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五十話 開幕 体育祭! 2

「じゃあ翔君、今日は頑張ろうね……あ、で、でも、無理はしちゃダメだよ!!」


「分かってるって亜香里、じゃ、お前も頑張れよ」


そして学校に辿り着き、亜香里とは教室の前で別れた。


さあ、そしたら早速今から着替えてグラウンドに……行こうかとしていたまさにその時。


「……ん?」


校庭の隅でこちらへと手を振る、何者かの姿が俺の目に映った。


もしかして、生徒の家族が誰かと間違えて俺にそうしているのだろうか……いや、違うな。


というか、あれは椿だ。


体育祭はまだ始まってもいないというのに、何故だか妙に嬉しそうというか、とにかく。そのような様子の彼女が今、俺達が最初に出会った木の下にいた。


「そうか、椿は約束通り観に来てくれたのか。まあ、それにしちゃあ随分と早いけど……」


とは言え、それ程楽しみにしてくれていたのかと思うと俺もまた妙に嬉しくなり、すぐに着替えを済ませて椿の元へと駆け出して行った。




「急にごめんね。体育祭の当日だけど、市奈々井君が大丈夫かどうかどうしても気になっちゃって……一応、始まる前に顔を見ておきたかったの。


ただそれだけ! じゃあ頑張ってね、市奈々井君! 私も奥の方で応援してるから!」


俺が木の下に辿り着くまで、ちょこんとそこに座り木の妖精のようにしていた椿だったが。


せっかく会いに行ったというのに、それだけを俺に告げると彼女はすたこらと何処かへ去って行ってしまった。


一体全体何なんだ、本当にそのためだけに来たのか? 全く、こっちは急いで駆け付けたっていうのに。


……まあ、心配してくれていると思うと悪い気はしないけれども。


とにかく、椿からはそのような短い激励を頂いたんだ。何度も似たような事を言っているが、俺も今日だけは弱音など吐かずに全力で頑張るとしよう。


「……!!」


などと思っていた直後、全身を悪寒のようなものが走り俺は弾かれたように振り向く。


すると、俺が先程までいた二階の窓側に立つ亜香里と目が合う。


が。何故か亜香里はまるで逃げ隠れするかのように、そそくさと移動してその場から立ち去るのだった。


……久々に感じた視線、それは亜香里だった。だとするとやはり、今までのものもアイツだったんだろうか?


いや、それよりもだ。今の妙な態度というか、少しおかしくも見えた様子は何だったんだろう? 何処か怒っているような……いや違うな。


少し、寂しげに見えた。


そういえば、以前にもそんな様子でいたというか、以前からそうだった亜香里にその訳を聞くのをすっかり忘れてしまっていたな。最近は色々とあった、いやあり過ぎたせいで。


でも、今は大事なイベントの開始直前……よし、これが終わったら亜香里に話を聞いてみるとしよう。今度こそ、絶対にだ。


「……じゃあ、俺もそろそろ行くか」


そう心に決め、俺は歩き出す。言わなくても分かるだろうがグラウンドに向かうためだ。


もうまもなく、体育祭が始まるんだから。


……でも。


亜香里の他にもう一つ、俺に向けられた視線があったように感じたのは気のせいだろうか?




「フフフフフ……喜べ市奈々井翔。もう間も無く、お前にとっての地獄のイベントが始まるぞ。


この体育祭でお前は体力を使い果たし、最期は私の手で作り上げたダンジョンで……フフフフフ……」




生徒の家族等々、関係者が皆グラウンドに集まった後、俺含む生徒達が蟻の行列のような縦隊で登場。


そして、次に為された選手宣誓によって待ちに待った体育祭が遂に幕を開けた。


このイベントに対して我が校は生徒だけでなく、学校側も割に力を入れているらしく、開始直後には数発の花火が天高く打ち上げられた。


それは数瞬、青空を本物の花のように飾った。久方振りに見るそれは正直、美しいとすら言いたくなるようなものではあった……それは間違いない。


間違いない、のだが。


残念ながら、そういう訳にはいかない。本来今日という日に持ちうる全てを発揮し、その様を美しいと讃えられるべきなのは我ら本校の生徒達であるのだ。


だと言うのにそれを差し置いて、しかも当事者である俺がそんな発言をできるはずがない。


主役は俺達だ、そう決まっているんだ。では今からそれを、数々の競技によって証明して見せよう。


……今のは少し暑苦しいというか、柄にもないような発言だっただろうか?


まあ、そう思ったのならどうか忘れるか流してもらいたい。別に何と言うか、それは俺自身、興奮を隠し切れなかったというだけなんだから。

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