四十五話 三つの異質
場所、というか石壁や床の質とか、雰囲気とかか。それに奥から伝わってくる、魔物達が床を這いずる物音、息遣い。
他には隅にちらりと見える宝箱……配置こそ多少違えど、全てよく見慣れたものだ。それがこのダンジョンというものであるのだから。
だがしかし、今回のそれにはたった一つ、いや三つ。ただそれだけの異質な存在があった。
そして、その三つの異質とは。
「翔君、動けそう?……まあどちらにせよ、ここは私が踏ん張らないとダメそうね……」
一つは緑髪をした元魔王軍の幹部。
「ま、また来ちゃったんだ……だけど、今回は翔君が……だ、大丈夫かな……」
もう一つはダンジョンを見回して震える、小動物のような幼馴染。
「だ、大丈夫! きっと大丈夫だよ亜香里ちゃん! そ、そうだよね市奈々井君? ララドーラさん? 大丈夫……だよね?」
最後の一つは、皆を励ましつつも動揺を隠しきれずにいる元ヤンキー(?)の女の子。
……全て、俺が巻き込んでしまったせいだ。
しかも、亜香里と椿はこれで二回目である。これも全部、俺がまた油断してしまっていたせいだ……二人、いやララドーラさんにも申し訳ない気持ちで一杯だし、できる事ならすぐにでも皆を元の世界に帰してやりたい。
例えばこう、俺がバッサバッサと魔物を薙ぎ倒し、その勢いでボスも退け速やかにこのダンジョンを攻略するとかして……と、言いたい所だが。
運の悪い事に未だ全快とはいかず、それどころかまだ俺は普段のように動く事すら叶わなかった。
だからまあ、今回ばかりはララドーラさんに頼る事になるかもしれない……彼女には悪いが。
「と、とにかくこうなったらもう仕方がないわ! 翔君を守りながら皆でこのダンジョンを攻略するのよ! さあ皆、ついて来て! 私が先陣を切るわ!」
「ラ、ララドーラさん……はい!」
「市奈々井君、立てそう? ほら、私と亜香里ちゃんが支えてあげるから、頑張って……!」
「ララドーラさん、二人共……ごめん」
しかし他にやりようが無く、俺は亜香里と椿が差し出した手に連れられるがまま歩くしかなかった。
「あ、何か落ちてる……けどこれって、え〜と……何だったけ? 忘れちゃった」
非戦闘員の二人に引きずられるように歩く、未だ本調子とは真逆を行く俺。
けれど思いの外、ダンジョンの攻略は順調に進んでいた。どれもこれも、それはララドーラさんが頑張ってくれているからだ。
いや、『思いの外』というのは誤りか。だってララドーラさんが意外と強いって言うのを俺が忘れていただけで、それは紛れもない事実なんだから。
……でも。
「あの、ララドーラさん……そろそろ休憩してはどうですか? 幸い、この辺りには魔物もいないみたいですし」
「そ、そうね、何だかちょっと疲れてしまって……い、いえ、皆も疲れてるみたいだからね!」
ララドーラさんは俺たちの様子を見て仕方なさげにそう言うも、それが空元気なのは一目瞭然だった。
負担を全て担ってくれているからこそなのだろう。それに、もしかすると日々のバイト疲れというのもあるのかもしれない。
それに加えて、やっぱりダンジョンの様子がおかしいというのも間違いなくあるだろう。
事実、魔物の配置やダンジョンの入り組み具合と言えば良いだろうか? とにかく、それが相変わらず少しいやらしく感じるし。正確に言えば、むしろ休息が取れそうなのは、今の所俺達のいるこの場くらいだった。
だから正直、心配ではあった。妙に、かつ嫌に静かなこの場所も、ダンジョンを作った何者かによる罠の類なのではないかと。
だがしかし、そうでもしなければララドーラさんが倒れてしまう可能性も捨て切れず。俺達に残された道、それは束の間の休息を取る事ただそれだけだった。
「ふぅ、やっと一息つけるわ…………ん?」
……だと言うのに、やはりそれは何者かの講じた策だった。俺達はソイツの掌の上で転がされているに過ぎなかったのだ。
「あ、あれ? 何だか……」
「天井が下がって来てない? それに……」
「うわっ!? 天井から突然トゲが……!!」
「……どうやら罠だったみたいね。とにかく皆!! すぐに移動するわよ!!」
とは言え、引き返せば道は完全に閉ざされてしまだろう。よって後方に戻る事は最早不可能。
そこで俺達は元来た道を戻る事はせず、ただひたすら前に向けて走った。
が、それすらも敵の策略であった。
だって、そうして前進を続けた俺達は準備どころか休む間も無く……いや、それだけならばまだ良かった。
でも、罠に嵌められた事で心の準備をする時間さえも与えられず、ボスのいる空間へと追いやられてしまったんだから。




