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6 庭を、贈る

 夜会から三日。俺は重大な軍議を開いていた。




「——以上が、奥方様の身辺調査の結果です」




 執務室で、ギルベルトが報告書を読み上げる。議題はただ一つ。ハンカチの返礼である。




 妻から贈られた矢車菊のハンカチは、今も俺の心臓の上にある。対して俺が贈ったものは宝石と衣装の山。つまり、金で買えるものだけだ。これは由々しき戦力差である。誠意には誠意を。手ずからのものには、相応のものを。




「報告によれば、奥方様がご実家で最も長く過ごされた場所は、温室と薬草棚。嫁入り道具には植物図鑑が三冊と、種の包みが数十袋」


「種……か」




 俺は窓の外を見た。南向きの一角。日当たり良好、水路も近い。元は厩舎きゅうしゃの予定地だが、馬より優先すべきものができた。




「ギルベルト。庭師と石工を呼べ。南の一角に、薬草園を造る」


「ほう。奥方様の『毒草栽培』の趣味を、堂々と援助なさると」


「毒ではない。あの茶を飲んで俺は人生最良の眠りを得た。あれが毒なら、世の薬は全部毒だ」




 ……俺はいつの間に、妻の茶を毒だと疑わなくなったのだろうか。遅延性の毒で、思考回路までもやられてしまっているのだろうか。




 深く考えるのはやめた。戦場でも、援護射撃に理屈はいらない。味方がしたいことを、できるようにする。それだけだ。




 * * *




 十日後。目隠し——は怖がらせるのでやめ、普通に妻の手を引いて(手が小さすぎる。握ったら折れそうで、指二本分だけをつまむ形になった)南の庭に案内した。




 真新しい畝うね。日除けの棚。水汲み場と、小さな園芸小屋。まだ何も植わっていない、まっさらな薬草園である。




「君の、庭だ」




 妻は、固まった。菫色の目を見開いたまま、畝と俺を三往復ほど見比べ、口を小さく開けて、閉じた。言葉もないほど喜んでいる。そうだろう、ギルベルト。




「(閣下、奥様の顔色が真っ白ですが)」


「(感動すると人は血の気が引く。戦場で何度も見た)」


「(それは恐怖では)」




 やがて妻は、震える声で言った。




「わ、私が……ここで、育てて、いいのですか。その、好きな草を」


「ああ」


「……枯らしても、斬られません?」


「???」




 なぜ庭いじりに刃物の話が出るのか。会話が、たまに二、三手飛ぶのが妻の癖のようだ。俺は安心させるべく、誠意を込めて頷いた。




「君が育てたものなら、毒でも飲む」




 妻は今度こそ完全に硬直した。……俺はどうしてこうも発言が物騒になってしまうんだろうか。




 * * *




「マルタ殿。閣下、奥様のために厩舎の予定地を潰しました」


「ギルベルトさん。うちの奥様、夜中に種の包みを抱えて『信じていいの……?』と呟いておいででした」


「ふむ。馬より妻ですか」




 誤解は、青々と葉を茂らせていく。

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