105 会議1
イングバルにしてみれば今の派閥の象徴である父エドワード・ゾルガーを退け私を担ぎ上げて国内の第一派閥のトップの位置に据えて自分が取り仕切る事が出来ればいいと思っているだろう。だが個人的な恨みを持っているシーラスはそれでは気が済まず父を排除しゾルガー一族を根絶やしにしたいのだろう。
「わたくしは二人を優遇したい訳ではありません。ただ親の言うことに従わなければ生きていけなかった子供がいるということを分かって欲しいのです」
そう言うとシーラスは微笑んだままじっと目をそらさず口を開く。
「それではこれまで同様、ただ次代へ引き継いだ風にしか見えずゾルガーに反する他派閥を引き入れる事が出来ないのでは?それにその二人の子が再び画策しこれまでのゾルガーのやり方を引き継ごうとするか、もしくはそれを企む輩に利用される可能性がある」
やはり自分の一族は没落させられたのにゾルガーの名が残ることを許せないのだろう。
「なるほど、しかしローズマリー様に復帰して頂く事が先でしょうな。エドワードがどんな手を使って来るかまだ詳細が掴めませんからな」
イングバルは彼の少し後ろに立つシーラスの方を目だけでチラリと見て言った。シーラスがゾルガーに対する深い恨みがあることを感じたのかもしれない。
「あ、あのお嬢様」
ピンと張り詰めた室内に恐る恐るという感じでルーが声をかけてきた。
「失礼します、緊急です。タイラー」
ルーの後ろからレーンがドアを押し開け顔を出した。イングバルがすかさず私の前に立つと厳しく咎める。
「許しもなくローズマリー様の部屋へ入るな」
「も、申し訳ありません。ですが緊急事態です、オスロワスが動き出しました」
タイラーだけでなくイングバルもそれを聞いてピリッと緊張を高め詳しい事を知るためか私に一礼するとシーラスを伴い素早く出て行き、タイラーも一瞬私に視線を向けた後直ぐに出ていった。パフが肩に乗り鼻を鳴らす。
「ポッポ」(タイミングが良すぎるな。やはりエドワードはオスロワスと通じておるのだろう)
「どういう事?」
「ポッポ」(また戦争が始まればタイラーを前線へ向かわすことになる。辺境は奴の担当だ)
私は目眩のようなものを感じふらつくと側にいたルーに支えられた。
「お嬢様、大丈夫ですか!?」
そのままソファに連れて行かれると座らされた。
彼を殺すために戦争を始めたってこと?その為に沢山の人の命を危険に晒しているというの?
「許せないわ……」
きっと直ぐに対オスロワスの作戦会議が開かれるだろう。
「ルー、私も作戦会議に参加するとイングバル様に言ってきてちょうだい」
「お嬢様、いけませんそんな恐ろしい事」
「わたくしは魔術部隊特別顧問ですから権利があります」
とにかく行って作戦を知らなければ。
「ポッポ」(行ってどうする?作戦に参加するのか?止めておけロージーに戦争は無理だ)
「でも行かなくては」
「ポッポ」(戦争とは殺しあいだぞ。其方に人が殺せるか?私がロージーの魔力を使って人を殺すのを見ていられるのか?)
背筋を冷たいものが走り胃の辺りがギュッと締め付けられる。今まで魔術で人を傷つけたことは無い。だけどやらなくちゃタイラーが殺されるかもしれない。
直ちにそれぞれの部隊長が招集され会議が開かれた。
王都の西にある砦からの緊急の知らせによりオスロワスの部隊が北上し始めたと知らされ騎士団長ギデオンが取り仕切る中会議が始まろうとしている。
私はパフを連れ会議室に入るとイングバルの隣の席へ静かに座った。流石にこの場にあの貴族のお嬢様ドレスは場違いなので控え目な物に着替えて髪も前のように後ろで一つに結いくるりと丸めてあるが、ルーがどうしてもと言い張り少し後れ毛などをアレンジしてある。
もう……こんな時に。
会議室内に人が集まりだし私が静かに座っているのを見てヒソヒソと話している。
「あの、何故ローズマリー様がここにいらっしゃるのでしょう?」
おずおずと一人の部隊長の秘書が副長ラウリスに向ける形で尋ねた。私の事は上層部数人には知れていたようだが殆どが訳がわからないという顔をしている。
その言葉を聞いたイングバルが嬉しさを隠しきれないという顔で立ち上がり会議室を見渡し自慢気に言う。
「ローズマリー様はこの度魔術部隊特別顧問になって頂いた。それ故会議にも参加なさる」
会議室内がザワつく中、タイラーだけがムッとした顔で私を睨んでいる。
「それぞれ疑問はあるだろうがまずはオスロワスだ」
事情がわかっているギデオンは会議の進行を優先する。
オスロワスは自国の騎士団を北上させ恐らく前例通り旧ウギマから攻めてくるだろうと言うことが予測される。国境の大半を切り立った岩山に遮られそこから攻め込むには岩山を踏破せねばならず時間も体力も余分に消費するのからだそこは考えなくても良いとされた。
戦力を旧ウギマへ移動させ前回と同じく国境付近を戦場とし迎え撃つ案が提示される。
「今回は一度旧ウギマ内へ敵を誘い込み退路を絶って封じ込め戦う作戦はどうでしょうか?補給を断てば早く決着がつくのではないですかな」
近衛部隊長カーター・スチュアートが別案を投げかける。
「フム、そのほうが費用もかからず長期戦に持ち込まれずに済むかもしれんな」
他の部隊長もそれに賛同しだしギデオンも一考し始める。
「待ってください。それでは付近の町や村が危険です」
タイラーがすかさず口を挟む。町や村が直接戦場にならなくても食料等を奪うために襲われる危険がある。
「多少は仕方なかろ。戦争に犠牲はつきものだ、祖国の為にその身を捧げるのも国民の義務だ」
カーターは意に介さず続ける。私の頭の中にベンやヒュー、ザック達の顔が思い浮かんだ。
「ではあなたのお身内の方にその町へ行って頂いても宜しいですよね」
ずっと黙って聞いていた私の突然の発言に一同の顔が振り返る。カーターはタイラーの言葉を流していたが急に私を見て何を言おうか迷っているようだ。
「直ぐにお返事頂けますわね。戦争に犠牲はつきものだとよくお分かりのようですし、貴方ほどのお考えの方ならご自分のお身内を祖国の為に犠牲に捧げることは当たり前のことなのでしょうね」
彼をじっと見つめ話を続ける。
「それは……ですがわが一族は城を……後を継ぐ者が……」
カーターはしどろもどろに言い訳を始める。
「あぁ、では後継者をお一人置いてあとの方は向かって頂くと。貴方ほどの人のお身内がそこにいればまさか罠が仕掛けられているとは敵も思いませんわよね」
自分の中の魔力がゆらりと動くのがわかる。
「ポッポ」(押えろ。ここの者全てを吹き飛ばす気か)
パフの言葉に深く息を吸うと椅子の背もたれに体を預けた。しんと静まり返った会議室内を冷静にイングバルがペンを走らせる。
「ではカーターの親族を国境付近の町へ向かわせる準備を急がせます」
「ちょ、ちょっと待ってください。先程の発言は取り消します」
イングバルが私に視線を向けたので頷いた。
「では前回通り国境を前線とし作戦を進めると」
再び会議は進み部隊派遣の時期や物資の輸送手段など話し合う。
「物資の輸送は平民の者に委託すれば良いと思います。勿論前線までは無理かもしれませんが必要な物を用意させ旧ウギマとの砦まで届ける業者と、旧ウギマ内を運ぶ業者に分けて人を雇えば道に明るい地元民が平民の町や村へも物資を届ける事が出来ます。戦争が始まれば食料が不足することが目に見えておりますから」
旧ウギマはそもそも密輸によって物資の不足を補っている。戦争が始まればオスロワスからの品は途絶えるだろう。
「ミデガライトから物資の輸入を増やしてもらえるか手配したほうが良いでしょう。以前いらしたレックス様に頼めば上手くいくかもしれません」
あの国は豊かだし友好関係も結んだばかりだ。きっと助けてくれるだろう。




