第六話「人はその制服どおりの人間になる」その6
カロリーナとジョミニを乗せた馬車は目的地であるヴァランに続く街道で盗賊の待ち伏せを受けていた。
それもただの盗賊ではなく、軍人の盗賊である。
「なんで軍人が盗賊やってるんですの!!」
カロリーナはジョミニに説明を求める。
「まあ理由はいろいろ考えられますよ。脱走した兵士たちが故郷に帰るための路銀を稼ごうとしてるとか、そもそも軍隊への配給が滞ってるので生き延びるために市民に物資の提供を『お願い』してるとか。規律の無い軍人なんか強盗みたいなモンですからね」
ジョミニはいっそすがすがしいほど淡々と喋る。
「二人とも馬車から降りてもらおうか」
盗賊に言われるまま二人は馬車から降りる。
「なんだこいつら?」
いささか古風な、それでいて豪華な軍服を身にまとう女と、苦学生を思わせるようなツギハギのある私服を着た男という奇妙な取り合わせに盗賊たちは顔を見合わせる。
「仮面舞踏会にでも出るつもりだったのか?」
盗賊の一人に言われてカロリーナは言い返す。
「違いますわ。わたくしはソワン伯カロリーナ。ソワン連隊……じゃなかった。第四十戦列歩兵連隊の連隊長ですのよ!」
盗賊たちは顔を見合わせて、表情を凍り付かせたようだった。
宿屋の女将のように笑われると思っていたカロリーナはその反応に戸惑う。
盗賊の一人、おそらくリーダー格の男がカロリーナの前に立ち塞がるようにして立つ。カロリーナの頭二つも高く、威圧感のある風格があり、まるでそびえたつ山のように感じられた。
「どこの貴族のお嬢さんだか知らないがな。そういう冗談は、そこらのゴロツキならともかく俺たち軍人には全く面白くないんだよ」
その男は素早く腰に提げているサーベルを抜いた。周りの盗賊たちもそれに合わせて一斉に銃を構える。それは彼らが単なる盗賊ではなく、訓練された兵士であることを何より雄弁に物語っていた。
「戦場どころか、貧民の暮らしだって何一つ知らない貴族のガキが軍服を着てるのも我慢ならねえのに、よりにもよって第四十戦列歩兵連隊の連隊長だと? ふざけるなよ! 俺たち軍人の名誉を侮辱してんのか!」
カロリーナの言葉がよほど気に障ったのか顔は耳まで赤くなっていた。
「今すぐ軍服を脱ぎやがれ。さもないと切り刻むぞ!」
その怒号にカロリーナは却って魂に火が付くのを感じた。
「絶ッッ対に嫌ですわ! いくら剣や銃を向けられてもちっとも怖くありませんことよ! わたくしは首都で革命を味わいました。街頭で武器を持った何百人もの人々に追い掛け回されたことだってありますわ。それに比べたら、銃口の十や二十、ありませんわ!」
全身がカッと熱くなるのをカロリーナは感じる。怒りに燃える群衆に追われた日々や、国家の最高権力者の屋敷に飛び込んだ時を思えば、この程度の危険はなんともなかった。命を投げ出す覚悟などできている。
「軍人の名誉ですって! それを侮辱しているのはわたくしではなくあなたがたではなくって!? 市民を守るべき軍人が、こんなところで街道強盗なんてやって。あなたたちこそ軍服に相応しくありません!」
カロリーナは突きつけられたサーベルの切っ先に自身の喉を当てた。一押しでもすれば容易く刺し貫かれるだろう。
「こいつ!」
「よせ! もうそれぐらいでいいだろ」
横にいた盗賊の一人がいきり立つリーダー格と覚しき人物の腕に手を乗せ、ゆっくりとサーベルを降ろさせた。
「非礼をお詫び申し上げます。ソワン伯カロリーナ殿。私は第四十戦列歩兵連隊の第三大隊長。シモン・フレースと言います。こっちは第四大隊長のフランソワ・クラリー。閣下を少し試すために芝居をさせていただきました。我々の指揮官に足るかどうか……」
カロリーナは事態を半分ぐらい喉に詰まらせて、ようやく飲み込んだ。
「お芝居……?」
「お前が命乞いをする腰抜けだったら、そのまま消えてもらう予定だったんだがな!」
フランソワと紹介された男が地団駄を踏む。
「はあ……それで、合格はいただけましたの?」
「とりあえず一次面接は合格です。ご案内しましょう。我らが連隊へ」
「ほっ……ジョミニさん、ジョミニさん?」
殺気だった空気が消え、カロリーナは肩の力を抜き、ふと横にいるはずのジョミニを見た。
「うえっ……オエッッ……うう……ああ。すみません、銃を向けられたのは初めてでして、怖く……いや、緊張で、生理現象ですよ、別に心理的にどうということはないんですが、おエッ……」
恐怖のあまり地面に先ほど食べた食事を吐き戻していた。




