四十二話 不調
体育祭まで後三日…………なのだが。
何だか調子が上がらず、俺は今まで以上にのし掛かる肉体、精神どちらもの疲労感に苦しめられる日々が続いていた。
まあ単純に言えば、体調が悪いの一言だった。ちなみに言うと、それは保健室に行ったあの日からではあるが……まあ関係は無いと思う。
とにかく、あの日から何故だか不調が続いているのが事実というだけだ。
と、それだけならばまだ良いのだが、最近は生成されるダンジョンの方も何かおかしいような気がする。
何だか、様子が変わったと言うかだな……いや、もっとこと細かく言えば、最近のダンジョンは。
単に魔物の強さなんかよりも、より内部の方に力を入れているとか、複雑さが増している等々。そちらの方面に違和感を覚えるような、とにかくそんな気がするんだ。
……もしや、ララドーラさんがいなくなった事で製作者が変わったとかか?
いやでも、今までのダンジョンだって全部あの人が作っていたとかそういう訳ではないだろうし、流石に俺の考え過ぎか。
(直接聞いた訳ではないので多分ではあるが)
ああ、きっとそうだ。恐らく、体調が悪いせいで何もかも不調となり、それによって色々な事がおかしく見えてきてしまうんだと思う。
けど、別に熱があるとかそういう訳でもないし。死にそうって程でもないから、早く治ると良いんだけどな……
また、保健室にでも行ってみようか。今度こそ不調ないち生徒として。
という事で保健室に行き伊達先生に診てもらいはしたが、結果は『特に何の問題もナシ、単に疲れが溜まっているのでは?』というものであった。
なので残念ながら何の処置も治療もしてはいない……にも関わらずむしろというか、また一段と具合が悪くなったような気がするのは気のせいだろうか?
いやいや、流石にこれも考え過ぎによるものだろうな。というか、もしかすると〝アレ〟が原因かもしれない。
一応言っておくと、その〝アレ〟というのはだな。
実は、クラス対抗リレーの走者であった生徒の一人が練習中に怪我をしてしまったらしく。あれよあれよと言う間に推薦され、それが通り。
そして、その代役を俺が務める事になってしまったんだ。
……正直、それならそれで頑張るつもりではあるし、本音を言えば誇らしくすらあった。
でも今じゃないんだ。今はタイミングが悪過ぎる……そう、不調である今の俺にとってそれは、死刑宣告にも等しいものであった。
ただもちろん、それを聞いた亜香里は応援してくれたし、椿も「じゃあ私も応援しに行くね! 必ず!」などと言って喜んでくれたから、精一杯やり切る努力はしようと思っている。
けど、本当に大丈夫だろうか……こうなったらもう、一日だけでも学校を休ませてもらおうかなぁ……
とは言え、簡単に嘘を吐けるタイプでもない俺は、不調の中でも変わらずに登校を、そして体育祭に向けた練習を続けていた。
授業も漸く終わり、今は放課後の練習タイムである。ちなみに言うと、今日の練習は大縄跳びだ。
皆で息を合わせ、次にタイミング良くジャンプをする。
口で言うのは簡単だが、これがなかなか難しい……それに。
相変わらず体調が優れないがために、その難易度はより高いものとなってしまっていた。
でも、止める訳にはいかない。ここで俺が根を上げてしまえばクラスメイト達全員の士気が下がってしまうだろうし、まずそもそもとして、俺自身の上達の機会をまた一つ失ってしまう。
またそれに加えて、亜香里も遠くで見守っている事だしな。という事で、俺は迫り来る麻縄を何度も何度も避け続けていた。
十、十一、十二、回数を重ねるたびに冷や汗が頬を伝い、心臓が跳ねる。例えそれが二桁を越えたばかりであっても、俺にとっては過酷を極めていた。
だがしかし、まだまだ縄の動きも、クラスメイト達の足も止まる気配は無い……俺も頑張らなくては。
十七、十八、十九、よし、後もう少しで二十回目だ……なんて、思っていた時。
「あ、ああっ!! か、翔君!!」
視界が揺らぎ、こちらもまた蜃気楼のようにその姿を朧げにさせる亜香里が、何故だか俺の元へと駆け寄って来るのが見えた。
そして今度は縄が止まり、生徒達の視線が俺へと集中する……だがそれもそのはず、縄の動きを封じてしまったのは、この俺であるのだから。
そうか、俺はもう動けなくなって。それで今、倒れそうに…………
そこで俺の意識は途絶えた。




