言えない視線、言える誘い
「御堂君、少しいい……?」
翌日、教室へ到着すると柊さんが話しかけてきた。
「おはよう柊さん。どうしたの?」
「おはよう。昨日スズタクさんと新エリアに行ってみたから、その感想を御堂君に伝えようと思って……」
「どうだった?」
「新エリアはヴァルツァという名前のエリアだった……。そこにはヴァルキュリアという名前の敵がいた……。こういうの……」
柊さんはグレーの手帳型スマホを開き、ヴァルキュリアの画像を見せてくれた。
その敵は仮面のようなものをつけたメイド風の姿で、両手に剣を持つタイプと鎌を持つタイプの2種類がいるようだ。
「へぇ~……なんか手強そうだね……」
「実際手強かった……。戦っているとどこからともなく敵が集まってきて、気づくと囲まれてるの。この敵は少人数ではきつい……。でも、倒すと低確率でカイゼルという剣と、セレナドレスという女性用のメイド服みたいな防具が手に入るみたい」
「え……?柊さんそれ手に入れたのっ!?」
「ううん。わたしもスズタクさんも入手は出来なかった……。でもネットでは手に入れたって人がいるみたい」
「僕のキャラは男だから新防具は無理だけど、そのカイゼルって剣は手に入れたいかな。でもレアアイテムならなかなか落とさないのかなぁ……」
「それなら……今日わたしとその新エリアに行ってみない……?」
珍しく前のめりで誘ってくる柊さん。
「う……うん、そうだね。昨日はユーナカリアと遊んでたから、今日は柊さんに付き合うよ」
「ありがとう……御堂君」
柊さんはニコリと笑った。
その表情に僕は思わずドキッとした。
ひ……柊さんってこんな顔するんだ……。
彼女の意外な一面を知った気がする。
と、その時。
隣の席の亜希から視線を感じ、振り向くと、亜希は慌てて目を逸らした。
「あ……風原さん、どうしたの?」
危ない……家のクセで“亜希”と呼びそうになった……。
「な……なんでもないわ……。そ、それより柊さんもゲームするのね……」
「うん……。それ昨日風原さんに話した。ゲームだと離れてる友達とも遊べる。風原さんもしてみる……?」
「な……!わ、私はゲームなんてしないわよ……!」
亜希はなぜか動揺していたが、僕は特に気にしなかった。
◆◆◆
三時限目。
この時間は体育で、僕たち男子はグラウンドでサッカー……のはずだったが、暑さでほとんどの生徒がだらけていた。
「あち~……。なんで俺たち男子は外なんだよ……女子は水泳だっていうのに……」
悠人は汗を拭いながらプールの方を見る。
僕もつられて目を向けると、女子の楽しそうな声が聞こえてきた。
「確かにこう暑いとプールに入りたいよね……」
「バカかお前……!重要なのはそこじゃないだろっ!女子と同じ水泳だったら女子の水着姿を拝めるんだぞっ!しかも女子と同じプールに入れてまさに天国だっ!」
悠人は「グヘヘヘ……」と下品な笑いを浮かべながらプールを見つめていた。
……これだから悠人はモテないんだろうな。
まあでも、それを抜きにしても暑いとプールに入りたいとは思う。
そう思っていると、遠目に柊さんの姿が見えた。
「お……おい彼方……!あれ柊じゃないのかっ!?」
「う……うん、柊さんみたいだね」
柊さんは帽子を脱ぎ、長い髪を解いて額の汗をぬぐっていた。
「なんていうか……柊は普段は分からなかったけど結構胸があるんだな……」
悠人はいやらしい目つきで柊さんを見ていた。
僕も目を向けると、水着とはいえ確かにそれなりに大きく、思わず見とれそうになってしまった……。
「よし……彼方、もう少し近づいてみようぜ……!」
「いや……悠人、それはやめたほうがいいんじゃないかな……」
「何言ってんだ!あそこに桃源郷があるんだぞっ!なら行かねえ手はないだろっ!」
僕の静止を無視してプールへ向かおうとした悠人の前に、どこからともなく高藤が現れた。
「いや、ここは御堂の言うようにやめたほうがいいだろう」
「うわ……っ!?」
「高藤……!お前いきなり現れるのやめろっ!それに止めても無駄だ!俺は桃源郷に行くんだっ!」
「……好きにしろ。しかし後でどうなっても俺は知らんからな」
悠人は僕と高藤の静止を振り切り、プールへ向かった。
すると――。
「きゃあぁぁぁぁぁーーー!男子よっ!」
「こいつ真壁じゃないっ!先生!真壁君が覗いてますっ!」
「こら真壁っ!お前何をやっているっ!こっちに来い!」
「う……うわぁぁーーー!た……助けてくれぇぇーー……!」
女子の悲鳴を聞きつけた体育教師により、悠人はどこかへ連れて行かれてしまった……。
……バカだな悠人は。
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