五十二話 開幕 体育祭! 4
あれから三十分は経過しただろうか、そこで漸く応援合戦も無事終了した。
もちろん、俺の組のダンスもな。そして、その結果は自分で言うのもアレだがまずまずと言った所だ。
主役級に目立った訳では決してないが、振り付けを間違えたり、足がもつれて転んだりなどのミスは一切していないのだから。
ちなみに、俺とクラスメイト達が踊るのに使用した曲やダンスは、今流行っているものの闇鍋……の、ような感じだから細かくは伝えられない。
……まあ、それについては確かに思う所も多々あったものの、それでも俺は満足している。
普段ならば喋る事すら難しいクラスメイト達と、共に汗を流し、笑い合う中でやり遂げる事ができたんだから。
あとはただ一つ…………本調子ならばもっと良かったのだが。
そう、気合いでどうにかしていたはずのそれだが、やはりというか、興奮のあまりやり過ぎてしまったのかもしれないというか……とにかく。
二つの競技を終えた俺の身体にはいつもの倍以上ではないかと思われる程の負担がのしかかっていたがために、どうしても思い出し、懸念せずにはいられなかったんだ。
とはいえ、応援合戦の次にある競技は俺の出ない借り物競走であり、それが終われば一時間の昼休憩が待っている。
つまり、午前中の俺の役目はもう終了しているのだ。だからここで身体を休めれば、また午後には元通り体育祭に参加する事ができるはず。
俺の頭にはもう、休息の二文字しかなかった。今の俺にとってそれは何よりも重要で、喉から手が出る程に欲していたのだ。
むしろそれがなければ、最悪の場合また倒れてしまうかもしれないんだから。
だからこそ、俺は借り物競走の最中は眠るようにずっと目を閉じている事にした。
皆に混じって声援を飛ばせないのは申し訳ないと思うが、その時間さえも利用しなければならない程に今の俺は追い詰められてしまっていたからだ。
「おい市奈々井! 早く早く! おい起きろって市奈々井! お前出番みたいだぞ!!」
「ほら市奈々井君起きてってば! ちっちゃくてカワイイ子が市奈々井君の事呼んでるよ!」
だと言うのに、俺の肩を叩く者があった。
それは一部のクラスメイト達だ。それも何故だか、皆が囃し立てるというか、黄色い声援を飛ばすようにして俺の名を何度も呼び、肩を叩いては揺すってを未だに繰り返している。
「え……な、何? どうしたの皆?」
だがしかし、俺が目を開けてそう問い掛けたと言うのにそれには返事をせず。その代わり、皆は一斉に目をある一つの方向へと移動させる。
そして、寄り集まって大きく太く成り変わった一本の視線は、我ら生徒達の待機場所のやや手前。
そこにいる亜香里へと向けられていた。
「か、翔君……翔君! お、お願い! 一緒に来て欲しいの!」
亜香里は何か、覚悟を決めたような表情でそう言う。
そんな彼女の手には小さな紙が握られていた。ああなるほど、亜香里は借り物競走の出場者で、たまたまアイツの引き当てたお題に俺が合致していたんだろう。
ただそれにしては、皆が嫌にニヤニヤと……いや、し過ぎているといっても良いくらいにニヤついているのは気になる所だが。
まあ良い、それならば力を振り絞り行くとしようか。亜香里とは別チームとは言え、俺の行いが友人のためになるのならばむしろ喜んでそうさせてもらう。
「ごめん亜香里、待たせちゃったな」
「う、ううん、大丈夫! わ、私は翔君が来てくれたっていう、ただそれだけで嬉しいから……」
「え……嬉しい? よく分かんないけど、まあ良いや。じゃあ、急ごうか」
「うん!」
そうして、俺達はゴールに向けて走り出した……のだが。
俺がもたもたしていたせいなのか、走者五人のうち三人は既にゴールしており。
亜香里と借り物……ではなく俺達の順位は四位と。最下位は免れたものの散々な結果に終わってしまうのだった……!!
ちなみに。
「ご、ごめん亜香里、俺がもっと早く動き始めていれば……」
「う、ううん、気にしないで翔君! わ、私も行くのが遅かったし、お互い様だよ!」
「……なあ亜香里。ところでお題には何て書いてあったんだ? 俺が当てはまるヤツって思いつかなくてさ、ずっと気になってたんだ 」
「え!? ええと、それは……わ、忘れちゃった、かな? ふふふ」
「……? 何か嬉しそうだな?」
そのような結果であるというのに、亜香里は何故か嬉しそうにしていたし。
そして、そんな亜香里がお題を忘れてしまったというので、俺が何を理由として呼ばれたのかは未だに分からないままだ。
「……ふふ」
当然、亜香里の手にある『好きな人』と書かれた紙の存在にも一切として気付かぬまま。




