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水の中でほどける心

 ナンパ男たちの一件のあと、僕と亜希は浮き輪を一つ借り、流れるプールへ来ていた。


「あははは……!彼方早く来ないと置いていっちゃうわよっ!」


「ちょ……!亜希待ってよ……!」


 浮き輪に乗って流れに身を任せる亜希が、笑いながら僕へ手を振る。


 亜希は浮き輪だから速いけど、僕は水の中を歩いて行かないといけないから大変なんだよ……!


 本当は泳げればいいんだろうけど、人が多くて泳ぐのも難しいため、手で水をかきながら歩くしかなかった。


「彼方早く早く~!」


「ま……待ってよ……!」


 どうにか追いつこうとするも、その距離は離される一方だ……!


「もう……しょうがないわね……」


 亜希は苦笑しながら浮き輪を外し、僕の方へ歩いてくると、僕の手を握った。


「ほら、こうすると離れないですむわよ?」


「……っ!?」


 急に手を握られ、僕は思わずドキッとして言葉に詰まる。


「それに、二人で浮き輪につかまっていると一緒に流れに乗れるわよ」


「う……うん……」


 僕は亜希と一つの浮き輪につかまる。

 すぐ目の前に亜希の顔がある……。

 水に濡れた髪、長いまつ毛、こぼれる笑顔……。


 亜希の顔を見つめると、僕の心臓はうるさいくらいにドキドキしていた。


「ねえ彼方、急に静かになったけど、これ嫌だった?」


「そ……そんなことないよ……!」


 むしろ嬉しいです!

 でも……その……距離が近すぎて心臓が持たない……!


「ホントかなぁ~……、えい!」


「うわ……っ!?」


 亜希はイタズラっぽい笑みを浮かべ、片手で僕に水をかけてくる!


「えい!えい!えい……!」


「うわ……!亜希っ!やめてよ……!」


「あはははは……!彼方の困ったような顔、可愛い~!」


「亜希が止めないなら僕だって……!」


「え……?きゃあ……!」


 僕は仕返しとばかりに亜希へ水をかける。

 すると亜希は強気な笑みを浮かべ、さらにやり返してくる。


「やったわね……!えい!えい!えい……っ!」


「うわ……!参った……!参ったから……!」


「あはははは……!降参は受け付けないわよ!えいえいえい~!」


 結局、流れるプールを一周するまでの間、僕は亜希に水をかけ続けられるはめになった……。



◆◆◆



 流れるプールを出た僕と亜希は、次にウォータースライダーの前へ来ていた。


(それはいいんだけど……結構高いな……)


 僕はその高さに息を呑む。


 もちろん高さだけじゃない。

 中はトンネル状で、クネクネと曲がるコースに僕は少し怖気づいていた。


「なに?彼方は怖気づいてるの?」


 亜希がニヤニヤ笑いながら話しかけてくる。


「あ……亜希は怖くないの……?」


「私はその……彼方が一緒なら……大丈夫よ……?」


 その言葉に僕は思わずドキッとする。


「それってどういう……」


「ほ……ほら、彼方いいから行くわよ……!」


「え……?ちょ……!」


 亜希に腕を掴まれ、ウォータースライダーへ向かう。


 そして僕たちの番が回ってきた時、改めてその高さに息を呑む。


「ほら、彼方行くわよ!」


「え……?ちょ……!うわぁぁぁぁぁぁーーーーっ!?」


 亜希に抱きつかれたまま、僕たちはウォータースライダーへ突入した!


 水の流れと角度でスピードが速い……!

 右に左に曲がり、時には回転しながら滑り落ちていく……!


「きゃあぁぁぁぁぁぁーーーー……!」


 亜希は僕にしがみつきながら悲鳴をあげ、僕も思わず亜希にしがみつく。

 そして――。


「わぷ……!」


「きゃあ……っ!?」


 出口からプールへ着水した僕たちは、お互いの顔を見て思わず笑い合った。


---


 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。


 プールの中で少し高めなホットドッグを食べたり、他のプールで遊んだりしていると、いつしか日が暮れ始めていた。


「亜希……もう日が暮れるね……」


「そうね……彼方……私、今日彼方とプールに来れて楽しかった」


「僕も……亜希と来れてすごく楽しかったよ」


 夕日の差すプールサイドで見つめ合い、まるで引かれ合うように顔を近づけていく――。


 その時。


『お知らせいたします!当施設をご利用の御堂彼方様!御堂亜希様!お連れ様がお待ちですので至急ゲート前までお越しください!繰り返しお伝えいたします……!』


「っ!?」

「っ!?」


 突然のアナウンスに、僕と亜希は我に返り、慌てて顔を離す。


 ま……まさか父さんが迎えに来たとか……!?


「と……とりあえず行こうか亜希」


「そ……そうね……」


 僕たちは立ち上がり、ゲートへ向かった。


 その時、亜希が小さな声で「なんでこんな時にアナウンスを流すのよ……!」と文句を言っていたのを、僕の耳は聞き逃さなかった。



◆◆◆



「彼方、亜希ちゃん今日は楽しかったかい?」


「う……うん……」


「は……はい……」


 水着から服に着替えた僕と亜希は、父さんの車の後部座席で返事をし、そのまま無言で窓の外を見ていた。


 窓には景色と共に、亜希の姿が映る。


 もし……もう少しアナウンスが遅かったら……僕はどうしていただろう……?


 もしかしたら……亜希とキスしていたかもしれない……。

 でも、不思議と嫌じゃない。

 むしろ、それをどこかで願っていた自分がいた。


 でも……僕だけが舞い上がってるんじゃないよね……?

 そう思うと不安が胸を締めつける。


 その時、窓に映る亜希の顔が、僕の方を見て笑っているのに気づいた。


 そして気づく、自分の気持ち。


(そうか……僕は亜希のことが好きなんだ……)


 僕は亜希の方へ振り向き、言葉もなく見つめ合う。


 そして、そっと亜希の手に自分の手を重ねると、亜希は驚いた顔をしたあと、優しい笑みを浮かべて返してくれた。


 その表情に、僕の胸はうるさいほどに高鳴っていた……。



~サイドストーリー~



「おい、二人とももうすぐ着くぞ……て、あれ……?」


 弘樹は赤信号で止まった時、後ろを振り向いた。

 そこには、プールで遊び疲れて眠る彼方と亜希の姿。


 しかも、二人は寄り添いながら手を握っている。


 弘樹は思わず笑みを浮かべる。


「今ごろ二人はどんな夢を見てるんだろうな……」


 二人のために、少し回り道をして帰ってやるか――

 弘樹はそう思ったのだった。

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