第一幕後半 騎士伯の白々しき独演――その観客
観客は寸評する。
騎士伯
臣たる我が身が殿下を擁護するふりをして自身を擁護しているだと!?
なんたる傲慢、なんたる不忠!
臣の評判などどうでも良い!
貴公、高々一戦場での勝敗を殿下の責と思うておるのか!?
あの戦は臣の不徳!
それをいうに事欠いて殿下の擁護とは!
まるで殿下が庇われねばならぬ失態を犯したとでも言わんばかり!!
高々臣下の身で、王族方を擁護しようなどという発想が嘆かわしいわ!!
騎士伯
いや…すまぬ、ついつい激してしまい埒も無いことを言ってしまいました。
お許しいただきたい。
よもや臣と殿下を同列に置くが如きの言葉に…。
いやいや、武人というのは激しやすくてならぬわ。
騎士伯
私は無骨な軍人故な。
宮廷の皆々様の様に言葉が上手くなくてなぁ。
いや、拙き事ばかり囀りお恥ずかしいわ。
騎士伯
ん?私の母親………あの女の話は腹立たしいからしたくも無いが…。
いや何でも。
ああ、確かに学生時代に第二妃殿下に目をかけていただいておりましたな。
高々子爵家の娘の身で、類稀なる厚遇を受けていたとか。
騎士伯
美貌で妃殿下と並び称された…何をおかしなことを…。
子爵家の田舎娘が公爵令嬢であらせられた妃殿下に並ぶなど、荒唐無稽も良いところ。
学生時代の輝かしきを懐かしんでいらっしゃるだけでしょう。
騎士伯
ええ、妃殿下が陛下に見初められて後も、高々伯爵夫人の身である母を宮殿に呼んでいただき、女官として仕えさせて頂いたとか。
何をおっしゃるかと思えば。
不調法な田舎者です。
妃殿下に厳しく躾けていただけるのはむしろ望外の喜びではございませんか。
騎士伯
先ほどから私に何を言わせたいのやら…。
はぁ、裸で余興に出された?
非才の身で王族方のお目を楽しませられたのであれば、むしろありがたき事では?
騎士伯の内心
その憂さ晴らしか知らんがあの女、家財を浪費しよって…。どれだけ私が苦労したと…閣下が手を差し伸べてくださらねば、我が家は離散しておったわ。
騎士伯
いえいえ、失礼いたしました。
もうよろしいかな、とうに死んだ女の話をする場でもなかろう。
騎士伯
妃殿下の愛玩犬…?
そのように呼んで頂けましたら、泉下の我が母も名誉でしょうな。
それでは、元北方大将軍閣下、侯爵閣下、臣はこれにて御前を下がらせていただきまする。
騎士伯が退出する。
それを見届け、この場の主催者である若き侯爵の隣に立っていた老練な軍人、元北方大将軍が口火を切った。
元大将軍
――何が口下手な武人だ。
あの男よぉ言うわ。
若き侯爵
見事な詭弁でございましたな。
――あの男、第一王子殿下と親しいと言うのは真でしょうか。
年嵩の伯爵
…第一王子殿下、な。
確かにあの男の父親が剣の師を務めていたと聞くが。
だが、母君のご身分が低くお身体も弱くていらっしゃる殿下に、あの用兵の天才、陛下のお気に入りが取り入ってなんの得がありましょうや?
元大将軍
人が人と親しくなるのは損得ばかりが理由ではあるまいて。
なにより、万が一の即位があれば立役者。
危うい賭けではあるが…。
第二王子殿下と北方公の失態だ。
北方の要たるあの男は、多少の政治的失態では揺らがん地位を手に入れた――とも取れるな?
若き侯爵
…第二王子殿下が、軍功を重ね父王陛下に気に入られているあの男を目の敵にしているのは、以前より有名でしたからなぁ。
帝国の要衝たる地を僅か半年で攻略しそうになっているのだ。
自らがお命じになったとは言え――実際に目の前で見せ付けられれば、それは功を焦られもしよう。
元大将軍
ふん。
謙遜を重ね殿下を庇うふりをしながら御威光を散々傷付けていきおったな。
なぁにが口下手じゃ。
口から先に生まれたような小僧よ。
中年の子爵
で、ご老人のところはどうなさるので?
あの小僧、如才なくもご慰労金を辞退して皆様でお分けください何ぞといいおりましたぞ。
元大将軍
ふん。
わしも辞退するしかあるまいよ。
最も功多く、労多かった者が辞退したのだ。
慰労金を取ればあの家はさぞ懐が寒かろうと馬鹿にされるわ…。
そも、あの小僧が慰労金を辞退したのも、北方公と第二王子殿下にも取らせぬためであろうよ。
北方公はこれで立て直しに2年は要しよう。
若き侯爵
あの男、陛下に呼ばれたとか。
――弔慰金以外の形で、何か与えられそうですなぁ。
さてさて、租税の1割は功によって免ぜられましょう。
相変わらず抜け目のない。
年嵩の伯爵
武人ならば、もう少し政に疎ければ可愛げもございましょうにな、ご老人?
元大将軍
わしだけではあるまい。
この広間にいるもの全て慰労金を辞退することになろうが。
腹立たしい小僧じゃ。
あれの祖父と父はもっと可愛げがあったがのぅ。
若き侯爵
我ら北方諸侯、大打撃…でございますが…。
元大将軍
なんじゃ。
南方や東方の手出しが心配かの?
安心せい、それこそあの男の威光と陛下の寵愛故に手出しはあるまいよ。
南方公も、我らが北公の二の舞を踏まされたくはあるまいて。
若き侯爵
ま、でしょうな。
あれだけの敗北、帝国からの逆侵攻も懸念されますが…。間違いなく、陛下はあの男に守りを命じられる。
南方や東方は兵を渋りましょうなぁ。
我らに請わせて良い条件をもぎ取ろう、と。
これで『寡兵にも関わらず』北方だけで帝国の尖兵どもを撃退すれば――。
元大将軍
南方と東方は、手出しをしたくとも一旦は陛下に阻まれる。
強引に北方守護を奪うにはあの男が邪魔じゃの。
何せ押しも押されぬ軍功第一位が、自らの領地を守って立つのじゃからのぅ。
我らに請わせようも時間がかかる。
…春先までにあの男が片付けてくれれば、わしらの被害は兵と金ですむのぅ。
中年の子爵
あと三月――帝国は動きますか。
元大将軍
動かざるを得んよ。
あの都市に迫るまでの砦を、あの男が悉く抜いておる。
春先の泥濘が収まるまでに、せめて第二、第三の関までは取り返さねば防衛の要が丸裸じゃ。
元大将軍
氷が溶ける前――まだ奪われた関の守備が固まる前に攻めてこようなぁ。
即席だろうが軍を編成せざるを得ん。
…が、あの小僧なぁ。
元大将軍
関は五つ。
うむ…わしならば二つ返すの、帝国に。
若き侯爵
ご教授頂いても?
元大将軍
ふん。
…貴様らも聞いとるのはわかっとる。
地図をもって参れ。
ついでに我らの方針を定めるぞ。
そのつもりで呼び集めたのだろうて。
お読みいただきありがとうございます。
ご感想やご評価などいただけましたら、作者がたいへん喜びます。




