三十五話 あれから……
……それからはまあ、予想通り大変だった。
ララドーラが負けを認めた直後、ダンジョンが消え始め、そして最後には完全に消滅し。
つまり、俺は他の生徒も含めて全員無事に元いた場所に帰還できたのだが。
やはりと言うべきか、他から見た俺達は『防災訓練の途中で忽然と姿を消した一部の生徒達』に見えていたらしく。
帰って来た者達の友人は大騒ぎするわ、先生は大慌てするわ。
「か、翔君!! 翔君〜!! わ、私翔君が突然いなくなったから、心配で心配で……!!」
あ、あと亜香里はそう言って俺に飛び付いてくるわで、とにかく色々と大変で仕方がなかった。
まあ、直後に俺が何度もかつ声高らかに主張した「さっきのは集団幻覚だ! つまり気のせいだ!」というのがどうにか通ったので何とか事なきを得たが、それでも疲れてしまったのは変えようがない事実である。
とはいえ、彼等&亜香里のお陰で助かったのもまた事実だ。
「亜香里……ありがとう、全部お前の、いや、お前達のお陰だよ。本当に助かった……!」
「きゃっ!? か、翔君? よ、よく分からないけど、く、苦しいよ……!」
だから俺は亜香里を抱き締め、相変わらず俺に恐怖する他の生徒達に普段よりほんの少しだけ暖かい視線を送る事で感謝の意を示したんだ。
ただ、それがガンを飛ばしていると勘違いされて、亜香里以外の者達にはまた一段と怖がられてしまっていたのにはもう少し後になってから気付くのだが。
ララドーラの出現、皆をも巻き込んだダンジョンの生成。そんな苦労ばかりの防災訓練から数日が過ぎた。
ちなみに、今は学校が終わりその下校途中である。
「あ、市奈々井君! この辺りに最近喫茶店ができたらしいんだけど、良かったら一緒に行かない?」
「ご、ごめん、今日は用事があるから……」
「市奈々井君、今一人? それなら私達と一緒に帰ろうよ!」
「わ、悪い、俺今日は用事があるんだ……」
「市奈々井さんお疲れ様です! 良ければお荷物お持ちしますよ! それで、良ければ俺を弟子に……」
「ありがたいけど遠慮しておくよ……っていうか、君はこの前のヤンキー……じゃなくて、この前も来た他の学校の生徒だろ? 悪いけど俺そーゆうのやってないからさ、だから君も早く足を洗った方が良いよ……」
もう一つちなみに言うと、今のは俺と他生徒との会話である。最後のヤツ以外は。
またそこからも分かるかもしれないが、あれから少し俺の身に、というか、俺の身の回りには変化が起こっていた。
どうやら、あの防災訓練の時のダンジョン攻略……それをどうにも夢と信じられない者達がまだ残っているらしく。
そして、そんな者達が皆口々に俺に助けられたと話している事によって、俺は自分で言うのもアレだが、一部の生徒達から慕われているようなのだ。
……まあ、それもほんのごく一部というか、一人握りの本当に僅かな者達だけの話ではあるんだけど。
でもまあ、そこまで悪い気分じゃない……いや、違うな。
俺はあまり、他の生徒達からは『普通に接してもらう』という経験が少なかったから、持ち上げられるのがとかじゃなくて、普通に話し掛けてくれるっていうただそこだけが嬉しかったんだと思う。
例えそれが、ちょっとやり過ぎなんだとしても。でもそう考えると、俺って寂しい奴だな……
なんて、自虐を交えた思考を続けるうち、もう少しで家という所までやって来た。
そこからも分かるように、他生徒達にはああ言ったが実の所今日は用事なんて何もない。
まあ、嘘を吐いたという罪悪感が無いと言えばそれもまた嘘になってしまうが、彼等をダンジョンから守るための口実なんだから仕方がない。
とにかく、そういう事なんだ。
だからもう間も無く、用事なんて皆無の俺はそのまま家に辿り着いて扉を開け、そして二人分の夕食を用意してまた女神様のゲームを観戦させられるのだろう……
「ああもうっ!! その壁コンボやめなさいよ!! そんなの見せられたら後退し辛いじゃないの!!」
ああでも、何かそんなような事を言いながら昨日もゲームしてたし、もしかすると今日は来てないかもしれないな。
まあ、もう何でも良いや。さっさと帰ろう……
「おっ市奈々井君、今日は一人なんだね」
すると突然、色々と考えていた俺に声を掛ける者があった。




