四十三話 不調 2
目が覚めると、そこは保健室だった。どうやら疲れが限界となり倒れてしまったらしい。
「おや、目が覚めたみたいだね」
そんな俺の寝かされているベッド脇には伊達先生がいて、俺の顔を覗き込んでいるのが見える。
「か、翔君!! 良かった……具合はどう?まだ動けそうにない?」
そして壁の隅にはもう一人、まるで棲家を失ったハムスターのように縮こまり、涙を流している亜香里の姿があった。多分、あの時からずっと亜香里は、俺の側に寄り添っていてくれたんだろう。
「亜香里……ありがとう、俺は大丈夫だからさ。だからほら、もう泣くなって」
「う、うん……でも、本当に良かった……!」
そこで俺は感謝の意を示そうと、近付いて来た亜香里の頭をわしゃわしゃと撫で回した。
……だがしかし、「もう大丈夫だ」なんて言ってみたものの、言うほど大丈夫ではないかもしれない。
事実、俺の身体はまるで石のように重く、動かせないとはいかないまでも、動作がし辛い事には違いなかった。
「そうか、大丈夫か。なら私も安心したよ……と、言いたい所なんだけど、市奈々井君。
悪いが、そんな状態の生徒をこのまま一人で帰らせる訳には行かなくてな。そこでご両親に連絡を取ってみたんだが、どちらもすぐにこちらへと向かうのが難しい距離にいるようでな。さて、どうしたものか……」
しかもその上、両親共に学校まで来るのが困難であるらしく、このままでは俺が学校に泊まるのがほぼ確定する恐れ(?)まであった。
……まあ、俺の親が来れないのは分かり切っていた事だし、それに学校に泊まるだなんて流石にないだろうけど。
もし仮に、そうなりそうになったら誰かしら先生が車で俺を家まで運んでくれるだろう……けど、だとしてもむしろそこからが問題だ。
いやまあ、自力で帰宅しなくても良い分遥かにマシなのだが、それでも家に着いてからは何をするにも一人だ。
これには、俺も伊達先生と全く同じ反応である。さて、どうしたものか……
「まあ、家には私が送っても良いんだが、その後が気掛かりだ。自宅でたった一人の時に、もしまた倒れてしまったりでもしたら……」
「……な、なら私が、私が翔君の看病をします!」
するとその時、亜香里がそう声を上げた。
「え……でも亜香里君、本当に可能なのかい? というか、まずそもそもとして君はこの市奈々井君とは友達という間柄以上でも以下でも……」
「だ、大丈夫です! わ、私達は幼馴染ですから! だ、だから、翔君のご両親も私なら任せてくれるでしょうし! そ、それに、こちらの家には私から連絡しておきますから! だ、だからお願いします! や、やらせて下さい!」
なるほど、確かに亜香里の言う通りではある。
俺と亜香里とは両者のみならず家族ぐるみでも仲が良い。そして当然ながら顔も知っている彼女にならば、ウチの両親はむしろ喜んでその役を任せるであろう。
もちろん、亜香里のご家族もだ。だから心配は要らない……という訳でもない。
というか、心配がどうとかではなく、そんな面倒事を押し付けてしまうというのが俺自身納得できないのだ。
でも、このままだとどうにもならないのは確実だろうし……でも、やっぱり亜香里にそのような役目を任せるだなんて、何だか申し訳なくて……
「あ、亜香里、気持ちは嬉しいけど、でも……」
八方塞がりだというのに心は未だ揺らぎ、俺は意を決した訳でもないのに、自力で解決できるのでもないのに。
ただ脊髄反射のように、亜香里の提案に断りを入れようとしていた。
そんな事をした所で、どうにかなるはずもないというのにだ。だって、俺を迎えに来てくれる大人なんて誰も…………いや、待てよ?
「あ……ちょっと待って。一人いるかも」
「え?……か、翔君、一人って誰の事?」
「俺を迎えに来て、看病してくれる大人」
ちなみに言うとそれは、あのゲームばかりしている女神様の事などでは決してない。




