3章 The wolf howls Ⅲ
まあ、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲで終わるわけがなかったということで。
・・・
「そういえば...スネイカー?」
「なんじゃらほい。」
スネイカーは僕の呼びかけに対し、陽気に答えた。酒が入っているとこうも人格が変わるらしい。なんだよ「なんじゃらほい」って、これを恥ずかしげもなく自然に言うものだから、かなりビビった。驚嘆というよりも、開いた口が塞がらないってやつである。ただ、酔いを解消することは現時点で不可能に近いので、自然体で質問をぶつけた。
「これから僕、何すれば言いんだ?」
シンプルな疑問である。学校に行くわけではないし(まだ新人類ならともかくゼイデンが入学するなど、学校側的には大迷惑である)、手に職をつけているわけではない。つまり、一寸先は闇。先は未定なのだ。スネイカーにそれなりの計画があるなら、まあそれで良いのだが、これまでの話からも分かる通り、「時」が来るまでは割となあなあな感じで放置されそうなのである。心配性な僕は放置がはっきりいって一番怖いのだ。人には女々しいとか言われそうだが、恐怖にはやはり抗えない。
「んーとね。まず10月、つまりは今から3ヶ月後にツクモと二人でジパングにある異能者養成施設、通称TISに短期間、留学させようとは思ってる。君はその前に入試として面接と実技があるんだが、面接に関しては、私の名前を出せば基本的には大丈夫だろう。んーとな。実技に関しては...」
|面接ってそんなに軽いものなのか?|
と能力の試運転もかねて意識下で小瓶に尋ねてみた。
|ああ。応募規模にもよるが普通はそんなに甘くねえ。だが、ヤブ医者の名前を出せばOKってのもまあ合点がいく話ではある。そんだけの事をやつはやってきたからな。|
|まあ、今回のみ特例ってことか。|
|端的に言うとそんな感じだ。|
と一連の会話を終える。スネイカーは僕の実技に関する案を考えあぐねているようで、項垂れていた。その時、リビングからツクモが出てきた。何か飲み物でも取ってくるのかなと思っていたが、悲壮感に満ちた声で、
「え?ボクまたTISに行かんといけんの?」
と言った。なぜか過呼吸になっている。それは焦るというより悲壮感に満ちた過呼吸だった。TISに関する不信感を抱きつつも、いつも通りツクモが独りでに、独断専行で行動し、勝手にやらかしていただけなのだろうと第三者目線で事を達観していた。でも、普段強情なツクモがそこまで悲壮感に満ちるなど、あり得るのか?どんな施設なんだTISって。
|国際的にゼイデンを育成する施設と言われているな。ゼイデンの社会における自立を目指しているらしい。|
|ふうん。良さそうじゃん。そちらの国の待遇よりは。|
|まあ。俺等は兵器を作るために、ゼイデンを捕獲しているのであって、別に人道的な待遇を目指していたわけではないからな。|
|じゃあ。なんでそんなにツクモは悩んでるんだい?|
|まあ。私の推理になるが...|
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なるほどね。これは僕とか小瓶には分かるけど、理解できないことだ。だから、もうやめておこうと、僕は正しいとは言えない対応を取った。スネイカーはツクモの嘆きに同乗する素振りを見せつつも、
「そうだけど?」
とこれが決定事項だと応えた。その表情は余裕に満ちている。やはりスネイカーも経験者だと分かる。我々だからこそ経験してしまったもの。厳密には経験せずにはいられないもの。不意に。とっさに。即座に。感情もなく。淡々と。それをしてしまう。でもツクモはやることを拒んでいる。確かに、コレだけではツクモが経験者かどうかは定かではない。でも、彼女の根本はまだ染まっていない。異常な僕達は側から離れるべきだ。そっとしておくべきなのだろう。そして彼女が知らない所で、彼女をけなし合えば良いのだ。それが一番平和である。
「なんで?ボク、剣技とか。十分上手くなったでしょ?やることなんかないよ。」
とツクモもすかさず反撃した。でもカウンターとしての威力はほぼないというに等しい。声が震えている。明らかに動揺していた。何か裏があると、第三者ながら感じ取れる。彼女の根本に関わっている件の存在。きっとそれを彼女が自己開示するのは随分先になると思われる。その機会は無いのかもしれない。でも、もしそれに立ち会えたなら、僕はこの脳筋と過ごしたことを初めて誇りに思えると思う。それを自分の最期にしてもよいくらいには。(そんなことを考えているが、彼女に対する同情は1μcmもない。)
「だってお前、またドア壊しただろ?これで3回目。"約束"だったよな。」
スネイカーは勝ち誇った様子でツクモに圧をかけている。どうやらツクモは慈悲で与えられた契約を自ら破棄したらしい(たかがドアノブを捻るのが面倒くさかったために)。これに関してスネイカーは一切の責任を負う必要がない。このアホが全て悪い。
しかし、なぜ彼はツクモを娘のように扱うのだろう。ツクモはこの拠点の使用人である。学費とか生活面まで払う必要がないのだ。そこまで尽くすべき才能を持っている訳ではないのに....
|まあ何かしらで必要なんだろう。|
|スネイカーのアルゴリズムなのか?あいつが?|
|一応お前様と同じゼイデンだろうが。|
まあ。そうか。そういう事にしておこう。僕が介入できなそうな分野だし。
「マジで言ってる?」
「ああ。マジだよ。モーンの推薦書は書き終わってるし。ツクモの次年度入学金も払ったぞ。」
ツクモはその場で愕然と立ち尽くしていた。まるで動かぬ石像のようだった。事が決まったことに彼女の身体は拒否している。必ず死ぬと分かっても抵抗することをやめない。決死にして必死である。ただスネイカーというか世間は許してくれないのだ。逆にドアノブを捻るのを拒んだ結果、ドアを壊してしまいました。ちなみに去年・今年併せて3回目です。という公訴事実を見て許してくれる人なんぞいないのである。それでこそ社会だ。ツクモ。学べ。
「だってさ。いくら実技の点数は高くても、勤務態度は赤点ギリギリだし、お前の剣技の教官から”ツクモは来年もお願いします”って電報送られてきてるんだよなあ。」
こうして、スネイカーはそんなツクモに対して「教官に呼ばれている」という名の最後の一手を放ったのであった。ツクモから常日頃暴力を振るわれている僕はまあ色々考えたりした。情けをかけたりもした。でも結局、彼女が力に屈する様子というのは、それはそれは見ていてスカッとする気持ちの良いものだ。このいざこざを見ていた僕は終始にこやかなのだった。
すると、スネイカーはなにか閃いた様子で
「あっ。そうだ。良いこと思いついた。モーン、お前さ。ツクモに3ヶ月の間剣技を教えてもらえ。幸い技術はあるのでな。」
と提案した。たたたたたたた確かに、入学前の予習は重要な事だ。がしかし先生/教官があれである。実技教えが参考になるという保証はあるかもしれない。しかしそれ以前に、命の保証があるかどうかという大問題がそこにはある。
|本格的にまずい。初心者だぞ僕は。|
|でも実力は付きそうだよな(笑)|
|何が(笑)だよ。コミカルな場面は終わったんだよ。流れてたBGMが長調から短調に変わったんだよ!|
「ちょっと、初歩の初歩も知らない僕がその道の専門家に教えを請うってのはハードルが高すぎやしませんか?流石にデタウムを使うってのはリスクが高すぎるからやめときますけど、ほら初心者用の本とかも売ってんじゃないですか。まずは実践より座学から入らないと力がつきにくいというか。」
僕は深く土下座し、血眼になりながら死にものぐるいで弁明を行った。それに対し、スネイカーは何度も頷いてくれた。頷き方がツクモのときみたいに相槌としての頷きではなく、意見に同意をする意味での頷きに変わったのだ。どうやら僕の気持ちを察してくれたようである。これなら話が早い。交渉ではなく示談の段階へランクアップしたのだ。今だけ、僕とスネイカーはツクモの被害者としての共通点からソウルメイトとなっているのである。スネイカーは良心から
「確かにな。都市部に行けば色々売ってるから、まあそっちのほうが早いか。お前だったら本使って勉強することは、まあできんだろ。」
とフォローを入れてくれた。これで僕は守られた。めでたしめでたし。スタッフロールが流れて、劇場にわざわざ来てくれた視聴者誰しもが、胸をなでおろしながら、自然と涙が流れている。スタッフロールにはスネイカーに最大限の感謝をと書かれているという事だろう。
と堅実なハッピーエンドとはならなかったわけだ。これ程までに警戒してきたユダが自分たちの近くにいることを2人ともすっかり忘れていたのである。
「いや。ボクやるけど。剣技って体で覚えたほうが楽だし。ちょうど練習相手欲しかったから。それとも、相手にしたくないとか?まさか、モーンがそんな失礼なこと言うわけ無いよね。」
と横槍を入れてきたのだ。それも矛とか竹槍とか、義理素手で戦っても問題なさそうな一般的な武器ではなくトリアイナとかグングニルとかの神話上の槍である。世界を壊しかねないような。まあ事実、着実に積み上げてきた僕達2人で作った世界が崩壊されたんだが。こうなったら僕がやるべきことは唯一つ。祈る。持たざるものができる、最期の術。懇願という最終兵器である。必死に願った、僕は新たな希望を持ちたいのだと。ヘイムダルの角笛の音を再度聞きたいのだと。そう願った。その時スネイカーが口を開く。頼むぜ!相棒!
「ま、まあ。ツクモが言ってくれるなら、そっちの方が良いんじゃないか。費用が浮くし。モーンもそっちの方が力がつくだろ。」
と、この発言によりスネイカーは中立の立場を貫いたのだった。どこぞの主人公みたいに、責任から逃げるなアアと叫びたくなるような、見事な手のひらドリルをスネイカーはやってのけたのだ。ふざけるのも大概にしろ。空気を読め。見損なった。僕達を繋いでいた絆と言う名の鎖をいとも簡単に解きやがったのだ。
|勝ち確から敗色濃厚。いやー見事な落差だな。絶景かな〜。絶景かな〜。|
|いや、笑い事では済まされない緊急事態だよこれ。本当に勘弁なんだけど。|
|株で失敗した投資家が同じこと言ってたぜ。|
|いわばツクモショックってことか。|
|うまくない!|
「ちなみにモーンを教えることで入学の話が免除になるってことは?」
と、僅かな望みに期待している乞食のようなツクモを目の当たりにした。目はこれでもかというくらい輝かせて、スネイカーの良心を引きずり出そうと試みている。というか、こいつどんだけTISに入学したくないんだよ。それだけが理由で。ガキの癖に。駄々をこねて出てくるのは周りの反感だけなんだと。いい加減に学ぶべきであろう。それだからゾンビのまま成長しないのだ。いくら経っても人間になれないんだと。諦めきれない愚か者がよ。
(僕も自由を求める愚か者、愚の骨頂のような人間だが、あくまで理想に向かって人生を歩みたいただの理想であり、くだらない私情により本来取れるはずの実技で赤点を取った彼女と比べたら幾分マシな方だと思っている)
「なあ。冗談はよせよ。自ら率先してモーンを教えようとしたんだよな。いや〜助かった。頼んだよ。」
と、彼女の願い虚しくやんわりと断られたのであった。僅かな願いというのは所詮宝くじのみたいなもので、当たるはずもないのだ。そもそもスネイカーなんかに良心を期待しているのが間違いである。医学を探求している者に対し、情があるか?と聞くのは野暮だろう?スネイカー含め彼らは自らの計画の遂行とそれによって得られる「正しさ」しか求めていない。ここでツクモの懇願を認めてしまえば、彼女をゼイデンとして矯正させるという計画が破綻する。彼女の存在はゼイデンとして邪道であり、正しくないこと。許されないことなのだ。そう彼女は救われない。と思うと、若干この脱走者に同乗の余地があるのかもしれない。
「デスヨネ〜。ア。ボクチョットジブンノヘヤニモドルワー。」
とカタコトでツクモはその場から撤退した。ギャグ漫画的なカタコトではなく、完全に思考が止まっている時、言葉を発したくない時のカタコトだった。やはり、引っかかった部分はありそうである。ちなみに、ここから逃げたいという衝動に駆られていた僕だったが、小瓶と僕の目標であるスネイカーのあら捜しのためだけに仕方なく残ることにした。どうやら今回の三つ巴で行われた試合結果は、僕とツクモの共倒れによって、スネイカーの一人勝ちのようだ。
「これにて、入試対策は万全。ミッションオールグリーンってわけだ。」
と絶対王者であるスネイカーはこの戦いを締めくくった。これいつになったら勝てんだ?
・・・
しばらくスネイカーの世間話や与太話、オタトークに自分語りなど続いた。敗者である僕は無論、はい。そうですね〜と頷くだけだった。ただ、オタトークをするたびに小瓶がしゃしゃり出て来たことに関しては若干ムカついた。が、ルナの元研究者であるスネイカーは割とソルの内政に興味津々みたいで、両者自国の国民にバレたら粛清の対象になるレベルの少々危ない話をしていた。
話が終盤に差し掛かろうとした時スネイカーが、
「後はだな〜。手記は書いてるか?はっはー。1日前に言ったことを聞くのは愚かかい?別にデタウムを使っても構わんぞ。」
とほろ酔い期が終わり酩酊状態にでも入ったのだろうか、普段ではありえないくらい柔い感じで聞いてきた。
|やべ。まだ終わってない。|
|お前はレポート締め切り間近の学生か。ヤブ医者は書いてるかどうか聞いてるわけじゃない。書いてるかどうか聞いてるだけだ。|
|じゃあ。いいのか。|
「ああ。それは書いてますよ。後3分の2と言ったところですかね。」
と答えた。
|やっぱ、2/3って長くない。|
|大丈夫だ。大筋のストーリーとは関係ないだろう?どうせスピンオフになるんだよ。こういうのは。|
顔を上げると、想像とは違い、スネイカーは僕が言われた事を即実行してみせたことに満足した様子で、どこぞの年配の教師みたいに、上から目線で
「良い心がけだ。言われた時に即実行。やっぱこれに限るんだよなあ。人間、成長していくにつれ、どんどん難しくなっていくんだけど。」
と、スネイカーなりに褒めてくれた。ただ、やはり人に対する褒め方がド下手なようで、嬉しいと思えなかった。どうしてこれで人生を不自由少なく遅れるのかが謎なのだ。誰からも敬遠されそうな性格をしているのに。
それで教訓めいたことをべらべらと話した後、「おー。そうだった。」と何かを思い出したようで、これまでの長話の付け焼き刃みたいな、取って付けた話をしだした。
「最後に仕事だけど、お前には社会経験してほしいんだ。関係を持つのは多すぎるってのはあれだけど、少ねえのは生き抜くうえでデメリットだからな。今月中にバイトでも見つけてくれ。都市部に行けばなんとかあるだろ。ダムの建設員とか足りないらしいしな。万が一のことがあったら、小瓶に頼れよ。能力を使ったらもう職につけないと思ったほうが良い。以上だ。さっさと風呂入ってさっさと寝ろ。2回も気絶して、体も疲れてんだろ。」
「移動手段はどうすれば良いんですか?歩きだとやっぱキツイでしょうし。ほら、ツクモが僕とあった時、あいつバギー壊したんで、移動できるのは無いはずでは?」
するとスネイカーはそのことについて知らなかった様で、「本気で...?」とショックを受けながら、自分の通帳を確認しにいった。
|なあ。バギーってそんな高いの?|
|ああ。お前らを追跡する時レンタルするのを諦めて、動物を使いだすくらいには高い。|
・・・
スネイカーは今月の支出の欄を見ながら怪訝な表情で、
「あの野郎...バギーも壊したのか。」
と愚痴をこぼした。普段理性的な言動並びに行動が定石となっているスネイカーと過ごす僕にとって、これは中々に珍しい瞬間だったと思う。
|こういう理性的な人が人間的な部分を出すの僕的にポイント高いと思う。|
|は?何いってんだ?|
神は尊い物だから、オタクの「尊い」が分からないらしい。残念。
そんな僕を見ながら、いつもの平静を保とうとスネイカーは作り笑いをしながら、
「大丈夫だ。明日中にバギーを速達で買うわ。半分はツクモの給料から引けば良いだろ。」
と言った。やはり、新しいバギーをすぐ買える程度には、金には困っていないようだ。と思いたい。少しでも自分が裕福な人間だと思いたいのだ。優越感に浸りたいのである。まあ金を稼いだことは一度もないけど。
|いや。多分新しいやつを買うのは別に苦じゃない。別に金遣いが粗い方じゃないしな。|
|そうか?君がレンタルでさえ妥協するくらい高いんだろう?|
|ヤブ医者はそれだけのことをしてるからな。たぶんこれが他人による事故じゃないから、保険が降りないのが辛いんだと思うぞ。|
|ああ…|
あからさまに機嫌が悪くなったスネイカーは「風呂でも入ったらどうだ?」と僕を部屋から半ば強制的に追い出したのだった。
自分の不当な扱いにむっとしながらも、今の僕は約四時間も話(主にスネイカー)を聞いていたので体だけでなく頭も疲れている。目もチカチカする。身体は休養を求めているのだった。結局、体調を加味して僕はスネイカーの言った通りに、一番風呂に入ることにしたのである。
主です。Linkin ParkのHybrid Theoryにどハマリしている反面、チェスターがもういないことを酷く悲しんでいます。




