127 オスロワス騎士団3
ぐっと腕を掴まれ振り返るとヤンが呆れたような顔していた。
「なんのためにここに来たと思ってる。ローズマリー様の安全を確保するためだぞ、前線で戦ってるタイラーの身になれよ」
「だけど魔術師が絡むならわたくしが行かなければとても……」
「ラッテンリットの騎士団にも優秀な魔術師はおります」
ミランダが私の前に立ちはだかり行かせまいとする。彼女の話によると私が戦った旧ウギマでの戦いの時にはいなかったが魔術部門の優秀な魔術師ザッカリー・ノービスという男がここに来ているという。
「ザッカリーは下位貴族でしたが魔術によって騎士団の中では中隊長まで登りつめております。ローズマリー様には敵いませんがこれまでの戦いでは充分な戦力となっておりますからきっとオスロワスの魔術師に引けはとりません」
ミランダもさっきの攻撃は見ているがアレにも対抗出来るのだろうか、それならまだ安心できるかもしれない。
「ポッポ」(タイラーに挟撃の可能性は知らせた。既に撤退し始めておるから心配する……)
パフがそこまで言って急に黙り込んだ。
「パフどうしたの?」
その時遠くから地響きがしテントの外が騒がしくなった。ヤンが私から手を離すと外へ飛び出しミランダと私もそれに続き、音がした方を見ると白んできた空に遠く山の方でもうもうと土煙が立ちのぼっていた。
唖然とそれを見ていると違和感がしタイラーと一緒にいたパフが消えたことを悟った。ぞわりと寒気が走り気がつけば走り出していた。
「ポッポ」(ロージーよせ!今行っても巻き込まれる!)
「タイラーは無事なの?!」
騎士たちが混乱する中、一頭の馬を無理矢理奪い取るとその背に乗り駆け出した。後ろからミランダが叫ぶ声が聞こえたが振り向くことは無かった。森を進むとこちらまで流れてきた土煙で視界が遮られる。逃げてくる騎士たちとぶつかりそうになり馬を降りると風の魔術で土煙を排除しながら進んだ。
「パフ!タイラーを探して!」
さっき引き返す時に他のパフは消してしまっていた。
「ポッポ」(もう二体ほど出せ)
そう言うと直ぐ先に飛んでいった。走りながらパフをふたりよび出すと前後を挟むように飛ぶ。逃げ惑う騎士が混乱し私にぶつかり弾き飛ばされた。
「ポッポ」(ロージーこっちだ!)
パフに導かれ再び地鳴りが響く中を土の魔術を駆使して崩れてくる岩や土砂を避けて進んでいく。無我夢中で走っていくと急に拓けた場所に出た。まだ土煙がおさまらず視界は悪い。咳き込みながら辺りを窺っているとパフが右の方へ誘導してくれる。
「ゴホッゴホッ、タイラー……どこにいるの?」
何とか声をあげると突然腕を引っ張られ口を塞がれた。驚いて魔術を使おうとすると耳元で声がした。
「静かに、私はザッカリー・ノービス。ラッテンリット騎士団の者だ」
確かミランダが言っていた魔術師の名だ。
黙ったまま頷くと彼はそっと口を塞いでいた手を離した。彼の後についていくと崩れた崖の陰に魔術で上手く隠れられる洞穴を作ったようでそこへ入っていった。中では数人の騎士が疲れた様子で座り込んだり横になったりしている。
「見かけない者だな。大隊長を探していたようだし敵意もないから味方と判断したがどこの所属だ?」
騎士服に似た格好の私にザッカリーは尋ねてきた。面識がなかったので私が誰だか分からないらしい。
「タイラーは無事なんですか?」
そんなことより先に彼の安否が知りたかった私はザッカリーに詰め寄った。
「先に名前を言え!」
私を怪しんでいるのか睨まれ肩を突き飛ばされた。走り通しで疲れていたせいかよろけて躓き尻もちをつく。
「キャッ!」
そこへ穴の入り口から数人の騎士が土埃にまみれながら駆け込んできた。
「ザッカリー、もっと広く出来るか?」
騎士をかばいながら入ってきた男はタイラーだった。彼を見た途端涙がこぼれそうになった。
「タイラー!無事だっ……」
「ロージー!!下がってろって言ったろ!何故ここにいるんだ!!」
怒鳴りつけられビクリとすると零れそうな涙も止まった。
無事だった数人でがけ崩れから生き残っている騎士たちを捜索し敵に見つからないようにここへ運び込んでいた。
粗方探し終わったのか今度は騎士達の傷の具合を確かめているようだ。洞穴の中には二十名ほどがいて怪我人は十名ほど。軽症がニ、三名。後は骨折など重症な者が多い。タイラー自身も頭から血を流しており動きを見ていてもどこか他にも怪我しているようだ。
「大隊長、ポーションが足りそうにありません」
ザッカリーが皆の具合を確かめ残り少ないポーションを並べて言った。騎士達は戦いに出る時に支給されるポーションを所持しているが勿論数に限りがある。
「あ、あの……私が」
さっき怒鳴られたきり、こっちを見ようともしなかったタイラーがまだ怖い顔のまま振り返った。私は転んだまだまま座り込み動けなかったが怪我人がいると聞きおずおずと声をかけた。
「あぁ!?」
駄目だ、まだ怒ってる。だけど怪我人を早く助けてあげないと。
「あの大隊長、もしかしなくてもこの方は大隊長の婚約者で魔術師のローズマリー様ですよね?」
ザッカリーが今更ながら確認してきた。タイラーが私の名を呼んだことで気づいたようだがさっき他の騎士に確認していた。
「あぁ、そうだ」
不機嫌なまま答えたがザッカリーはそれを気にする風でもなく私に近寄ると膝をついて頭を下げた。
「先程は申し訳ありませんでした、私はザッカリー・ノービスと申します。騎士団の魔術部所属です。お話はイングバル様から伺っております」
「いえ、大丈夫です。わたくしはローズマリー・ゾルガーと申します。宜しくお願い致します。それよりポーションが足りないようですね」
ザッカリーは頷く。
「これから先の事を考えると残しておきたいところです。もしやポーションをお持ちですか?」
一瞬期待したように目を見開いて私を見た。
「いいえ、持っておりません」
そうですよねと言いたげにガックリと項垂れる。私は立ち上がると怪我をし横たわっている騎士の側に行く。その騎士は額から血を流し痛そうに顔を歪めていた。
「痛みはここだけですか?」
額の傷にそっと手を触れ癒やしをかけていく。ほんのり光ると騎士は驚き体を起こした。
「もう痛くありません。ありがとうございます!」
その声を聞いてザッカリーが側に来ると怪我を治した騎士の傷を調べた。
「完治してる……ローズマリー様は攻撃魔術が得意だと伺っていたのですがまさか」
「えぇ、癒やしも使えます」
またすぐ隣に寝かされている騎士に癒やしをかける為に負傷している足に触れ癒やしをかけた。ほんのり光る癒やしの光を信じられない顔でザッカリーは見つめていた。これまで攻撃魔術と癒やしの魔術両方を使える魔術師を見たことがないのだろう。私も聞いたことがない。
全ての重症者を治すと次に軽症の騎士を治そうとしてタイラーに止められた。
「魔力は有限だ。軽症はいい」
さっきよりはマシだがまだ難しい顔をしてる。
「だったら後は貴方ね」
そう言ってタイラーのこめかみ辺りの傷に触れると癒やしをかけた。彼は目をそらしこちらを見ない。続いて胸に手を添えるとそこにも癒やしをかけた。さっき痛そうに手を当てていた。
「大隊長、肋もいってたんですか。気づきませんでした」
ザッカリーが感心しながら私を見た。
「流石婚約者ですね、仲がいいと有名ですよ」
一気に顔が熱くなった。
「そ、そんな……ただの噂ですよ」
恥ずかしくなりタイラーから一歩離れた。




