初めての料理、初めての距離
「亜希、まずはタマネギのみじん切りからやってみようか」
「みじん切りって言われても……私どう切ればいいのか分からないわ……」
亜希はまな板の上に置かれたタマネギと包丁を前に、明らかな困惑の表情を浮かべていた。
どうやら包丁すら握ったことがないというのは本当らしい。
「まずはタマネギの頭とお尻を切り落とそう」
「わ……分かったわ……」
僕はタマネギの頭とお尻の位置を指で示し、「この辺りを切るんだよ」と伝える……が、亜希は妙に力が入りすぎていて、どこか危なっかしい。
「亜希、力入れすぎだよ。そんなに力まなくても大丈夫だから。ほら、力を抜いてごらん」
「え……? ちょ……!」
僕は亜希の後ろへ回り、そっと手を取る。
一瞬、亜希の肩がぴくりと震えた気がしたけど、気にせずそのままタマネギの頭を切り落とす。
「ほら、あまり力まなくても切れるでしょ? じゃあ今度はタマネギのお尻を切ってみようか」
そう伝えると、なぜか亜希は顔を真っ赤にして固まってしまった。
「……亜希?」
「な……なななな……なんでもないわよ……! と、とにかくタマネギのお尻を切ればいいんでしょっ!?」
なぜか文句を言いながら勢いよくタマネギのお尻を切り落とす亜希。
おまけに「彼方があんなことするからでしょ……?」とブツブツ言っている。
……何にしろ、あんなに勢いよく切らなくてもいいと思うんだけど。
う~ん……女の子ってよくわからないな……。
まあ、それは置いておいて次に進もう。
「さて、次はタマネギの皮を剥くけど、その前に半分に切るよ。切った面を下にすると安定して安全に切れるよ」
「わかったわ」
亜希は言われた通りタマネギを半分に切り、僕が手を添えながら無事みじん切りを終えた。
時折亜希の体がピクっとしたり、顔が赤くなっていたけど……タマネギが目に染みたのかな……?
「さて、次は卵を割るよ」
「わ……わかった……あ……っ、ご……ごめん……!」
亜希が卵を割ろうとした瞬間、殻がぐしゃりと潰れた。
「大丈夫、最初はそんなものだよ。次はゆっくりやってみよう」
僕が笑いながらもう一つ卵を渡すと、今度はうまく割れ、亜希は嬉しそうに微笑んだ。
卵を溶き、いよいよ炒める段階になると、コンロの前に立つ亜希の背中は少し緊張していた。
「大丈夫、落ち着いて……火加減はこれくらい。あとは炒めるだけ」
「う……うん……」
僕はそっと後ろから手を添える。
亜希は顔を赤くしながらも、ギュッとフライパンを握った。
そして出来上がった炒飯を、亜希は一口食べる。
「美味しい……信じられない……これが私の作った初めての料理……」
「うん、亜希が頑張った証だよ」
「ありがとう彼方! あなたのおかげで私……初めて料理が出来たわ……!」
「ちょ……!亜希……っ!?」
亜希は笑顔で抱きついてきて、僕は思わずドキッとしてしまった。
~サイドストーリー~
──亜希──
料理を終えた後、私は彼方の部屋にあるローテーブルで、彼と一緒に学園から出された数学の宿題をしていた。
宿題と言っても、ネットを通じて配布された課題をタブレットで記入するだけ……なんだけど、男の子の部屋に入るのは初めてで、妙に緊張していた。
正確には、引っ越してきた初日に勝手に入ったことはあるけど、あの時はすぐに出てしまった。
こうしてゆっくり部屋を見るのは今日が初めてだ。
それにしても白を基調とした家具が多い……彼方って白が好きなのかしら……?
「あ……彼方、そこ違うわよ」
「え……?こうじゃないの?」
「ここはこの公式を使うのよ」
「なるほど……」
口では淡々と話しているけど、内心はドキドキしっぱなし。
手を伸ばせば触れられる距離……。
それに、炒飯を作った時は何度も彼方に手を触れられた……。
触れられたところが、なんだか熱い……。
気を抜けば顔がニヤけてしまいそう。
「ん……? 亜希どうしたの? なんだか嬉しそうだね」
「……なんでもないわ」
どうやらニヤけていたらしい……。
私は緩んでいた顔を引き締め、彼方と課題を進めたのだった。
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