四十六話 三つの異質 2
罠に嵌められ、追い立てられるように走る俺達の前に与えられたのは、休憩のできそうな場所でもなければ宝箱でもなく。
その奥で俺達を待ち続けていた、ボスとの一戦だった。
加えて、何一つ準備する暇さえも無いままにだ……いや、それだけならばまだ良かったかもしれない。
でも、やっと休憩ができるかと思ったらいきなりボス戦というか、とにかくそのようにして『上げて落とされた』今の俺達には心の余裕さえもなかった。
だと言うのに、今回の相手は鮮血のような赤色をした大きなドラゴン……これが普段ボスを務める魔物なんかよりも、遥かに強敵であるのは一目見ればすぐにでも分かる。
……この状況で、しかもボスがドラゴン。俺達は無事、元の世界に戻る事が出来るんだろうか?
正直、胸中には不安しかなかった。
とは言え、未だ体調は戻らず。むしろそんな状態で走り続けたせいか、更に体力が削られたようにも感じていた今の俺にはどうする事もできず。
「本当に嫌な作りのダンジョンね、まさか一時の休憩もさせてくれないだなんて……いいえ、弱気な事ばかり言ってられないわ。
戦えるのは私だけなんだから……!! さあ、アナタ達は安全な場所に避難してて!! このドラゴンは私一人で何とかするわ!!」
今の俺にはただ、ダンジョンの片隅でララドーラさんを応援する事だけしかできなかったのである。
「さあ行くわよ!!『雷撃』!!」
流石、元魔王軍の幹部だけはある。
ララドーラさんは焦っていきなり距離を詰めたりはせず、冷静に遠距離から魔法での攻撃を続けている。
とは言え、相手のドラゴンにはその魔法が効いているかと言うと、それはイマイチのようだ。
その証拠に、ドラゴンはララドーラさんの攻撃に怯む事なく、当たり前のように口から炎を吐き出し応戦していた。
多分、アイツの鱗が分厚いせいであまりダメージが通らないのだろう。だとすれば一度武器を使って近距離で攻撃し、その鱗を一枚でも剥がせれば戦いを有利に進められるかもしれないな……
すると、ララドーラさんもそれに気付いたのか、数秒後に彼女は剣を前に突き出し、槍のようにしてドラゴンの懐目掛けて飛び込んで行った。
「…………クソッ!! コイツ無駄に硬いわね!!」
だがしかし、攻撃が当たるも鱗は微動だにせず、結果としてララドーラさんは反撃しようとしたドラゴンの攻撃を避けるため、今までよりも更に後退させられてしまう。
……失敗、か。
でも攻撃は命中しているし、当たり所も悪くなかったはずだ。それならどうして…………あ。
もしかするとララドーラさん、一息も付けずに連戦ばかりで疲れているのかもしれない。
いや、きっとそうだ。むしろそうでなければさっきの攻撃がノーダメージで終わった事への説明がつかない。
でも、そうなんだとしたら……最低でも一人、彼女と交代するための戦闘要員が必要となるのだが。
ここには俺と亜香里と、そして椿しかいない。
どうしたら、どうしたら良いんだ。畜生、こんな時俺が動けさえすれば……
「……!!」
その時、突如として俺の脳内に一つの妙案が浮かび上がった。
そうだ、ポーションだ。アレさえあれば戦えるはず。俺とした事が、今の今まですっかりと忘れてしまっていた。
……と、そこまで思い出せたのは良いが。肝心のポーションは今手元にはない。
戻れば幾つかは見つかるかもしれないが、問題はその道がもう塞がれてしまった後だと言う事だ。
……今、持ってたりしないよな?
まあ、自分自身の事なんて俺が一番よく分かっているんだから、絶対ないとは思うけど……でも、それが一つだけでもありさえすれば、ララドーラさんと一緒に戦えるんだ。
「よし、探そう!! それが最悪、このダンジョン内のまだ通れる道を隅々まで探してみるんだ……!!」
「えっ、きゅ、急にどうしたの、翔君……!?」
「な、何か失くしたりしちゃったとか?」
俺はそう言う亜香里と椿に返事もせぬまま、僅かな望みに賭けて荷物や服の中と、自身のありとあらゆる場所にポーションはないかと手で探った、探り続けた。
しかし、始めてものの数秒で俺はポーションではなく、結論を見つけ出してしまった。
『これ以上、身体の何処を探してもお目当ての品は見つからない』と……でも、早くしなければララドーラさんが危ない。
仕方がない、ここは二人に頼み込んで、別の場所にポーションがないか探してみ…………いや、待てよ。
あまり期待はできないが、亜香里か椿のどちらかが持っていたりはしないだろうか?
そう考えた俺は二人に漸く声を掛けた。
「なあ亜香里、椿、お前達ポーションを持ってたりしないか? 一つで良いんだ。もしあれば俺に譲って欲しい。そうすれば俺はララドーラさんと一緒に戦えるんだよ」
「え、ぽ、ポーションってあの、前に翔君が言ってた万能薬……みたいなモノの事? う〜ん、私は持ってないかなぁ……」
だがしかし、亜香里は残念ながら所持しておらず。
「ポーション?……えっと、ごめん市奈々井君、それって何だったっけ? 何かの飲み物とか?」
そして、椿に至っては存在すら忘れかけているという始末であった。
まあ二人にとっては馴染みの薄いものだ。むしろそんな反応で当然というくらいなんだけどな。
でも、やっぱりダメだったか……
「……あ、でも、さっきこんなのは見つけたけど?」




