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五十四話 先生

俺を探していたという人物、それは伊達先生だった。


……でも、どうしてだろう?


そんな疑問が頭に浮かび上がる。だってクラスメイト達にすら理由を告げずに抜け出して来たというのに、伊達先生がそれを知っているだなんて訳が分からなかったんだから。


「先生、先生はどうしてここに? というか、何で俺を探して……」


「なんでも何も、どこからどう見たって君は体調が悪そうだったからね。流石の私も心配で探していたって訳さ。


まあどの道、君がどうしようと保健室で会う事になっていたかもしれんが……まあ良い、そのままでいいから、少し診せてもらうよ。そのためにここに来たんだからね」


そこで問い掛けたものの、答えはすぐに伊達先生から直接聞かされ。俺はそんな彼女の言う通り動かずじっとしていた。


そういえば、以前と比べると最近はあまり保健室に行ってなかったっけ。そう考えると額に当てられている伊達先生の手の温もりが随分と久しいものにも感じる。


まあ正確に言うと、先生は体温が低いのか手はどちらかと言えば冷たい方ではあるのだが。それでも、今の俺とってそれは心地良く思えたんだ。


そのはず、だったのだが。


伊達先生が俺に触れたその直後から、俺は今までにない程の疲労感を覚えていた。


……何故、どうして? どうして今なんだ?


身体を動かしている時ならばまだ分かるが、暫くの間俺は何もしていないんだぞ?


というかガッツリと休憩までしていたんだ、何故今頃になってからこのような感覚に襲われるのかが全く理解できない。


「フフフ、苦しそうだね市奈々井君……いや、市奈々井翔。まあそれもそのはずさ、最早残り少ない君の魔力を私が今、こうして全て奪い去ろうとしているんだからね……」


朦朧とする意識の中、伊達先生が何か俺に語り掛けているのが聞こえる。


しかし、そんな頭では右から左へと単語が通り過ぎてゆくばかりで。今の俺にはそのセリフが何を意味するのかなんて想像すらできなかった。


「そこまでよ!!」


だがその時、俺と伊達先生の間に割って入る者があった。


……それはララドーラさんだった。


その直後、先生の手が離れた途端に俺の頭ははっきりとし始め、自らの意思とは関係なく遠ざかろうとしていた俺の意識は、思考は、こちらへと戻って来る。


「う……ラ、ララドーラ……さん……どう、して……」


「亜香里ちゃんから翔君がいないって言われて、二手に分かれて探してたのよ!……それより、翔君。


アナタ、また随分と厄介な奴と一緒にいるのね……一応聞いておくけど、アナタ魔王の手先とかじゃないわよね?」


突然、意味不明な質問をララドーラさんから寄越され、一瞬訳も分からず俺は戸惑う。


「え、え……? 急に何を言ってるんですか? そんな訳ないじゃないですか……?」


「……でしょうね、ごめんなさい突然変な事聞いちゃって。だけど、そう言いたくもなるわよ、だって……」


だが、彼女の真意はすぐに分かった。


「アナタと今まで一緒にいたコイツは、堕天使ベリア。私と同じ魔王軍の幹部よ」


何せ、彼女は俺の隣にいた伊達先生を、いや。


魔王軍の幹部だと言うその女を見て、そのような質問を俺にしたという事だったんだから。




……でも。


そんな話を急にされても、すぐに信じる事など到底できなかった。


伊達先生が魔王軍の幹部? いやいや、この人は現に保健室の先生としてここにいる、正真正銘の歴とした人間じゃないか。


それが、あのいつも苦しめられている魔物達の仲間だなんて言われても……というか、先生はいつだって不調気味の俺を優しく保健室で迎え入れてくれたんだぞ?


だったら、そんなはずがあるワケ……


「……久しいなララドーラ。というか、お前は〝元〟魔王軍の幹部だろう? その発言には語弊があるぞ」


だが、俺のそんな希望はすぐさま打ち砕かれる事となった。信じたくはないが、でも。ララドーラさんの話は全て真実であったのだ。


その証拠に伊達先生は、〝こちら側〟の者しか知らない情報も知っていれば、一切の戸惑いも見せずにそう答えたんだから。


……だと言うのに、まだ心の何処かではそれを認められない、もう一人の自分がいた。


自分に手を差し伸べてくれた人が、本当は敵だったなんて。どうしてもそう思えなかったから。


いや、思いたくなかったんだ。

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