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アメニア王家式 出産の儀式

それは、予期せぬ角度からやってきた衝撃だった。


妊娠後期に入り、いよいよ出産に向けた準備が本格化する中。真珠は女官に連れられて、神殿儀礼用の衣装が準備された部屋へと案内されていた。


王族の子を生む者は、正式な神前の場で神への奉納として出産を迎える——そのため、アメニアでは特別な「出産衣」が用意されるという。


荘厳な鏡台の前に立たされた真珠の目の前に、女官が両手でそっと捧げ持ってきたもの。


それを見た瞬間——


「……ちょっと待って。これ、なに?」


鏡の前に立たされた真珠は、布とは名ばかりの出産衣装を前に絶句していた。出てきたのは、どう見ても「衣」と呼ぶにはあまりにも軽装すぎる一品だった。


「産むんだよ?これから人間ひとり生むんだよ!?なんで、こっちが脱ぐの!?なんで裸!?」


「真珠様、これは神聖な出産ですから……」


「アメニアの神、どうかしてる……!!」


背後で控えるアサナも、申し訳なさそうに目を逸らしている。


「以前から申し上げておりますが、出産は神への奉納……神に最も美しく見える姿で捧げる、という伝統が……」


胸元を覆うのは、布ではなく、宝石の連なった細い鎖。腰と脇を留めるのは、細く巻かれた白金の紐。腹部に至っては——完全な露出。むしろ見せる前提の設計だった。


その露出した腹の中央には、金糸で織られた太陽と神鳥の紋章が丁寧に刺繍されていた。


しかもよく見れば、背中側に取りつけられた薄絹のケープは半透明。まるで“見えないようにしている風を装いながら、実際には全て見せている”という手口。


さらに恐ろしいことに、所々にウルの紋章モチーフらしき飾りまでついていた。


「だからって乳と腹出して鎖で繋ぐ必要ある!?奉納ていうかもはや娼婦!?ウル好みの衣装でしょ!?」


この時、真珠の脳裏に、以前ウルが言っていた言葉が蘇る。


《生まれる瞬間を見せろ。命が芽吹くその時こそ、俺だけのものだ》


(いやもう全部バレてるからね!ウルの趣味しか反映されてないって……!)


真珠はうなだれながら、鎖のブラを指一本で持ち上げてぷらぷらさせる。口元を引きつらせながら、視線をもう一度衣装へ落とした。いや、もう一度どころか三度見、いや五度見くらいしている。


「ねぇアサナ。これって……もしこの格好で分娩室行って、ウルに見られるんだよね?」


どう見ても、肌面積の方が多い。鎖と紐だけで構成された衣装。そして腹部には「神の宿る場」として、精緻すぎる装飾。腰の位置が絶妙に低く、露出の美を前提にした作りになっている。


「ええ。堂々と、最前列にお席が用意されております」


「お、お席!?分娩を座って鑑賞すんの!?」


「残念ながら……」


(……いや……うん……待って……これ、絶対、セクシーコスプレでしょ……むしろ、生贄の方がまだ納得いく)


真珠はぐったりとベッドに突っ伏した。鎖がカランと音を立て、床に落ちた。


ぐらりと軽くめまいがした、そのときだった。


予感はあった。いや、むしろもうそろそろ来るだろうとわかっていた。


部屋の扉が開き、ゆったりと黒衣をまとったウルが現れた。まっすぐに真珠のもとへと歩み寄ると、彼は言った。


「確認に来た……着たか?」


「……着てません」


即答だった。


ウルは構わず、衣装を一瞥して、微かに満足そうな微笑を浮かべた。


「いい衣装だろう?」


「……いや、もう少しこう、布とか……ないの?」


真珠は静かに言った。なるべく怒らず、冷静に。穏やかに。


「これ、ほとんど見せるための衣装だよ?……どう考えても、ウル好みのラインにしか見えないんだけど……」


ウルはあっさりと、言葉を返す。


「そうだ。俺が選んだ」


「…………やっぱりね」


もう驚くのも疲れてきた。ため息交じりに呟くと、ウルは腹部の金糸装飾に指先を伸ばした。


装飾を、愛おしげに撫でるように触れながら——


「お前の腹が、俺とお前の子で満ちていることを、世界に見せつけろ」


「……ねぇ、それ神に見せるんじゃなかった?」


「神と世界は同じだ。俺が決めた」


「……いや、論理が強引すぎる……」


今日も真珠は、小さくため息をついた。呆れているのか、諦めているのか、自分でももうよくわからなかった。


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