104 家族
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騎士団棟に用意された魔術部特別顧問の部屋へ案内された。タイラーの部屋の辺境部隊の部屋からは少し離れた場所だ。確認の為かタイラーもシーラスと共に私の部屋へやって来た。
扉の前には護衛が立っていて私が近づくと静かに扉は開かれ中へ入っていった。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
すぐにルーが迎えてくれ一緒にエリーもいた。
「エリー、久しぶりね。元気でいましたか?」
エリーはニッコリと微笑みかけてくれる。
「ご無事のお帰りを皆喜んでおります。この度ラーション様よりこちらのお部屋の専属になるよう言いつかりました」
「まぁそれは良かったわ」
きっと私に悪意のない以前親しかった者を選んでくれたのだろう。
すぐにソファに座ると流れるようにお茶が運ばれひと口飲むと一気に力が抜けた。
「王と何を話していたんだ?」
ほっとしたのもつかの間、タイラーが向かいに座りながら険しい顔で聞いてきた。
「今後の事よ。人手不足は平民に仕事を委託すればいいと進言してきたの」
「それだけでは無いですよね」
シーラスが私の隣へ腰を下ろし顔を覗き込む。
「後は秘密ですわ。別に悪い事は話してませんよ」
「ポッポ」(誰にも言わぬつもりか?)
「パフはそうは言ってないようですね」
もう、余計なこと言わないでよ。
「そんなことないですわ。わたくしを励ましてくれているだけです。これからお父様や弟妹たちと話し合わなければいけませんから」
「あいつらと何を話し合うんだ。言葉が通じるかさえわからないぞ」
タイラーがイライラしている。ずっと機嫌が悪い。
「とにかくここまで来たからには話をしなくては。先程の話ぶりからも少しは譲歩の用意があるのかもしれませんし」
「そんなの口先だけに決まってるだろ」
すかさず言い返してきた。確かにそれはそうだが……
「お父様はなにか企みがあるのかも知れませんが、フェルナンドとアイダはただ言いなりになっているだけですから」
そっとカップをテーブルに置くと俯いた。二人はただ父が怖くて言うことを聞いているだけだから出来れば解放してあげられれば良いと思うが無理だろうか。
「弟妹たちが心配ですか?」
シーラスが優しく聞いてくれ私の手を取る。
「えぇ……あの子達に罪は無いと思いたい。勿論、ゾルガーとして生きてきた以上これまでと同等の生活と言うわけには行かないでしょうけど何とかしてあげたいのです。駄目でしょうか?」
私はシーラスの目を見た。ゾルガーを憎み、復讐を企む彼は私達をどこまで追い詰めたら気が済むのだろうか?
「さぁそれはどうでしょうねぇ。ゾルガーという名を持っているというだけでその恩恵に預かり生きて来たという事は誰もが知っている。そのせいで例え自由を奪われずに生きれたとしても心穏やかな生活は望めないのでは無いですか?」
シーラスはゾッとするほどの優しい微笑みで私を見た。彼は父を含め二人も許すつもりは無いのだろう。無論私もそこに含まれる。
突然ドンッ!とテーブルの上にタイラーが足を乗せた。ガチャリとカップが鳴りお茶が溢れる。
「その考えでいくとローズマリー様もこの先心穏やかとはいかないという事ですか?」
シーラスが一瞬ムッとした表情を見せ直ぐに例の微笑みをタイラーに向けた。
「ローズマリー様には私がこれからのお忙しい生活を少しでも穏やかに過ごせるよう全力を尽くしますよ」
「城で片時も側を離れずにか?それは監禁と同じだろ。エドワード・ゾルガーと何が違う?」
タイラーは鼻で笑う。一瞬緊迫感が漂った時パフがふわりとタイラーの肩に乗った。
「おや、ローズマリー様の小さな友人はタイラーに付きましたか」
シーラスは私の手を離すとそっと立ち上がり「失礼しますよ」と部屋から出て行った。恐らくイングバルの所に行ったのだろう。私はシーラスを見送った視線を正面に戻した。
「もう、足をおろしてよ」
仕方のない人だ。
タイラーは不満気に顔を背けながらテーブルから足を下ろした。エリーが素早くカップを引き上げ新しくお茶が用意される。
「タイラー様はシーラス様がお気に召さないようですね」
ルーがテーブルを拭きながらボソリという。
「あんな目が笑ってないやつを気に入るなんて信じられないね」
確かにシーラスは優秀そうだが詐欺師っぽい。
「そうは仰いますがキチンとお屋敷を構えていらっしゃるし町の人にも信頼された貴族ですよ」
ルーはちょっと意地悪な顔をしている。彼女にしてみれば屋敷を構えて落ち着いた生活をしている様に見えるシーラスが私の相手として理想的だと思っているのかもしれない。仮とはいえ私の婚約者のタイラーがいつまでも城の一室に生活の拠点を置いているのが気に食わないのかも。
タイラーが顔を背けたまま黙っているとエリーがルーの袖を引っ張り部屋に外へ出ようと合図した。ルーは不満そうだが私をチラッと見たあと静かに出ていく。
部屋に二人きりになりパフがタイラーの肩から私の元へ戻ってくると膝に乗った。
「ポッポ」(タイラーには話をしておけ。ロージーが王家に尽くすよう約束させられたと)
私は黙って首を横に振る。これはゾルガーの問題で、私の家族の問題だ。その事を話せばまた彼を巻き込み迷惑がかかるかもしれない。もうすぐ彼とは婚約を解消し私とはなんの関係も無くなる。
彼は仲間達と望みを叶えるために国内での地位を確立しそれに見合ったお相手を選ぶだろう。平民でも優秀なら登用してもらえるとなればこれから彼に続く人も大勢出てくる。その時に、ゾルガーの娘との関係は反感を買いかねない。今は父をけん制するために仕方ないかもしれないが出来るだけ早く離れたほうが良いだろう。
私はいつものように俯いて誰にも知られないように静かにため息をついた。
「大丈夫だ、何かやり方を考えよう」
急に声をかけられ驚いて顔をあげた。
「え?」
「あの出来の悪い弟妹たちを助けたいんだろ?」
タイラーはニヤリと笑う。
「別に……フェルナンドは出来が悪いわけじゃないわ。アイダはまだ学生だったのに無理矢理に働かされているだけだし」
「だったら心配ないだろう。優秀な奴は身分に関係なく登用を進めていく。それは貴族であっても同じだからな」
まるで貴族であることがイケナイ事のように言う。
「何よそれ酷い」
その言い方がおかしくて笑ってしまう。けれどどれだけ優秀でも今後ゾルガーを排除した後、その過去は消えず枷になる。
「仕方ないさ、生まれは選べない」
笑っていたはずなのにタイラーの言葉に急に泣きたくなってしまう。望まずゾルガーに生まれてしまった私に非はないと言われた気がした。
私は涙を堪えると立ち上がるりルーを呼び出した。ドアの外で待っていたのか直ぐにルーがやってきた。
「ご用ですか、お嬢様」
私は大きく息を吸い込みゆっくりと吐き出し決心した。
「フェルナンドとアイダを呼び出してちょうだい。お父様とは話したけれどあの子達とも直接話さなければ」
「オレも立ち会うぞ」
タイラーが当然というふうに言ってくれる。私は首を横に振った。
「いいえ、これは家族の問題です」
「違う、派閥の問題だ。どうせイングバル様達も来るさ」
「だったら貴方は派閥が違うわ」
「オレは婚約者だ。自分の婚約者の派閥がどうなるか知る権利がある」
タイラーは弟妹を助ける方法を考えてくれると言った。彼がいたほうが心強いがそうすればまた彼に負担をかけることになりかねない。恐らくレーンや他の仲間達はそれを望まないだろう。
どうしようか悩んでいる間にドアがノックされイングバルとシーラスが部屋へやって来た。
「ローズマリー様、シーラスから聞きましたがフェルナンドとアイダを優遇したいとお考えとか」
優遇と言われハッとした。なんだかそれは嫌な響きだ。
「あの、優遇したいのではなく……」
「ゾルガーを排除するにあたり弟妹二人を助けたいと仰いましたよね」
シーラスがいつものように微笑んで言った。




