112 弟妹2
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ルーベンが出ていったドアをいつまでも眺めていたフェルナンドがふと我に返った。
「姉さん、アイダも連れて来ていいでしょうか?」
「アイダが望むならいいわ」
「では直ぐに行ってまいります。でないと危険だ」
フェルナンドは急いで部屋を出ようとした。ホッとした私はその背中へ安堵の声をかけた。
「良かったわ、こちらについてくれて」
フェルナンドは振り返らず俯いたまま答えた。
「私にはまだこれが正しい判断なのかわかりません。こんな争いに妹を巻き込む事も本意ではありません」
「よく分かるわ、アイダは私にとっても妹だもの」
「アイダと私にとって姉さんが姉だという認識はありません。家族だと思ったこともありません。前までは一族の厄介者と言われ今では一族にとって驚異かもしれません。姉さんが私達を弟妹だというなら助けて下さい、何でも言うことは聞きますから」
そう言ってこちらを見ることなく出ていった。
「ふむ、自分の立場はよく理解しているようだな。ルーベンと違い愚かではなさそうだ。ローズマリー様、ウォーレンの指示書をルーベンが運んでいるというなら奴の行動を調べれば指示した先は直ぐに掴めましょう」
「え、えぇ、早急に調べて止めて下さい」
イングバルは直ぐに資料を手に出ていくと入れ替わりにシーラスがやって来た。いつもの微笑みを浮かべていたが私を見て眉をひそめる。
「ローズマリー様……大丈夫ですか?顔色が悪いですよ」
私は冷たくなった自分の手を握りしめた。
「疲れただけです。それよりフェルナンドとアイダがこちらにつきますから部屋を用意して下さい。当分は護衛をつけて。アイダはしばらくは学園には行けないでしょうから教師をつけてあげて下さい、フェルナンドは私の側へ」
「やはり優遇しますか」
シーラスが冷たく笑う。
「優遇ではなく救済です。エドワード・ゾルガーは自分の子でさえ裏切れば容赦しないでしょうから。あの子達を守りきれば他の派閥の者達もこれまでのやり方との違いを把握できこちらについても守ってもらえると安心するでしょう」
「なるほど、物は言い様ですね。わかりました、今回は仰せのままに」
仰々しく礼を取るとシーラスは出ていった。言った限りはキチンと処理するだろう。
静かになった部屋でひとり冷たい額の汗を拭う。直ぐにルーとエリーが部屋に入ってくると熱いお茶をいれてくれた。
「お嬢様、顔色がすぐれませんわ」
「少しお休みになったほうがよろしいですよ」
二人共心配そうに私を気遣ってくれる。
「いえ、これを片付けてしまわなければいけないわ」
イングバルが置いていったサインをするだけになっている書類に目をやる。息苦しさを感じ首に手をやると手に触れたネックレスの石を指でなぞり一瞬目を閉じた。
直ぐにペンを持つと書類を引き寄せザッと目を通しサインし始めた。ルーは黙って出て行きしばらくはエリーがテーブルの片付けをする音がしていたがそれが済むとまた一人になった。
部屋に誰もいなくなり静かになった途端に手が震えだしサインする事が出来なくなる。
あれ、どうして……
自分の両手を握りしめ震えを止めようと力を込めたがうまくいかない。
「ポッポ」(大丈夫かロージー)
パフが声をかけてくれるが黙って頷くことしか出来ず気持ちを鎮めようと立ち上がると目眩がした。執務机に手をつき目眩が収まるのを待っていたが今度は上手く息が出来なくなってきた。
「く……息が……」
苦しくて大きく息を吸おうとすればするほど益々苦しさを感じ手が痺れてくる。
「ポッポ」(ロージー、落ち着け!)
「パ、パフ……息が……」
私の周りをパフ飛び回り何か言っているが耳に入らない。
これ何、私このまま死ぬの?嫌だ……タイラー……
膝に力が入らずガックリと座り込む。助けを呼ぼうにも上手く声も出せず意識が朦朧としかけた時ドアが開くとそこにタイラーがいて私を見つけると驚いた顔で駆け寄ってきた。
「ロージー!!」
抱きあげられソファへ運ばれ抱えられたまま座った。
「タ、タイラー……息が……」
震える手を伸ばすとタイラーがぎゅっと握りしめてくれる。
「もう大丈夫だ……過呼吸だな。どうしてこうなったか分かるか?」
私は黙って首をふる。
「こうなる前に何があったか話してみろ」
何がって……
「フェ、フェルナンド、と、はなし、して……」
私は言われるままに息も絶え絶えに話していたが段々と息苦しさがおさまってきた。気がつけば呼吸が楽になり数分後には落ち着いた。
「良し、もう大丈夫だな。今度こうなったら慌てずゆっくりと話すようにしろ。そうすれば大丈夫だから」
まだ少しぼうっとする頭で頷きタイラーに身を預けた。タイラーも私を優しく抱き寄せ髪を撫でてくれる。
「フェルナンドと話したのか」
「うん……私を、姉とは思ってないって」
ポロポロと涙が溢れる。
「やっぱりアイツは出来が悪いな。こんなに良い姉さんを泣かすなんて馬鹿な弟だ」
流れる涙をそっと拭ってくれる。
「私はずっと辺境のお屋敷で考えてた。どうすればフェルナンドやアイダと一緒に暮らせるのかって。でもあの子達にとってはただ嫌な存在でしかなかったみたい」
「それはあの救いようがないくらい馬鹿な親父のせいだろ。そのうちわかってくれるさ」
「そうかな」
「そうさ、焦るな」
タイラーの優しい声と抱きしめられた暖かさに気持ちが緩みそのまま眠ってしまったようだ。
気がつくと自分のベッドの中だった。薄い天蓋の外はまだ暗く誰もいない。枕元を探るとパフの体に触れ引き寄せて抱きしめた。モフモフだ。
「ポッポ」(もう大丈夫か?)
「うん、なんだか久しぶりに良く眠れた気がする」
思えば城へ戻ると決めた日からずっと浅い眠りしか出来なかった。
「ポッポ」(タイラーに抱かれて心地良かったのであろう)
「……はっ……そういえば……」
途端にタイラーに抱かれて泣きじゃくった事を思い出した。
なんてことをしてしまったの!
恥ずかしさで顔が熱くなる。
「ポッポ」(奴がここまで運び面倒はルーとエリーが見ておったぞ)
そんな……
「あの時タイラーが来たのはパフが何か言ったの?まだ彼の側にいるわよね」
最初は幻覚かと思った。
「ポッポ」(ルーが呼びに行ったのだ。其方が会いたがっていると)
「はっ……会いたがっているって……どうしてそんなこと」
わかったの?
「ポッポ」(側仕えを侮らぬ事だな。彼奴らの観察力は時に武人のそれを上回る)
そんな特殊能力があるならもっと早くに教えておいてよ。ルーにそんな事を見抜かれあんな醜態をさらすなんて恥ずかしさで死にそう……
パフを抱きしめたまま悶ていると起きる時間になったのかルーが部屋に入ってきた。
「お嬢様、何を暴れているのですか?ご気分がよろしいならお仕度いたしませんと」
天蓋を開け赤いであろう私の顔を見て額に触れ熱が無いか確かめる。
「大丈夫そうですね、どうなさったのですか?」
「だって、昨日、私……」
「タイラー様に抱かれて眠ったことですか?」
「いやぁー、そんな誤解をうむ言い方しないで」
シーツを頭からかぶり恥ずかしさに耐える。
「今更何をおっしゃいますか。ほら起きてくださいまし」
無理矢理シーツを剥ぎ取られベッドから引きずり出されると鏡の前に座らされた。髪を梳きながらルーは上機嫌だ。
「少し顔色が良くなりましたわ。昨日は本当に青白くて……」
ルーがホッとしたように笑った。こんなに優しい顔の裏にあんな特殊能力が……
エリーもやって来ると二人がかりで髪を美しく凝った編み込みで結い上げられしっかりと化粧も施された。
「今度は何が始まるの?」
着飾られる時はいつもいい予感がしない。
「何をおっしゃいますか、今日は派閥の長としてのお披露目だとイングバル様にうかがっておりますよ」
あぁ、忘れてた。そんな事があったんだっけ。
今日はいつものふんわりお嬢様ドレスと違いしっとりとした大人の様相で華やかというよりは落ち着いた感じだ。艷やかな生地の体のラインに沿うような大人ドレスは胸元の深さも大人の切れ込みだった。長めの手袋を着けるようだが丸出しの肩も気になる。




