三十七話 再会
……俺がトイレに行こうと席を外した丁度その時、店外にダンジョンが生成されたせいで、ほんの少しだけ邪魔されてしまったけれど。
(まあ、今にして思えばむしろ良いタイミングだったし、今回は良しとする)
とにかく、あれやこれやと言ってしまったが、椿とのデート(?)は今日も楽しかった。
でも流石に、店の中で色々なアクションをしてくるのには相変わらずちょっと困る。
例えば四人掛けの席なのに隣に座って来るとか、たまに机の下で手を繋ごうとするとか……でも。
『あの素直な椿が何故こんな真似をするようになったのか』と、考えれば考えるほどに。
それは、あの一般人にとっては大事件であろう、例のダンジョン生成という一件があったからというか。
そこで吊り橋効果みたいなものが出てしまったからこそ、また純粋な椿でもあるからこそ。それを俺への好意と勘違いしてしまっているんじゃないかと、どうしてもそう思えてきてしまう自分がいる。
まあ、だとしてもそれは紛れもない好意そのものなのかもしれないけど。でも、その好意がわざとではないとしても、巻き込んでしまった俺に向けられているというのがちょっと引っ掛かる。
何だか、椿を騙しているみたいで……なら、また次に会った時にでも話してみようか。
俺はズルをしてお前の心を射止めてしまっただけで、別に尊敬とか、好意を向けられるほどの人間なんかじゃないと。
ただ、今日だけは黙っているとしよう。何だかその話を今してしまったら、椿が何処かに消えてしまいそうな、そんな気がする。
というか、俺自身がそんな気にさせられてしまうと思うから。
という事で、今日はそろそろお別れの時間だ。
喫茶店を後にした俺達は、そこから三つほど交差点を跨いだ先にある三叉路を目指し歩いていた。
その場所こそが、俺と椿を分かつ分岐点なのだから。
「そろそろお別れだね、ちょっと寂しいな……ねえ、やっぱりこれから市奈々井君の家にお邪魔しても良いかな?」
でも、そんな事を言っている場合じゃないみたいだ。椿は何やら意味ありげに眉尻を下げてそう言い、自身の手を俺の手に絡ませようとしてくる。
こんな所を他の生徒達に見られては大変だ。
彼女は未だ周囲からは完全に『ヤンキー達の一員』と認識されているため、そんな人物と接触していると知れれば……もう、言わなくても分かるだろう。
そう、ほんのりと上昇した俺の好感度がまた下がってしまう、かもしれないんだから。
そこで、俺が下した結論は。
「俺の家何にもないし、それにまた女神様がいるかもよ? まあ、それでも良いなら俺は別に良いけど……」
そうだ。来るなら来る。来ないなら来ない。その決断をさっさと椿にしてもらうため、早速そう質問する事であった。
「全然良いよ! よし、じゃあ決まり! 早く行こ行こ!」
すると、椿の返答は即決でOK。という事ですぐに俺の家へと向かうのが決まった。
そうして椿は俺の腕に絡み付き、俺はそんな彼女をなるべく早く移動させようと引っ張り気味に、二人揃って歩き始める。
……まあ、今思えばそれ以降の下校途中では何もなかったので、流石にやり過ぎというか、俺の判断、懸念は杞憂に過ぎなかったんだけど。
でも問題はそれより後、俺の家に辿り着く直前に起きた。
「ね、ねえ市奈々井君、あそこに何か、すっごいクオリティの高いコスプレした人がいるように見えるけど……気のせいかな? っていうか、あの人が立ってる所の家ってもしかして……」
「ああ……あれは間違いなく俺の家だな」
帰宅直前に起きた問題、それは妙な来訪者である。
そしてその人物とは……いや、俺達の会話からもう分かるかもしれないが、それはララドーラだった。
遠目に見えるあの記憶に残る緑髪と、この世界ではまず見かけない例のファッションが如実にそれを物語っている……は、良いとして。
彼女がそんな所にいる意味が全く理解できず、俺は椿の横でまるで石のように固まってしまっていた。
何せ、アイツはこの世界の人間じゃないし。というか、まずそもそもとして俺の家に来る意味が分からなかったからだ。
俺とララドーラとは知り合いでもなければ、ましてや友人でも何でもないのだから。
……もしや、この前のリベンジをしに来たのか? とは一瞬思ったが、多分そんな事はないはずだ。
だって、もしそうなのだとしても、自分が復讐したい相手の家なんかに直接行くのはもちろん、そこで待ってなんていられるはずないだろう?
俺がその立場だったら絶対に不意打ちか、正面切って勝負を仕掛けるにしても何処かに呼び出したりすると思う……まあ、だからこそ余計理解に苦しんでいるのだが。
「あっ、あの人、こっち見たね」
「あ……」
しかし、思考する石像に変幻(?)したのは悪手だったようだ。
俺がそうしている間に、ララドーラに気付かれてしまったらしく。
俺達がいる事を知った途端、そんな彼女はのろのろとした歩調でこちらへと接近を始めてしまうのだった。




