二十八話 防災訓練
放課後もヤンキー達に纏わりつかれそうになったため。普通に嫌なの兼、亜香里をコイツらと接触させないためにだいぶ遠回りして帰った。
そうして、やっと家路に着いたかと思うと。何と我が家の前に女子が一人……俺が身を案じていた張本人である亜香里が立っていた。
「ん、亜香里? どうしたんだこんな所で? もしかして、この前家に来た時に忘れ物でもした?」
「う、ううん! そういう訳じゃないの! た、ただその、翔君に渡しておきたいものがあって……こ、これ、良かったら受け取ってもらえる?」
「え? これを、俺に?」
俺を見つけた途端ぴょこぴょこと、まるで主人の元へと急ぐ毛並みの良い子犬のように近付いて来た亜香里はそう言って俺にあるモノを手渡してきた。
「う、うん! か、翔君はいつも、ダンジョン攻略で大変だっていうのに……わ、私には、何もできないから……だ、だからせめて、これをお守り代わりとして、持っていてもらいたくて……な、なんて、本物のお守りでもないのに、迷惑かな……?」
「そ、そんな事ないさ! っていうか、そこまで気にしなくても良いんだぞ? 原因が亜香里にあるって訳じゃないんだからさ……でも、ありがとう、大切にするよ。だけど、これって何? 剣の……」
「そ、そう! 毛糸で作った剣だよ! 翔君、あの時ダンジョンで使ってたから……手編みで作ってみたの!」
そして、そのあるモノとは……小さな剣の、ぬいぐるみのようなものだ。
あ、いや、無機物ってぬいぐるみと呼んでも良いんだろうか? でも、違うとしたら何だ?
……まあ良いや、とにかくコレを俺は『剣ぐるみ』と名付け、そう呼ぶ事としよう。
そしてもちろん、大切にもするつもりだ。せっかく亜香里がこうして俺のために作ってくれたのだから。
という事で俺は、亜香里に礼を言って剣ぐるみを受け取り、しっかりとそれを胸ポケットに収め入れた。
で、そのお返しとして、亜香里を家に招いてお菓子の一つでも(むしろそれくらいしか出せないのだが)出そうとしたのだが……
「じゃ、じゃあ用事はそれだけだから、またね翔君! あ、明日は一緒に帰れるといいね! それじゃあ!」
亜香里はそう言うとすぐに、またぴょこぴょこと逃げ出す小動物のようにして立ち去ってしまった。
……まあ、亜香里の事は下手な友人よりも深く知っていると自負している。だから亜香里がそう言うならそうなんだろう。
要するに、アイツの用事は本当にただそれだけで、それ以上もそれ以下も他には何の意もなく。それが終わったから帰っただけという事だな。
なら逆に、そのためだけに来てくれた事にも感謝して、今日は家でゆっくり過ごすとしようか。
俺は幼馴染みという名の小動物を見送り、家に入って自室の扉を開けた。
「クソッ! 段々相手が強くなって来てるわね……!! コンボの合間にもう一発パンチを入れられて、壁に運ばれちゃったわ……!! あ、翔君おかえり〜」
すると、また不法侵入していた女神様の背中と、帰宅の挨拶が俺を待っていた……
「……確かに、〝こんなの〟いたら気まずくなるだけだろうし、亜香里は家に入らなくて正解だったかもな」
「え? 翔君、何か言った?」
「いや、何も」
そして、俺はそう呟くのだった。
まあ別に、女神様がウチに入り浸っているのはいつもの事だからもう何も思わない。
さて、そんなのはさておき翌日、今日は防災訓練の当日だ……何も起こらなければ良いが。
「アニキ、学校までお供させて下さい!」
「あ、いや結構です。そういうの本当、間に合ってますんで……」
そうして、俺はもうすっかり慣れてしまったヤンキー達の付き纏いを躱しながら学校へ急いだ。
さっきも言ったが今日はクソイベの当日だ。
そして、そんなものを控えた学校の、というか同級生やクラスメイト達の様子はと言うと……
別に、何という事もなかった。
一応もう少し細かく伝えるとしても、学生諸君の様子や雰囲気には微塵も変化を感じられない。
まあ、彼等にとってはイベントどころか、そうだとすら感じていない者さえいるはず。
というか、本来我々平和ボケした若人にとって防災訓練とはそのようなものに過ぎないのだ。なのでそうなるのも、ある種当然と言えるだろう。
……俺だけが、そうでないというだけでな。
そう、少し前にヤンキー達との大喧嘩を繰り広げ。昨日は昨日で、そんな連中に色々な意味で囲まれていたこの俺にとって防災訓練とは、過ぎ去るだけの普通の日々とは決して言えないのである……
事実、評価が上がったのではなく恐怖からそうしているのだろう。近くの席のクラスメイト達は俺に「お、おはようございます!」なんて敬語で挨拶して来る者もいれば。
これもまた俺を恐れる気持ちからの行動なのであろう、ガッツリと距離を取る者さえいたのだから。
あーあ、やはり昨日の一件が校内というか、少なくとも俺の周りにまで悪影響を及ぼしてしまっている。むしろそうでないのならば、この現状をどう説明すれば良いのか分からない。
やっぱり、こういうイベントは……いや他のものでも、もう少し後にして欲しかったなぁ……
席に着いて俺が最初にした行動は、ため息を一つ吐き出すというものであった。




