三十九話 体育祭
……それからまた数日が過ぎた。
特に何も変わらない平凡な日々だ。ダンジョン攻略こそあれど、(ごく一部の)生徒達とは相変わらず良好な関係を築けているし、女神様……はもう良いとしても、ララドーラの存在にも段々と慣れてきたし。
とは言え、僅かな変化も見受けられた。
まず一つとして、自分で言うのもアレだが俺からララドーラへの評価がめちゃくちゃ上がったという事だ。
いや失礼、最近ではララドーラ〝さん〟と呼んでいるんだった。
だって、あの人居候だからって家事もしてくれるし、それに生活費も入れるとか言って近くのコンビニでバイトまで始めたんだ。
「ええと、確かこれは、ポーションだったかしら? あ、違う! 栄養ドリンクね!……じゃなくて、栄養ドリンクが一点ですね!
失礼しました!……でも、ポーションの方がもっと早く元気になれると思うんだけれど……え? じゃあそれを出してくれって?
ああ、いや、それは商品じゃなくて……と、とにかく! 何でもないわ! じゃなくて、何でもありません! 失礼しました!」
ただ、一度見に行った時はこちらの世界にまだ慣れていないのか、それとも人見知りだからなのかこんな感じだったんだけど……
でも家事は何でもこなせるというか、あの人は意外と要領が良いからきっとそのうち完璧にこなせるようになると思う。
本当にありがたい事だ……が、何と言うか、その。
実を言うと、ララドーラさんが想像以上に良い人過ぎて、魔王やら何やらについての情報を聞き出しにくいというか、事実として聞けていないというのだけが困りものではある。
とは言え、そうした所でいきなり戦えると言う訳でもなさそうだし(多分)、だから聞けるタイミングがあればその時で良いと、正直今の俺は思っている。
いや本当に、そう思えるくらいララドーラさんにはお世話になっているからな……けど、一方で姉の女神様はというと。
「ああもうっ!! もうこうなったら〝暴れ〟しかないわね!! それでここから形成を逆転させるわ!!
でも、私のキャラの暴れはしゃがみ弱パンくらいしかないし……フフフ、何て言うと思った?
甘い!! 甘過ぎるわ!! それを読んで下段ガードした所にこそ、今だから敢えてやる中段大フレームのこの攻撃がクリーンヒットするのよ!! さあ、悪いけどこのままコンボに繋げさせてもらうわ!! 勝つのは私よ!!」
献身的な妹さんと比べて酷いと言うか、それが常というか……はぁ、全くもう。
じゃなくて、いつも通りブツブツブツブツとよく分からない事を言いながら、ずっと我が家に入り浸ってはゲームに明け暮れている。
ちなみに最近では心なしか……いや、ララドーラさんが気になるのもあるんだろう。我が家に不法侵入する頻度が今まで以上に増えたような気がする。
まあ、だとしてもそれはいつもの事でしかないので放っておくとして……
二つ目の変化、それは俺が他の生徒達に何と言うかこう……揶揄われるようになってしまったという事だ。
いや別に、嫌なのにイジられてるとか、皆段々慣れてきて扱いが悪くなったとかそういうのじゃない。
実は、椿といる所を運悪く他の生徒、しかも俺と話す方の生徒の誰かに目撃されてしまったらしく。
それで、「最近彼女とはどうなの?」、「どこまでいったの?」だの何だのと言われるような形でイジられてしまっているという訳だ。
……まあでも、椿とのツーショットを発見されたと知った直後は。
『あぁ……!! またヤンキー達とツルんでるとか言われて怖がられたらどうしよう……!!』とか、そのような心配しかしていなかったので。
要するに、そうでなくてむしろ良かったというか、内心ホッとしているというのが本音なので正直これはどうでも良いと俺は思っている。
ただし、それと引き換えるかのようにして、最近亜香里の様子がおかしいのが気掛かりではある……と、言うのも。
何だか近頃の亜香里は、いつも少しだけ寂しそうにしているというか。
本人だと断定できる証拠はないので多分だけれども、時たま背後から視線を向けたりしている事があるんだ。
とは言え理由が分からないので、それはまた今度直接本人に聞いてみようと思う。
まあ、最近はそんな感じで……ああ、最後にもう一つ。
変化というか日々を彩るというか、とにかくそんなようなイベントが控えているんだった。
それは、間近に迫った体育祭の事である。
体育祭。
それは体力、もしくは幾つかの競技に自信のある者は嬉々と、そうでない者は憂鬱にその日を待つという、もちろん我が校でも行われる伝統行事とも呼べるようなものだ。
ちなみに言うと俺はまあ、その中間くらいに位置している。
体力にはそこそこ自信があるし、あの空気感はどちらかと言えば好きな方ではあるものの。
残念ながら俺の評価は絶賛低空飛行中のため、周囲の熱気に馴染めないどころか、最悪の場合冷まし切ってしまう恐れがあるからだ。
……が、それは最早過去の話。
今の俺には視線を合わせてくれるだけでなく、声まで掛けてくれる良き学友達がいるんだ。ごく少数ではあるが。
でも、数なんて気にしない。俺はこの仲間達と、今回こそ最高の体育祭を過ごしてみせよう!
なんて、恥ずかしながら最近の俺は例年よりも少し、いや正直に言えば結構、このイベントを内心楽しみにしているのである。




