五十五話 先生 2
まさか伊達先生が、魔王軍の幹部だったなんて……という、衝撃の事実を突き付けられたせいだろうか。
「う……!!」
「か、翔君!?」
以前よりも強くのし掛かる身体への負担を感じ、とうとう耐え切れなくなった俺は片膝を地に付けた。
すると、そんな俺の様子を見てララドーラさんが伊達先生……ではなく魔王軍の幹部、堕天使ベリアを睨み付ける。
「……なるほど、最近の翔君の不調はアンタのせいだったのね。大方、心配するフリをして翔君から魔力を吸い取っていたりでもしたんでしょう?」
「ご名答、流石だねララドーラ。だが、それだけに惜しい。お前はちと臆病な所はあるが、それでも賢しく、優秀だった。裏切りなどせず、あのまま魔王軍にいれば良かったものを……」
「……余計なお世話よ」
そうか、ここ最近身体の調子が悪かったのはそのせい……伊達先生が原因だったのか。
認めたくはなかったけれど、この二人の会話を聞くに事実その通りなんだろう……な。
「あ、ララドーラさん! やっと見つけた……って、か、翔君!?」
「どうしたの市奈々井君!? また具合が悪くなったの!?」
「ゲームが、コンボが…………いいえ、流石に今回だけはそんな事を言ってる場合じゃなさそうね」
と、その時。背後から幾つかの足音が聞こえ、振り返るとそこにはこちらへと駆け寄る亜香里と椿、それと女神様の姿があった。
少し前のララドーラさんの発言から察するに、亜香里は皆も巻き込んで俺の捜索を始めたのだろう。それで、漸くここで探し人を見つけたという訳か。
けど、俺は彼女達に何の反応もできなかった、その呼び掛けに答えられなかった。
程度を超えた疲労、驚きの真実。それらを目の当たりにした今、混乱のせいかむしろ何をすれば良いかすらも、自分一人では決められなかったんだから。
しかし、誰もそんな俺を待ってはくれず。当然、敵であるベリアもその例に漏れず。
「……苦労してこちらの世界に潜り込んだが、それも今日で終わりか。まあ良い。
例えそうならずとも、自らの手で終わらせるつもりだったのだからな……!!」
「!? ま、待ちなさいベリア!! アンタ一体、何をするつもり!?」
「何って、決まっているじゃないか。せっかく市奈々井翔から魔力を吸い取って、この私自身でもダンジョンを生成できるようになったんだぞ?
ならば、そこをお前達の墓場にせず、何とすると言うのだ!! さあ、皆纏めて連れて行ってやろう!! お前達の最期を飾るダンジョンに!!」
突如として空間が歪み、また別の景色を映し出すという……見慣れた光景。
「そ、そんな!? ま、まさか、そこまでの事ができるだなんて……!!」
「あ、危ない翔君!! ララドーラさん!! 」
「待って亜香里ちゃん!! アナタも巻き込まれちゃう!!」
「ダメよ二人共!! 今すぐ逃げないとアナタ達も!!……いえ、もう手遅れみたいね」
そう、俺達は何と、ベリアの手によって作られたダンジョンに連れ込まれてしまうのだった。
「おや? もしや、まだ魔力が充分ではなかったというのか? 道中に配置したはずの魔物や罠が見当たらない……いや、それどころか道そのものが存在しない。
まあ良い。それならそれで、私が直接お前達に終焉をくれてやれば良いというだけの話だ……フフフフフ、さあ、かかって来い!!」
ベリアが作り出したというダンジョンは、まるでダンジョンとは呼べぬような代物だった。
何しろ、彼女の言うように魔物もいなければ通路一つとしてなく、ただただベリアと俺達のいる空間だけが丸く、さながら闘技場のようにしてあるのみであったのだから。
だがしかし、それはこちらにとって好都合という訳でもない。何故ならばそう、身を隠す場所も何もないこの場所では。
僅かな休息すら取る事ができず、しかもそれでいて全員がベリアの攻撃による被害を受けてしまう可能性があるのだから。
そして、残念ながら俺はまだお荷物同然の状態でもあるため非戦闘員は計三名だ。
よって、この戦いはララドーラさんと、その姉である女神様に託されるだろうが。
妹はともかく、姉の方が戦っている姿は見た事がないから、実際の所どうなるのかはまだ未知の領域だ。
……大丈夫、だろうか。
不安は尽きず、しかも今回のダンジョンは普段のものとは格が違う。何たってボスが魔王軍の幹部なんだから。
でも今の俺はただ、そんな懸念を抱えつつも、ただ眺めている事しかできはしない……




