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四十話 保健室

もう幾つか寝ると体育祭。俺が内心楽しみにしているイベント、体育祭だ。


だがしかし、それまでの日々は何だか過酷なものになりそうな、そんな予感がしていた。


何せ、突然生成されるダンジョンの攻略と、体育祭に向けた競技の練習、そのどちらもをこなさなければならず。開催までまだ一週間もあると言うのに、俺はそんな日常に早くも疲れを感じてしまっていたからだ。


ちなみに、俺が出るのは全員参加の綱引き、応援合戦という名のダンス、それと(男子)全員参加の騎馬戦と、高校生にしては珍しくまだ存在している大縄跳び等々。


という、計四つの種目である。まあ正直、俺は力を使うような種目よりは、どちらかと言えば走る方が得意ではあるんだけど。


でも、クラス対抗のリレーに出るほど足が早い訳では……いや失礼、正直に言おう。


体育祭で最も人気な競技と呼んでも過言ではないリレーのメンバーだなんて、恐れ多くて立候補できなかっただけだ。


とは言え、目立つのはあまり好みではないので実際の所は半々というか……とにかくまあ、今となってはどちらでも良い、何でも良かったのではないかというのが本音だ。


特に今のままだと、どんなに目立とうがそれは『悪目立ち』になってしまいそうだからな……




さて、今日も学校が終わった。だがしかし直帰という訳にはいかない。


もう何となく分かるかもしれないが、体育祭に向けた各種競技の練習が放課後に行われるからだ。


とは言え、今日はダンスの練習なのでそこまで体力の消費を気にせずに済みそう……と、思っていたのだが。


残念ながら、その直前に生成されたダンジョンを速攻で攻略しなければならなかったので、正直体力ではもちろん、精神の面でも割と限界である。


しかもその上、運の悪い事に体操着のままの攻略だったので服がボロボロになってしまった。


まあ、放課後の皆がいなくなった合間にダンジョンが生成されたというのだけは唯一の救いだが、でもその結果がこのザマだ、何も言われなければ良いが……


「…………ん? もしかして亜香里か?」


すると突然にも向けられた、いや、向けられたの〝かもしれない〟、何者かの視線を感じて俺は振り向く。


しかし、廊下の奥には予想した亜香里の姿はもちろんとして、他生徒の影も一つとして見当たらなかった。


……まただ。またこれだ。


俺へと向けられる視線。まだ確実な証拠はないものの、それは確かにある、誰かが俺を見ている……そんな気がするんだ。


そしてもう一つ、何も分からない中でも気付いた事がある。それは、何処かから俺を見ているソイツは少なくとも亜香里ではないというものだ。


だって、よくよく考えてみれば亜香里はそんな事をしないだろうし。というか、そこにいるのが俺だと気が付けば、アイツはすぐにでも近付いて来るからだ。


これもまた証拠はないが、幼馴染の俺なら分かる。でも、それならば一体誰が……と、謎は深まるばかりだ。


もしや、校内に未だ無数にいるであろう、俺を恐れている生徒のうちの一人か?


それとも、まだヤンキーの誰かが、弟子入りかお礼参りかは分からないがとにかく、何かしらの理由で俺を付け狙っているのか?


……何も、起こらなければ良いんだけど。


「あっ! 市奈々井君こんな所にいたの……って、大丈夫!? その服ボロボロじゃない!? 怪我したの!? と、とにかく、保健室に行こう!?」


なんて言っていたにも関わず、早々に事が起きてしまった。


まあ、それはまた別のというか、予想外の所というか……簡単に言えば俺の懸念していた事などではなく、他の生徒達にダンジョン攻略後のこのボロボロな姿を見られてしまったというだけであり。


尚且つ、それくらいなら無問題なのだが。


「い、いや大丈夫だよ、確かに服はところどころ破れてるけど怪我は一つも……って、ちょ! ほ、本当に大丈夫だから! ま、まずは話を聞いて……!」


とはいえ、どうやら面倒事には変わりないらしく。


俺は言い訳の隙すらも与えられないまま、他の生徒達に腕を引かれて保健室へと向かう事となるのだった。




……まあ、怖がられるよりはよっぽどマシだし。まずそもそもとして、これはむしろ感謝しなければならない出来事と言えるだろう。


「じゃあ市奈々井君、あとは先生の言う事をちゃんと聞いて安静にしてるんだよ? 」


「あ、それと放課後の練習の事は心配しないで! 私達から皆には言っておくからさ!」


俺を心配するあまりにこちらの発言を全て無視し、そして保健室に押し込んだ二人の女子生徒達はそれだけを言うとすぐに去って行った。


まあ去るというか、競技の練習に向かったのだろう。ただ、それが分かっているだけに何とも心苦しい。


だって、他の者達は皆協力し合って今日も技術を磨いているというのに。服がボロボロというだけの無傷の俺はただ一人それに参加もせず、こんな所でじっとしているんだから。


……もういっその事、さっさとここを抜け出して練習に参加でもしてしまおうか?


「もう大丈夫! 怪我も何にもなかったからさ!」なんて言って……でも、それでも良いように思う。


だって俺、本当の本当に無傷だし。というか、にも関わず保健室に来るという方が問題な気がする。


それで誰かに喧嘩か何かしたのではないかとウワサされてしまったり、イジメを疑われてしまう方がもっともっと大問題だ、少なくとも俺にとっては。


うん、確かにその通り……よし、じゃあ保健室なんてすぐに出て皆と練習を始めるとしよう。幸い、今は俺以外誰もいない事だしな。


そうして俺はこっそりと、無人の保健室を抜け出すために立ち上がった……

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