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お救いします(レオンside)

レオンは玉座の間の奥、書類の山に囲まれた執務机に肘をつきながら、報告書の最後の一枚を音もなく机に置いた。


「――…何も、ない?」


調査員が神妙な面持ちで頷いた。


「はい。真珠殿は、ごく普通の一般女性。家族構成、出身校、職歴、すべて平凡で、政治的な背景も影響力も見当たりません。アメニアとは無縁なはず、です」


「だが、后になった」


レオンは小さく息を吐き、顎に手を添えながら目を細める。


「出会いは……どこだ。どこで、あの狂人に見初められた?」


報告書の中で、ひとつだけ気になる記述があった。1年前、真珠は勤めていた企業の社内コンペで最優秀賞を取り、ハワイ旅行を贈られている。時期は、ちょうどアメニア王太子が王位継承前の休暇と称して国外に出ていたタイミングと一致していた。


「……旅行先は?」


「ハワイ、オアフ島です。宿泊先はリグラード・スイーツ――セレブ御用達の超高級ホテル。プライベートビーチ、専属スタッフ、24時間セキュリティが完備されております」


「アメニアの王太子の動向記録もその時期に…?」


「一致していました。王太子殿下も、全く同じホテルの最上階フロアに滞在していたようです」


レオンの瞳が鋭くなる。


「……ここだな。すべての始まりは」


彼は机を軽く叩き、即座に命じる。


「ホテルの監視記録、当時の宿泊者情報、スタッフの証言。使える手はすべて使え。王太子が真珠と初めて接触した瞬間を洗え。どんなに時間がかかっても構わん」


「……は、はいっ!」


側近は急いで退出したが、その直後、別の補佐官が小声でぽつりと呟いた。


「……王子。人の恋路を邪魔すると、蹴られるって昔から言いませんでしたか?」


「愛に上下はない」


レオンは即座に言い切った。


「奪われた者を取り戻すのは、騎士として当然の行いだ」


理想主義者の瞳が、さらに深く熱を帯びていく。


その頃、アメニアでは――王宮の奥で、真珠が「腰が……無理かも……」と呟いていたことなど、レオンはまだ知らない。











「……やはり、いたのか」


レオンは新たな報告書を手に取りながら、こめかみに軽く指を添え、息を詰めるように呟いた。


そこには――


《黒い伝統衣装に身を包み、顔を布で覆った長身の男と、浮き輪で海に浮かぶ若い女がプライベートビーチで接触していた》


《男は女に声をかけたが、女は少し警戒し、すぐに離れた》


《男はその後も複数回、館内のカフェやギャラリー、さらにはエレベーター内などで“偶然”を繰り返し、同じ女に接触を図っていた》


「この黒い伝統衣装の男、名前も記録もない。だがその異様な格好、雰囲気、そして執拗な接近……間違いない。これは――アメニアの王太子だ」


レオンの目が光る。


「この瞬間に執着が芽生えたのだ。獣のように……」


ページをめくれば、さらに驚くべき記述が現れる。


《女は一度、自らフロントに部屋の変更を申し出ている》


《変更前に黒服の男がその部屋に現れたとの未確認情報あり》


《スタッフの一部が不自然に口を閉ざしており、圧力を感じている可能性あり》


レオンは歯噛みする。


「なんと嘆かわしい……!!」


神聖な旅先で、なんの防備もない女性に執着し、部屋を突き止め、圧力をかけて接触を図った――それはもう偶然ではない。真珠はそのときから、既にアメニアの魔の手に絡め取られていたのだ。


「……なんて恐ろしい男だ。誰も気づかぬうちに、いつの間にか、心と生活を囲い込み……!」


立ち上がったレオンの拳は小刻みに震えていた。


「私は、彼女を救わねばならない。これは、正義だ」


真珠の名誉と心の尊厳を守るため。王太子の支配から、彼女を――


「必ず、お救い申し上げます……!」


ぐっと目を閉じ、騎士のように誓いを立てるその横で、報告書を仕上げた側近がそっと肩をすくめ、天井を見上げた。


(……なぜわからないのだろう。なぜこの王子は、真珠殿が今、めちゃくちゃに愛されていることに気づかないんだ)


隣にいる別の側近も、遠い目をしていた。


(むしろ全力で自ら飛び込んでいるというのに……)


王宮の奥で、今日も真珠は「香の配合、変わってない?眠れないんだけど…」と女官に訴え、夜がくればウルの「孕め」という一言で抱かれ、翌朝「……腰が……」と医務室で戦慄されているとは、知る由もなかった。


レオンの救出劇は、ますます加速する。


…だが、それが自ら地雷原に突っ込む行為だとは、彼はまだ気づいていない――


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