106 会議2
会議は小休止に入りそれぞれお茶を飲んだりコソコソと打ち合わせたりしていた。
「ロージー、ちょっと」
会議室内のニ列に並んだ長テーブルを挟んで向かい側に座っていたタイラーが私を部屋の隅へ呼び出した。
「何故ここにいる?」
「魔術部隊特別顧問ですから」
「いくら特別顧問でも戦争するための会議に出る必要ないだろ」
肩に乗っているパフも頷く。
もう、誰の味方よ。
「そういうわけには行かないでしょう。それに放っておいたら町の人達が危険な目にあうじゃない。さっきだってあんな酷い事を」
「それはオレが何とかする。とにかく部屋へ戻れ」
「ポッポ」(ロージー、来たぞ)
パフの声に言い合っていたタイラーも同時に会議室のドアを振り返った。そこには遠慮がちに部屋の中を見渡す男がいた。
「フェルナンド、どうかしましたか?」
フェルナンドは私を呼び出して廊下へ連れ出した。後ろにタイラーとイングバルも付いてきてる。シーラスは他の部隊長の秘書たちと話をしていたので部屋に残った。フェルナンドが言いにくそうにする。
「あの、姉と二人で話したいのですが」
その言葉にタイラーもイングバルも首を横に振る。
「それはいけません。ローズマリー様はまだゾルガーに正式に復帰したわけではない」
「弟だからと急に近づいてきて何を言うのです?」
二人共私の身を案じての行動なので断るのは難しい。
「なんの件ですか?それによっては二人には遠慮していただきますけど」
「……父上からの伝言です」
「それは見逃せませぬ」
イングバルが黒い笑みを浮かべる。フェルナンドはあきらめのため息をつくと話し始めた。
「その、先程の会議中に近衛隊長のカーター・スチュアート様に意見し恥をかかせたと」
は?
私が驚いて固まっているとイングバルとタイラーが当然というように頷いた。
「彼はゾルガー派ですからな」
「早速告げ口か、小物だな」
二人の口ぶりからもフェルナンドの話は派閥内の暗黙のルールとして当たり前のようだ。
「本当にそれだけの事でフェルナンドを使いに出したのですか?」
信じられない私はイングバルに向かって言った。
「魔術部隊でも同じですか?」
「それが派閥というものですな。今回は確かに小さ過ぎる話とは思いますが会議中で大勢の他派閥もいる中だったのが許せなかったようです。貴族は対面を重んじますから」
「どう対応すればいいのかしら」
これからゾルガー派に入る予定なのだから従うべきなのか。
「ローズマリー様のやり方を分からせる良い機会かもしれませんね。フェルナンド、エドワードに『だからなんだ』と言っておいてくれ」
そんな喧嘩腰でいいの?
私が驚いているフェルナンドを見ているとタイラーがニヤニヤしてこっちを見てる。困ってる私を見て面白がってるんだ、もう!
「だから言ったろ、会議に出るなって」
結局フェルナンドはイングバルの言葉をそのまま持ち帰った。また会議室へ入り私が席につくとその側にタイラーとイングバルが張り付いている。タイラーは私に帰れと言い続けるしイングバルは近寄ってくる他の部隊長達と何やら話しているしシーラスはいつもの微笑みで秘書達と歓談しているように見える。
「奴が気になるのか?初めて城へ来て初めて会議に出たわりにすっかり馴染んでるな」
「そうですね」
きっとうまく情報を引き出したり誘導したりしてるのだろう。
「あんな奴のどこが気に入ったんだ?顔か?」
「まぁ、顔はいいですよね」
言ってしまってからハッとしてタイラーを振り返った。
「別にいいさ、パフから聞いてる」
少し不満気に唇が尖っている。拗ねた子供のようだ。
「何を聞いたの?」
そう言えばなんだか変なことを言っていたような。
「では会議を再開する」
ラウリスが声をかけ皆が席に戻り始めた。タイラーも向かい側の自分の席に戻り顔をあげた時はもうさっきの拗ねた顔では無かった。
一体パフは何を言ったのだろう。ここで問いただすわけにはいかないし。
会議は進み部隊の配置などを決め始めている。さっき恥をかかされたと思っている近衛隊長のカーター・スチュアートが苛立たしげに私を見ている。きっと伝言が届いたのだろう。
だけどこんな事すら抑えることが出来ないなんてゾルガーの力が弱まっているのは確かなようだ。
「では辺境部隊を中心とし、東西地区から援軍を追加、魔術部隊は後方支援ということで進めていく」
その言葉にハッとして視線を向けた。
「何か意見があるのか?ローズマリー」
私に気づいたラウリスが声をかけてくれた。
「はい、わたくしも前線へ行きます」
会議室は一瞬静まり返り皆が私を見た。そして口々に何を考えているのかだの信じられんだのと言い出した。イングバルが一人感動したように震えて私を見つめているのでそちらは見ないようにした。
「反対です!!戦った経験もないローズマリー様を前線へ送るなんて邪魔でしかない!」
タイラーが勢いよく立ち上がりギデオンとラウリスに訴えた。他の部隊長達も大まかは同じ意見で口々に反対をとなえた。
「皆がこう言っておるが?前線で其方が何をする?」
ギデオンが私を試すように悪い顔をする。
「何をするかは関係ありません。とにかくローズマリー様を送り込むのは駄目です!」
タイラーは私に何も言わせないように必死にギデオンに詰め寄る。
「婚約者はこう言っておるぞ」
ラウリスが心配そうに私を見ている。
「婚約していても自分のしたいようにする為にここにいるのです。わたくしは魔術が扱えます。ですから前線で働くほうが役に立ちます」
『赤毛の魔術師』の噂はここにいる殆どの人が知っているのだろう。確信がなかった事が本当のことだったとわかり皆が固唾をのむのがわかった。
「どれほどに実力がおありかな?噂には尾びれ背びれがつきものですからな」
カーター・スチュアートがさっきの仕返しのつもりなのか意地悪そうに言った。私が恥をかけばいいと思っているのだろう。
「ここでいいのかしら?」
ギデオンが頷く。
「よせ!」
タイラーが叫んだが私は構わず魔術を使った。
建物内だから火は当然使えないし水も無理かな、となると風か土。
私は会議室の内側を土壁で天井付近までザッという音と共に囲った。急に窓やドアを塞がれ皆が動揺した。その後竜巻のように風を起こすと室内の書類が巻き上がりバタバタと舞った。驚いて立ち上がり転倒するものいてギデオンが慌てて止めるように声を張り上げた。
「もう十分だ!!」
私は風を止め土壁を消す。室内は書類が散らばっているが静けさを取り戻した。
「あまり力は出せませんでしたがどうでしょうか?」
カーター・スチュアートを見るとボサボサの髪でコクコクと頷いて口がきけないようだった。
「これほどとはな……では魔術部隊の一部は前線へ」
ギデオンが締めくくり騒然としたまま会議は解散となった。
すぐに一人で部屋から出ると先に廊下へ出ていたタイラーが立ちはだかりこちらを睨んでいる。




