114 派閥の長2
城から馬車に乗り街へ出た。
流石に派閥の世代交代のお披露目というある意味個人的な会を城という公の場ですることは出来ない。
私の部屋が騎士団棟にある為そこからの出発であったが本来なら他の派閥の目に触れる事無く進められる段階だ。今回は異例ながらもそれを存分に利用して他派閥のタイラーと仲良く腕を組み城内を通り皆に見せびらかしつつ会が行われる城外へ向かった。
「はぁ……」
馬車に乗り込んだ段階で既に気力は削られていた。隣で嬉しそうに黒い顔でニヤニヤとするタイラーに段々と腹が立ってくる。今日は何だか彼のせいで余計な感情の起伏が起き凄く疲れる。
「今回は一段と深いなぁ」
タイラーがからかい口調で私の胸を覗き込む。
「もう、そんな風に見ないで」
「出してれば見るだろ。その為に出してるんだろ」
「私は選んでないの!気がつけば着せられてるの!」
今回のドレスはイングバルが用意してくれたようだ。私が少しイングバルを睨むと彼はわざとらしく困った顔をした。
「私は側仕えのルーに相談しました。ローズマリー様はどのようなドレスがお好みかと。すると宝飾品に合わせて前回のとは違うイメージの方がいいであろうという意見が一致しましてコレに決まりました。彼女は優秀な平民で良い側仕えですな」
派閥には優秀な平民を取り入れるように言ってあることを絡めてルーの意見を採用したと強調し私の口をつぐませる。
「いつものお可愛らしい感じとは違い大人の魅力に皆が驚きますよ」
シーラスまでいつもの微笑みでからかってくるのにイラッとする。ムッとしたまま馬車の窓から久しぶりの王都を眺めた。
貴族街には大して思い入れも無いがそれでも数ヶ月通ったゾルガーの屋敷から城への道は感慨深い。今回は私がゾルガーへの復帰を果たし一族の当主となり派閥の長の披露目であるから当然、会場はゾルガーの屋敷で行われる。
アイダには護衛をつけて城から連れてきており、屋敷についてからはフェルナンドと一緒に行動させ披露目に同席させ家族という形を保つ予定だ。
二人共父から離れると決意したあとで初めて顔を会わせる場なのでかなり緊張しそうだ。
数カ月ぶりの屋敷につくと前庭には何台かの馬車が行き交っており既に人が大勢来ていることがわかった。
「シーラス様、申し訳ありませんが弟妹についていてもらえませんか?父が何かするかも知れない」
ゾルガーを憎む彼なら父に敵対するのも簡単だろう。面白そうだと思ったのかいつもの微笑みで頷くと素早く馬車から降りていく。イングバルが続きタイラーも降りると私に手を差し伸べた。
「ポッポ」(いよいよだな)
パフが楽しそうに言う。
「他人事だと思ってるの?」
「ポッポ」(ロージーの一大事だ、そんな訳なかろう。だが戦闘前といのは胸が高鳴るものだ)
「私は足が震えるよ」
深呼吸すると一歩踏み出し馬車から出ようとタイラーの手を取った。いつもは優しく支えてくれている彼の手が今日は何だか力が入っている。馬車から出るとそこはゾルガー家の屋敷の正面玄関だった。私も使うのは初めてだ。
国内第一位を誇るだけあって歴史が感じられる造りの屋敷で重厚感もある。今回の為に集まりつつある人達が私に注目しているのが分かるが内心の動揺は隠さなければイケナイだろう。
タイラーと目をあわせると彼が私にだけ聞こえるようにボソリと言う。
「終わったら串肉食べに行こうぜ。きっとここじゃ何食っても味はしねぇ」
吹き出しそうなのをこらえると笑って頷いた。
「ポッポ」(勿論私も行くぞ)
肩にいるパフまで可愛く頭を擦り寄せる。
大丈夫、頑張れる。
イングバルを先頭に屋敷へ入っていくと待機するためか会場横の部屋へ案内された。広めの部屋の中に幾つかソファセットが置かれ数人が別々に寛ぐ事が出来る。
部屋の端に静かにフェルナンドとアイダ、シーラスが座り何やらこそこそ話しているようだ。
それを少し眺めながら中央の一番豪華なソファセットにタイラーとイングバルと共に座った。
「すぐにエドワードが来るはずなのですがね」
時間を気にしつつイングバルは進行の確認をしている。私はチラチラとフェルナンド達を見ていた。
「大丈夫だろ。まさかロージーの妹に手は出さんだろ」
タイラーが機嫌悪そうに言う。
「何のこと?」
私はシーラスがアイダの手を取り何か言い聞かせているのが気になっていた。彼は特に父を憎んでいるのでアイダに何かさせようとしているんじゃないかとソワソワする。シーラスは人を操るのが上手だし、アイダは世間知らずな子供だ。きっとシーラスにすれば造作もない事だろう。今のアイダはいつものようにお嬢様ドレスを着ていて顔色は少し悪いが相変わらず美しい。いつもならどんな男性もアイダに見惚れるだろうが相手が悪い。
「落ち着かせようとしてるだけさ」
タイラーがイライラとして組んだ足をゆらゆらとさせている。私はそれが気になりだし振り返る。
「足を止めてよ。こっちまでイライラする」
隣に座っている彼が口を尖らし顔をそらす。何を拗ねてるの?
そこへドアが開くと父が足音を鳴らし入ってきた。イングバルが立ち上がろうとするのを目で制し直ぐにフェルナンドとアイダの元へ行った。
「一体ここで何をしている。アイダは部屋へ戻れ、フェルナンド、お前には役目を言ってあるはずだが?」
静かに低く二人に脅すように迫る。側にいたシーラスがスッと立ち上がると怯える二人の前に立ち父と向き合った。
「エドワード様、今は大事なお披露目まえですよ。あまり皆が動揺するような事は控えて頂きたいですな」
お得意の心の無い微笑みを浮かべて父を見ている。
「お前は何だ?」
父にすればただの私の側近ぐらいにしか思っていないシーラスに口を出され不愉快さを隠せないようだ。
「私はローズマリー様にお二人の事を頼まれましたのでね。この方々に用がある場合は私を通して頂かないと」
「私は父親だぞ」
「子供の成長は喜ぶべきでは?親離れは大きな一歩ですよ」
シーラスの後ろでフェルナンドがアイダの肩を引き寄せて庇いながら私と父を交互に見ている。仕方ないか……
「お父様、その子達の事はお任せ下さい。私に当主を譲って下さいましたよね。だったらその子達の事も私が決めていいはずです」
父は私に向き直り睨みつけてきた。
「親の役目まで譲ったつもりはない」
そう言いつつ静かに近づいてくる。
「えぇ、親として子を心配なさるのはご自由にどうぞ。ですがその二人は既に私の下につくことが決まっております。フェルナンドに最初にそう勧めたのはお父様でしたよね。アイダも兄であるフェルナンドに賛同したようですよ」
父が近づくにつれ隣りに座っているタイラーが顔を険しくしゆっくりと立ち上がる。父はタイラーの前で止まったが彼には目もくれず私を見ている。
「話がある」
「そこでどうぞ」
私の代わりにタイラーが答えた。父はやっと彼を見ると低く呟いた。
「平民風情が私にそのような口をきくか」
彼は一歩も引かず睨み返した。
「平民にも口はありますからね、私に何を仰っても構いませんが彼女には近づかないで頂きますよ」
そう言ってずいっと父の前に立ちはだかる。父も背は高くしっかりとした体つきではあるが優秀な騎士で魔王を倒した勇者タイラーの前では普通の男に過ぎない。ガッシリとした体格のタイラーに立ち向かえるほど腕に覚えは無いだろう。
「エドワード、話なら私があちらで聞こう」
引くに引けない感じの父にイングバルが声をかけ部屋から連れ出した。父の姿が見えなくなるとタイラーはなんともない顔でまた私の隣に座った。
「あの……ありがとう」
父の姿が見えなくなるとふっと部屋の中の空気が軽くなった気がした。
「ん」
ニヤリとする彼の笑顔を見ていると胸がきゅんとなった。




