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どなたか王様の秘書セバスチャンを知りませんか?  作者: 蜜柑缶


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113/136

113 派閥の長1

 着替えを済ませると寝室から執務室へ移動した。机の上には見覚えのある美しい装飾が施された木箱が置いてあった。

 

「これってまさか」

 

「タイラー様が持っていらっしゃいました」

 

 優雅な手付きで開かれた木箱の中身は予想通りレッドダイヤモンドだった。

 

「またこれなの?」

 

 眉間にシワが寄ってしまう。

 

「今回は勝負時だということでお持ちいただいたそうです。イングバル様がご用意されたエメラルドも豪華でしたがやはりこれには敵いませんものねぇ、見るだけで胸が高鳴りますわ」

 

 ルーがそう言って私の胸元の大人の切れ込み付近にネックレスを装着させる。うっとりとしたエリーはイヤリング担当だ。

 確か借り物のレッドダイヤモンド……私がいなくなってからもずっと借りっぱなしなのだろうか?

 

 変わらぬ美しさで私の心をルーとは違う意味で高鳴らせ、着飾るというより戦闘前の装備品のようで身に着けると緊張感が漂う。肘までの手袋を着けてもらうとふっと短く息を吐き気合を入れる。

 ノックがしドアが開かれるとフェルナンドが顔を出した。

 

「おはようございます、ローズマリー姉さん……アイダを連れて参りました」

 

 顔を向けるとフェルナンドの少し後ろにいつもの豪華で華やいだドレスとは違い少し落ち着いた様相のアイダが私に怒りを称えた目を向けていた。やはり姉弟だという思いは私だけのようだ。

 

「おはようございます……ローズマリーお姉様」

 

 これまで自分より下で一族のお荷物でしかないと思っていた人間に従わなければいけない二人はここに来ることも屈辱としか感じないだろう。

 

「おはようございます、フェルナンド、アイダ」

 

「それで、私をどう扱うおつもりなのですか?あの狭い部屋に閉じこもっていればいいの?」

 

 アイダは昨夜過ごしたであろう騎士団棟の客室に不満があったようだ。騎士達の部屋よりずっとマシだとは思われるがゾルガーのお嬢様として生きてきたアイダにとってはみすぼらしく感じるのだろう。フェルナンドが嗜めるように視線を向けるとぐっと口をつぐんだ。

 

「それほど私を疎ましく思っているのによく二人共こちらにつきましたね」

 

 あまりのはねつけられように返って冷静になってきた私は素直に疑問を投げかけた。

 

「いくら父上の言いなりだったとはいえ情報は入ってきます。最近のゾルガーの力の低下は否めませんから。あのまま残ってもプライス家に派閥は乗っ取られ恐らく私は辺境へ、アイダは下手すれば有力な貴族の愛人にでもされる。だったら名目上でもゾルガーの名が残るこちらの派閥にいたほうがマシだと思ったのです」

 

 消去法で仕方無しに来たということか。

 

「ではアイダは学生の本分を、フェルナンドはイングバル様に。もうここに顔を出す必要はありません」

 

 私の言葉に二人は驚いた。

 

「姉さん、私は昨日これからは姉さんの傍につくよう言われました」

 

 フェルナンドが慌てた様子で話す。派閥の長である私につくというのは派閥の中でもいい位置ということだ。それはフェルナンドにすればこれまで下に見てきた人間に仕えるという屈辱ではあったが地位は保たれていると感じていたのだろう。アイダにしてもそうだったのだろう。

 

「わ、私達の態度が気に障ったのなら改めます」

 

 アイダが悔しさの為か涙ぐみながらフェルナンドに促され謝罪する。

 

「申し訳ございませんでした……」

 

「謝る必要はないわ。私はただあなた達が気持ちよく過ごせる場所にいてくれればいいと思っているだけよ。アイダはそもそもまだ学生だし、フェルナンドも私につくよりはイングバル様の傍の方が色々と学べると思う。これからは実力主義のなかに放り込まれるだろうから頑張って力をつけて欲しいと思ったのです。派閥内を取り仕切っているのはイングバル様だから実質のトップは彼よ、私は名ばかりの長だから」

 

「ですが」

 

 食い下がるフェルナンドを遮って言葉を続けた。

 

「彼に見限られたら庇えないわ。ここでは必死にならないと皆が優秀よ」

 

 イングバルの実力は勿論、シーラスも情報収集能力に長けている。私の派閥が伸びているのは彼らのおかげだ。

 私の庇護は無く自分の実力だけでここで生きていかなくてはいけないと思ったのかフェルナンドは青い顔をしながら頷いた。

 

「承知しました。では失礼致します」

 

 アイダを連れて出ていく二人の後ろ姿を胸が締め付けられる思いで見ていた。

 もう私には弟妹はいないと思っておいたほうがいいだろう。あの子達は大人に振り回された可哀想な子達で孤児と同じだ、街の子を助けるのと同じだと思うことにしよう。


 鼻の奥がツンとしたが何度か瞬きすると我慢できた。傍にいたルーが心配そうな顔をしていたがお互い何も言わなかった。


 少しするとノックが聞こえ正装したイングバルがやってくると今日の予定を話し始めた。

 この後直ぐに派閥の代替わりをしたお披露目をしその時に誰をどの地位にするかの大まかな発表をする。父エドワードは引退させ領地へ戻しプライスは彼に賛同するものを連れて出て行くはず。フェルナンドとアイダはイングバルのもとへ、私が名目上は長となり二番手はイングバル、その下にシーラス。私が興味を持っているのはそこまでなので後は任せるとイングバルに指示してある。

 再びノックがし美しく正装したシーラスが優雅な足取りでやって来た。

 

「ローズマリー様、本日は大変お美しいですね」

 

 シーラスのお世辞にイングバルが頷く。

 

「婚姻の申込みが殺到しておりますよ、本当に全てお断りなさいますか?かなり有力な……

 いえ、かしこまりました。お断り致しますがこれ以上の混乱を避けるため今回はお願いしました」

 

 イングバルがそういった瞬間、シーラスが美しい笑顔で手を差しだし部屋から連れ出そうと扉へむかう。

 

「シーラス様と行くのですか?」

 

 それではまるで彼となにか関係があるように見えるのではないだろうか。ただでさえ目立つシーラスは注目の的で独身なのかとよく聞かれる。ローズマリー派のトップスリーに入っている上この美貌だ。きっと政略結婚目当ての私より申込みが殺到しているに違いない。


 廊下へ出ると騎士服を着た男が振り返った。

 

「タ、タイラー……」

 

 辺境部隊大隊長であるタイラーが式典用の騎士服で手を差し出す。

 

「今回は重要なお披露目ですから婚約者のタイラーにもお願いしました」

 

 彼の胸にはこれまでの活躍の証である勲章が輝きを放っていた。魔王討伐、その後の広大な区域に長期に渡る魔物討伐、侵略戦争での目覚ましい活躍と勝利等、他にも幾つかあったがそれよりいつもと違う彼の姿にドキッとした。

 髪をキッチリと撫でつけ文句ばかり言ってくる口をキリッと引き結び私を見た瞬間目を大きく見開いたが直ぐに優しく微笑んだ。

 

「彼は……派閥が違うわ」

 

 息苦しさを感じながらやっと言葉を絞り出した。

 

 どうしてなの?胸がドキドキする。

 

「今回は国内第一派閥の世代交代ではありますが劇的な変化を知らしめねばなりません。これまでとは違うということが他派閥との関係性を見せる事でわかるでしょう。タイラーは元々ローズマリー様の婚約者だと多くの者が知っておりますし、新たに他の者と婚約するよりはこれを有効利用したほうが今後の為です」

 

 シーラスが私を送り出しタイラーが手を差出してくれる。

 

「では参りましょう」

 

 イングバルが先頭を歩き出しシーラス、フェルナンドがそれに続く。

 

「行くぞ、ロージー」

 

 タイラーに手を導かれ腕に捕まると並んで歩きだした。その腕に温もりを感じ昨日の事が思い出され顔が熱くなる。急に自分の格好が気になりだしソワソワとする。

 

 おかしくないかな?今日はいつもと違う雰囲気だし久しぶりにレッドダイヤモンドをつけた。ドレスとのバランスは大丈夫なのだろうか?髪はルーとエリーがキレイにしてくれたけど私の赤毛の巻毛に似合ってるんだろうか?

 

 ふとタイラーの寝室から出てきた女中の黒い艷やかな髪を思い出した。

 

 私はあんなにキレイじゃない……

 

 急に足が竦んで立ち止まった。イングバル達は気づかずに進んでいくがタイラーは私が手を離したせいで驚いて振り返る。

 

「どうした?」

 

 涙がこぼれそうなのを必死に我慢した。

 

「わ、私……おかしくない?」

 

 俯いて彼の顔は見れない。大人ドレスの切れ込みが気になりだし震える手で押えた。

 タイラーは無言でその手を取りくるりとその場で回らせた。

 

「大丈夫だ、おかしくない」

 

 そう言ってにっこり笑ってくれた。その笑顔を見てホッとした、彼は私にお世辞は言わない。再び彼の腕に捕まると足を進めた。

 

「凄く綺麗だ」

 

 耳元で囁かれ驚いて顔を見上げると彼もこちらを見ていた。胸が高鳴り息が苦しい。

 

 また昨日みたいになっちゃうの?でもそれとは違う感じがする。

 

 そしてタイラーが手で顔に触れようとする。

 

 ダメダメダメ!ここでキスしないで……!?

 

 ぎゅっと目を閉じたらスッと頬に一本かかっていたらしい髪を整えてくれた。

 

「行くぞ」

 

 ニヤリと笑われ恥ずかしさで燃え上がる顔をそらした。

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