タネ明かし
「はあ……やってくれましたねぇ、エクス4」
テーヘンは忌々し気に溜息をつくと、隣にいる少女に向かって言った。
「あら、何が? 私はアドリブを利かせただけよ」
少女はツンとすまして答える。少し茶色の、ゆるくウェーブのかかった髪がふわっと弾んだ。
そんな少女を睨みながら(ゴーグルで見えないが、多分)、テーヘンは
「しらばっくれても駄目ですよ」
と、珍しく凄みのある声を出した。
「タクヤさんのことです。……知り合いだと隠してこの仕事を引き受けましたねぇ、エリカさん」
「……何のことかしら」
「ゲーム世界の様々な人物を演じきる、エクス。短期間で成果を上げ、あっという間に正規のNo.4に収まった凄腕のエクスとは聞いていましたがねぇ。……よもや、わたしまで騙すとは」
「あら……!」
少女は目を見開くと、ぐっと身を乗り出した。
その整った顔をテーヘンにくっつくぐらいまで近づける。
「ウンチャカ人は、嘘はご法度。でも、言わないのはOKなのよね。さんざんお手本を見せてくれたじゃない、テーヘンさん」
「……」
「……」
しばしの間……二人の間には静かな火花が散っていた。
「……そうですかね」
先に言葉を発したのはテーヘンだった。少し焦ったような声。
少女は勝ち誇ったようにふっと不敵に微笑んだ。
「テーヘンさんは『ドール』が欲しいのよね、本当は」
「……」
少女の言葉に、テーヘンは何も答えなかった。
「タクちゃんがあのまま『タカフミ』になっていたら、過去の記憶はなくなり完全にあの世界の住人となる『ドール』になるわ。プログラミングする手間が全くかからない……優れた『ドール』に」
「……ゲームの完成形に近づけるには手っ取り早いですからねぇ」
「開き直ったわね。だから『SP』の特典、いつもその1つ目しか言わずに『エクス』の権利は黙っているのよね。それって職務違反ギリギリじゃないかしら?」
「エクス4は他人の事を言えないと思いますがねぇ」
「……」
「……」
テーヘンと少女はしばらく睨み合っていたが、やがて根負けしたテーヘンが「ふうう」と大きな溜息をついた。
少女から目を逸らす。
「まぁ……今回は痛み分けと致しましょう」
「私はなーんにも痛くはないけれど、それで折れてあげるわ」
「……しかし……タクヤさんには見抜かれてしまいましたね、第2の特典……」
「タクちゃん、本当は私よりずっと賢いのよ」
少女はちょっと得意げに胸を張った。
しかし次の瞬間には、悲しそうにガックリと肩を落とす。
「……でも、ここまでするとは思わなかった……。自分を傷つけるなんて……」
少女はその年齢に似合わない、大人っぽい溜息をついた。
テーヘンはふむ、と頷いた。
「エクス4の経緯にも思い当たったのかもしれませんね。いっそ死んでもいいのだ、と」
交通事故で修復不可能なほど身体を損傷したエリカは、脳にダメージを与える……すなわち、心肺停止直前にウンチャカ人によって救出された。
そして新しい身体を与えられ――現実世界に別れを告げた。
これが、テーヘンが言っていた『緊急事態』。そして、『ウンチャカ人の管理下に置かれる』ということ。
候補生に過ぎないタクヤがこの『緊急事態』に陥った場合、助ける代わりに厳しい条件がつけられることになるが。
タクヤがここまで理解していた訳ではないだろう。
しかし、現実世界で『死んだ』エリカがゲームの世界で『生きていた』ことから、何らかの取引が交わされて救出されたのだろう、と推測していた。
だから身体を失っても、終わりではない。ゲームの世界で第二の生が始まり……そしていつか、エリカに会いに行けるのだろう、と。
「察しが良すぎるのよ。やっぱりタクちゃんには私がついてないと……」
「その手には乗りませんよ」
「もう! ……でも、またいつか会えるわよね」
「……ええ、それは、まあ……同じ『エクス』になれば……」
テーヘンが渋々頷く。
それを合図にするかのように、テーヘンと少女の姿がすうっと消えた。
”はぁ~~、えんや~こら~あ~~。つぎぃの~、お客さまの~、もと~へぇ~~”
(……すごい音痴ね、テーヘンさん……)
≪ End ≫




