第二十四話 琴の内
その夜。人の寝静まるのを待って、わたしと冴斗は、納戸に忍んだ。
玲さまの琴。蒔絵の施された、美しい一面だった。冴斗がそっとそれを抱え上げ、耳を寄せ、軽く振る。
からり、と。中で、何かの動く音がした。
わたしたちは、顔を見合わせた。
琴の胴には、音を響かせるための小さな穴がうがたれている。冴斗が細い匕首の切っ先をそっと差し入れ、慎重に、中のものを探り、手繰り寄せた。
やがて穴から、するりと引き出されたのは。
油紙に幾重にも包まれた、細い巻物だった。
わたしたちは灯りを囲み、その油紙を解いた。
中から現れたのは、古い一通の密書だった。年月を経て黄ばんだ紙。だがそこに記された文字は、まだはっきりと読み取れた。
冴斗がそれを灯りにかざし、読み始めた。読み進めるうちに――その端整な顔から、みるみる血の気が引いていくのが、わたしにもわかった。
「……これは」冴斗の声が掠れた。「二十年前の……柏木を陥れた、証だ」
冴斗は震える声で、そのあらましを語った。
二十年前。琴宮の先代当主は、ある大きな罪を犯していた。公儀を欺く、重き罪を。そしてそれが露見しかけたとき――先代はその罪をそっくり、柏木の家に着せて葬ったのだ。柏木の当主を謀反人に仕立て上げ、一族を根絶やしにし、己の罪を闇に葬った。
この密書は、その企みを記した、動かぬ証。先代自らの手による、指図の書きつけだった。
「柏木は……無実だったのだ」冴斗が呻いた。「二十年、逆賊の汚名を着せられ……。そして玲どのは、これを見つけてしまった。父の罪を」
わたしは、言葉を失っていた。
わたしが成り代わっている、この家は。まことに、罪ある家だった。無実の一族を滅ぼし、その恨みを買った。玲さまはその真実を知り、そして――口を封じられた。
だが。冴斗の震えは、それだけではなかった。
彼の指が、密書の末尾のある一点を指していた。そこには、この悪事に先代と共に加担した、もう一人の人物の――花押が、据えられていた。都の後ろ盾。「あの御方」の、しるし。
冴斗は、その花押を凝視したまま、動かなかった。まるで、亡霊でも見たかのように。
「冴斗さま……?」わたしは恐る恐る、声をかけた。「その花押は……どなたの」
冴斗の唇が、震えた。そして絞り出すように、彼は言った。
「……この花押を、俺は知っている」
その眼に、二十年封じてきた、深い深い傷が、噴き出していた。
「母が死んだ、あの日。母の文机に遺されていた、書きかけの文に。……同じ花押が、あった」
(つづく)




