126 オスロワス騎士団2
「タイラー!!」
悲鳴をあげるように彼の名を呼ぶと同時に味方の騎士団の上に降り注ぐように弓矢が迫ってきていた。
このままじゃ危ない!
素早く風の魔術で矢を薙ぎ払ったが全ては吹き飛ばしきれなかった。
「敵襲だ!!」
飛ばしきれなかった矢が味方の騎士達へ降りそそぐ。さっきまで辺りが薄暗く目の前の魔物を倒すことに気を取られ発見が遅れてしまったせいで騎士団が動揺している。タイラーがどこにいるかもわからなくなりどうすればいいかわからずオロオロとしてしまう。
「ローズマリー様落ち着いて、一度敵の騎士団との境に壁を建ててくれ」
隣にヤンが来ると戦場の様子を見てすぐに指示を出してくれた。素早くパフが反応し壁を作り上げた。すると壁が出来た驚きと敵の攻撃が一瞬緩んだせいでこちらの騎士たちも冷静さを取り戻し体制を立て直した。
「いいか!行くぞ!!」
タイラーが剣を高く上げ雄叫びをあげるとこちらを見たのでさっきパフが作った壁を消し去った。その勢いのまま騎馬で一気に敵騎士団に突っ込んでいった。
ブルッと体が震えだし怖くて泣きたくなってしまう。ミランダが私の肩を抱き寄せぎゅっと力を込めた。
「大丈夫です、大隊長は強いですから」
目の前で騎士団同士の激しい戦闘が始まった。まだチラホラと魔物がいるもののそれらはもう敵味方関係なく攻撃しているのでどちらにも邪魔な存在だった。騎士同士の剣が激しくぶつかり合う音が聞こえる。
「わ、わたくしも何かしなければ」
見ているだけでは怖さばかりがこみ上げる。何とかすきを見て魔術攻撃をしようとするが斬り合う騎士達の血飛沫を見ていると体がすくんでしまう。
「駄目ですよ、ローズマリー様には人同士の戦いには手を出させるなと言いつけられて来たんですから。さぁ後方へ下がりましょう」
「ポッポ」(タイラーの様子は私が見ててやるからそうしろ)
ミランダに続きパフにも促され進んできた足場を引き返そうとした。先頭をミランダが歩き後ろをヤンがついてきていた。タイラーが気になり振り返りつつ足を進めていた。
「ポッポ」(ロージー気をつけろ!魔術攻撃だ!)
パフがそういった瞬間、大きな火球がこちらに向かって飛んできた。素早く氷の魔術をぶつけそれを相殺する。
「パフ!魔術師がどこにいるかわかる?」
あれほどの攻撃力はこれまで見たことがない。味方にも魔術師はいるが基本は後方から騎士達の支援につくのが通常だ。さっきのは確実にここを狙ってきていた。
「ローズマリー様下がって!」
ヤンが私の前に立ち庇ってくれるがこれは私の領分だろう。
「いいえ、相手が魔術師なら剣だけでは倒せない」
パフを飛ばし敵の居所を探らせる。戦場を見渡すがどこからの攻撃か私にはわからないが騎士団へ向かって火球が次々と打ち込まれて、味方の騎士たちが何人も吹き飛んでいくのが見えた。
「あぁ!早く下へ向かいましょう」
私はそう言うとヤンが遮って来る。
「駄目だ、ローズマリー様が行っても邪魔だ。彼奴等にはポーッションもあるし騎士なんだから簡単には殺られない。それより魔術師を探してくれ」
確かに戦い慣れない私がいては足手まといだろう。直ぐにでも下にいってタイラーの元へ駆けつけたい気持ちをグッと我慢してここから魔術師を探すことにした。
「ポッポ」(どうやら一人では無さそうだ。そこそこなの奴が二人、腕の良いやつが一人いるようだ)
パフからの情報で敵魔術師の居場所がわかった。さっきの攻撃は腕の良い奴が放ったようだ。今もいくつもの小さな火球が味方の騎士を狙い飛んでくる。急いで止めさせなければ。魔術師はやはり敵の後方にいるらしくパフでは攻撃できない。
ここにいては私にも狙いがつけにくい、直接向かうほうがいい。
そう思いヤンへ告げようとした時、氷の矢が次々と私めがけて飛んで来た。
「ヤン、ミランダ、掴まって!」
二人を両手で引き寄せ足場を急速に下げつつ氷の矢に対して土壁で防御して地面に降り立った。即席の土壁では全てを防ぎきれず貫かれた矢のうちの一つがヤンの腕に突き刺さった。
「グッ」
彼はそれ以上声をあげることなく刺さった矢を平然と抜く。
「ヤン!早くポーションを使って」
ミランダが直ぐに腰のベルトに差し込んであった小瓶を差し出す。
「これくらいいいよ。いざって時の為にミランダ様が持ってて。乙女の体は大事にしないとね」
冗談なのか本気なのかよく分からない口調でヤンがそれを受け取らず、すぐに私達を連れて後方へ下がろうとした。ミランダの頬が少し赤い。
「待って、魔術師の居場所がわかった。三人いるから急いで行かないと」
そう言って敵のいる方へ行こうとするとヤンが腕を強く引っ張った。転びそうになり何事かと思っていると木の陰から現れた敵騎士を素早く斬り倒し、そのまま、また私の手を引きミランダと共に後方へ連れて行かれる。
「待って、行かせて。早く魔術師を倒さないと味方の騎士たちが危険よ」
ヤンは後ろを振り返り警戒しつつ私を離さない。
「とにかく一旦は下がって作戦立ててからだ。無闇に突っ込んでも邪魔だって言ってるだろ」
ミランダも私の前を走りながら頷く。
「お一人で戦うのではなく周りと協力して戦いましょう。ここではローズマリー様は素人なのですから戦い慣れた私達の言うことを聞いていただかないと味方に被害がでます」
被害と言われ黙るしかなかった、私は戦争に関しては完全に素人だ。
しばらく森の中を走り続けると急に拓けた場所に出た。そこは味方の騎士たちが怪我を治したり武器を調達したりする最前線のキャンプ地だった。ヤンがなれた様子で私を一つのテントに連れて行った。中に入ると騎士団の鎧姿の見覚えのある男が私を見て驚いたあとホッとした。
「ローズマリー様、ご無事でしたか」
確かこの人は西区の大隊長ダーレン・ウォーカー。会議でしかあったことは無かったはず。
「ご心配おかけしました。ですがわたくしは行かなければなりません」
ここで煩わしい挨拶や余計な押し問答はしたくない。ヤンがいうように必要な作戦を立てて直ぐに行かなければ。
「それはいけません。貴方をここで留め置くよう頼まれております」
ダーレンはニヤリとしミランダに合図すると無理矢理彼が座る机の側の席につかされた。
「まさかタイラーがそう言ったのですか?」
「タイラーだけではないとだけ言っておきますよ。貴方の心配をしている者は他にもいますからね」
イングバルやシーラスか。
「ですけど、敵の魔術師の中に腕のいい者がおります。早くなんとかしなければ皆に危険が及びます」
「なるほど、ローズマリー様にはそやつらを阻止出来ると?」
「大体の居場所がわかったのです」
側にいたパフに視線を向けてそう言うとダーレンがふむと頷いた。そして直ぐにこの付近の地図を持ってこさせると机の上にバサリと広げた。
「今我々がいる場所はここ、そしてここが今の前線で、この森を抜けた辺りが恐らく敵の最後方になるでしょう」
一つ一つ印となる駒を置きながら説明してくれる。その地図の上にパフがちょこんと降りると敵の駒を少し後ろへずらした。
「ポッポ」(この辺りは地形が少し変えられておる。魔術師の仕業であろ、この崖はもう少し前方にある)
私がパフが言ったことを伝えると直ぐに副官が地図を書き直した。
「これは……この辺りにまで下がっているというのか、となると、恐らくこの山沿いの……」
ダーレンが指で地図上に崖が記された辺りをなぞっていくと眉間にシワを寄せた。側にいた副長らしき男とボソボソと話し何らや指示を出す。
「パフ殿、魔術師はこの辺りか?」
ダーレンは崖の一端を指し示しパフに殿をつけた。こんな人は初めてだ。パフはその指の少し横を突いて指した。そしてもう一か所同じように突くとダーレンが深く頷いた。
「やはりそうか、そうであろうな。これは不味い、至急撤退の命を出せ!このままでは挟撃される」
直ぐに副長に指示を出し自らも出撃の準備を始めた。
「わたくしも行きます!」
テントを早足で出ていくダーレンの後ろについて行こうとした。




