてきた。
「一旦逃げろ!!もう一度体制を整えろ!!」
怒号が響き場を見渡せるところに出るとそこは混乱のさなかだった。




