勇気を持って言えたこと
──亜希──
その日の夜……夕飯とお風呂を済ませた私は、スマホを手に部屋へ戻る途中、彼方の部屋から彼の声と何かの音が聞こえてくるのに気づいた。
「何してるのかしら……?」
少し気になった私は、そっと彼の部屋のドアを開けると、彼はゲームをしているようだった。
しかもそれはエリシア・オンライン。
おまけにカナタのキャラクターと一緒に行動しているのは「ミオリネ」というキャラクター。
その名前を見た瞬間、柊さんの顔が頭に浮かんだ。
(確か柊さんもこのゲームをしてるって言ってたわね……。それに柊さんの下の名前は澪……。あのミオリネってキャラクター、絶対関係してる……。それに由奈だって……!)
「ど……どうしよう……。今日は柊さんに押されっぱなしだわ……」
クッキーで遅れを取り、今もこうしてゲームで彼方と繋がっている……。
(こうなったら些細なことを気にしてる場合じゃないわ……!)
幸い明日は土曜で学園は休み。
明日、彼方に私もエリシアを始めたって伝えて、彼方との関係を築いていかないと……!
私はそう思いながら、手に持っていたスマホをぎゅっと握りしめた。
---
◆◆◆
翌日の朝……食事をしている時だった。
「ねえ、今日はお母さんと弘樹さんと出かけてくるけど、あなた達はどうする?来ないわよね?ね?ね……っ!?」
「い……行かないわよ……」
「う……うん……」
「あたしも行かない……」
なぜか圧をかけてくるお母さんに、私も彼方も由奈も気圧されて頷く。
まるで“来るな”と言わんばかりに……!
この歳で親と出かけるのも恥ずかしいけど、あのあからさまな圧はどうかと思う……。
「うふふ、三人ともお利口で助かるわ。あ、それとお昼は帰らないから何かデリバリーを頼んでもいいし、彼方くんさえよければ何か作ってくれると助かるわ」
「わ……わかりました……」
「そ・れ・と……もしかしたら由奈ちゃんの下が出来ちゃうかもしれないけど、その時はよろしくね~♡」
「こ……こら……真奈美さん……」
「あら、やだ~、つい言っちゃった……!」
お母さんの言葉に、私たち三人は言葉を失った。
お母さんと彼方のお父さんが出かける理由……つまりはそういうことね……。
(はあ~……)
私は心の中でため息をつく。
確かに二人は新婚だけど、少しは言い方を考えてほしいわ……。
何にしろ、これで彼方に私もエリシアを始めたって言って……その……一緒にするのも悪くないわよね、うん……!
「あの……かな……」
「お兄ちゃん!一緒にエリシアしよっ!」
私が声をかけようとした瞬間、由奈が彼方に抱きついていた。
な……!んな……っ!
私は言葉を失い、口をパクパクさせるしかなかった。
「あ、うんいいよ」
そして由奈の誘いに応じる彼方……!
お……終わった……。
私はガックリと肩を落とし、キッチンへ行って洗い物をすることにした。
---
「はぁ~……私何やってるんだろう……」
洗い物をしながら、私は一人ため息をつく。
本当なら今ごろ私が彼方と……その……ゲームをしているはずだったのに……。
「で……でも……ゲーム初心者の私が彼方とゲームなんてできるのかしら……?」
私はその光景を想像してみる。
『きゃあ……!彼方これどうするの……っ!?』
『彼方……!これ教えてよ……私わかんないわよ……!』
そこには彼方に頼りっぱなしの私が映し出された。
そして彼方はというと……。
『亜希、ここはこうするんだよ』
『ここは僕に任せて……!』
『ふふ……仕方ないな亜希は……でも……そこが可愛いね……好きだよ、亜希……』
「そんな……彼方……も……もうやだぁ~……!」
私は体をクネクネさせ、完全に妄想の世界に入り込んでいた。
……と、今は洗い物をしなきゃ!
現実に戻った私は、洗い物を続けた。
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洗い物を終えた私は、リビングのソファで寝転がり、膝を立てながら何気なくテレビをつけた。
やっているのは恋愛ドラマ。
夜の学校で男性俳優が女優へ愛の告白をし、二人はキスを交わす……。
「はぁ~……退屈ね……」
私は本当に退屈そうに眺めていた。
少し前までは恋愛ものが好きだったけど、今は人の恋より自分の恋。
おまけにライバルは妹にクラスメイト……しかも私は素直になれない性格……。
本当、自分で自分が嫌になる。
(はあ~……もう少し由奈みたいに素直に甘えられて、柊さんみたいに積極性があれば違うのかな……)
「ふぁ……」
欠伸を噛み殺しながらため息をついていると、階段を降りてくる足音が聞こえた。
どうせ由奈あたりかな……?
そう思いながら服の中に手を入れてお腹をポリポリ掻いていた、その時だった。
「あれ?亜希こんなところにいたんだ」
……っ!?
驚いた私はすぐに体を起こし、彼方の方へ振り向いた。
「え……ええ、好きなドラマがあったから見てたの……!」
内心ドキドキしながら必死に誤魔化す。
び……ビックリした……!
今の見られてないわよね……!?
もし見られてたら軽く死ねるわ……!
「そうなんだ」
「と……ところで彼方は由奈とゲームしてたんじゃないの……?」
「そうだったんだけど、由奈ちゃんが疲れたって言うから休憩がてらお茶を飲みに来たんだ」
「そ……そうなのね……」
どうする……?今がチャンスと言えばチャンス……!
で……でも、なんて切り出す……?
「さて、僕は自分の部屋に戻るね」
「ま……待って……!」
彼方がリビングを出ようとしたその時、私は声を上げた。
「どうしたの?亜希」
「えっと……その……あ……あのね……」
は……早く言わなきゃ……!
じゃないと彼方が戻っちゃう……!
「……用がないなら僕部屋に戻るよ?」
ああ……!早くしないと……!
「あの……!私も始めたの……!その……エリシア・オンラインを……!だからその……私ゲームとかしたことないから……か……彼方にその……教えてほしいの……!」
私は手を握りしめ、顔を真っ赤にしながらも、どうにか言葉にできた。
今の自分の顔なんて想像したくない……。
可愛くもない変な顔をしてるかもしれない……。
でも、それでも――
彼方に“私も始めた”と伝えることができた……!
「そうなんだね。なら僕が教えてあげるよ」
「え……?い……いいの……?でも彼方疲れてるんじゃ……」
「僕は大丈夫だよ。さ、行こうか」
「う……うん……!」
私は満面の笑みを浮かべながら、彼方と共に二階へ向かったのだった。
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